地球 ・ラナリア最終決戦6
「クァーッハッハッハ」
「楽しい高笑いだなレウコクローン」
「ハッ!?」
ぎりぎりで玉座から転がり逃げるレウコクローン。
一瞬遅れ彼女の首があった場所に二連の刃が突き刺さる。
「聖龍華ッ」
「言った筈だ。私の血を使った以上貴様らシクタは壊滅させると」
「クハハ、もう遅いと言った筈だ」
「遅くは無い。今からでも駆逐するだけだ。時間は沢山あるからな」
「そうです。レウコクローン。貴女を倒します!」
フロシュエルがホーリーアローを唱える。
「これはヤバい。戦意喪失させるつもりが……っ」
即座に避けつつ走りだすレウコクローン。その向かう先は入口からは右側の壁。
「逃さんッ」
「リュミー。シシー。レウコクローンは寄生生物です。油断すると体内に侵入されますから防壁を張って防いでいて!」
「は、はいお!」
「なんか面倒そうだね。シシーもちょぉっと手伝うよー」
その第三の眼からビームが迸る。
逃げるレウコクローンに迫る光の筋。
「くぅっ」
「お前が直接出向いての肉体逃走。随分とおかしな話だ。何を考えているレウコクローン」
避けた先に龍華の刃。
避けきれずレウコクローンの首が舞う。
「……ふふ、やったな。不死者め。これで城内真一の願いは永遠に断たれた」
「っ!? どういう……」
「それは……おい、待て……奴は何処だ?」
「は? 奴とは何のことだレウコクローン。逃す気は無いぞ?」
「あれ? 龍華師匠、アンさんがいませんよ!?」
「何っ!?」
首だけとなったレウコクローンにトドメを刺そうとした龍華。フロシュエルの言葉に思わず周囲を見回す。確かにアンの姿がない。
「おかしいな。動作を止めたのでは……しまった!」
はっと我に返った時には既にレウコクローンが潜んでいた朧月絵麗奈の遺体しかなかった。
「ああ、すいません龍華師匠」
「いや、異変に気付いたのは良い判断だ。アンが居なくなった理由が分かればなお良かったが。とりあえず全員床から浮かんでおけ。奴が付いている可能性がある。悪いがフロシュエル。熱波で私を包んでから持ち上げてくれないか? 服の中に奴が潜んでいたりしても焼き殺せる」
「あ、はい」
龍華を焼却してから持ち上げる。龍華自体は再生するのでそのまま彼らは部屋を探索して逃げたレウコクローンを探すのだった。
プシュー、ガション。
蒸気を漏らし、カプセル型の装置の扉が開く。
そこから全裸の少女が現れた。
近くに居たインペリアが一人、服を持って待っていた。
女は服を奪い取りさっと着替える。
目が芋虫形に膨れ上がったその女は、ふぅと息を吐くと周囲を見回した。
「これで人としての復讐は達したぞレウコクロリディウム。後は貴様のクローンとして生み出された私なりに自由にやらせて貰う。貴様が目指したのは平和な管理世界だったようだが、私は違う。正義の味方や秘密結社に代わり妖に憑かれた者たちの混沌世界がこの世界の常道になるのさ。なれど、人は変わらん。いつも通りに日常を送るだけの愚かな存在さ。管理などしてやらん、守るモノも脅威も無くなった世界で、きっと人間はまた脅威と守るモノを自ら作り出す。それが人というものだ。さぁ始めよう新世界。覚醒はまだ先だが、既に種は放たれた。あとは時が来るまで雲隠れするのみ。一足先に妖研究所に行っておくぞどうもこうも。ではなインペリア、後は任せる」
最後に横に侍っていたインペリアに一言告げて、彼女は歩き出す。
もはや勝利したと言ってよかった。正義の味方も悪の怪人も居ない、天使も悪魔も向こう百年は出ては来れまい。
何かしらの理由で出現は早まったり遅まったり、小さな穴から小型の悪魔くらいはでてくるかもしれないが、今まで程の非日常はまず起こらない。
完全に人間たちだけの世界になった。
力に目覚めた者は妖能力を持たないモノのみ転移されるようにしたままだ。
これでこの世界に残る秘密結社はシクタのみ。正義の味方もいはしないのだ。だから……
だから……
「なぜ……動ける?」
薄暗がりの通路の先に、一人の女が立っていた。
仮面を付けたダンサー衣装の正義の味方。
本体が転移で無くなったために稼働出来なくなった筈の……
「やぁ、待ってたよレウコクローン。絵麗奈さんをよくもまぁやってくれたね。腸が煮えくりかえりそうだ」
「あはは。レウちゃんどうする? クローンでてきたよー。お母さんを殺した犯人でいいのかな? ブッコロ案件でいいの?」
アンの背後から二人の男女。
一人は黒髪のマッドサイエンティストにしか見えない男。メガネに白衣の男はニタリと笑みを浮かべていた。
もう一人は同じレウコクロリディウムのクローンの一人、否、本体の思考回路のまま異世界に飛んだことで本体と切り離された自我に目覚めたもう一人のレウコクロリディウム。
そのレウをマスコットキャラと言い張っていた、この世界に居なくなった筈の超人、城内茉莉。
「……なぜ?」
「君の計画はすでにレウから聞いていた。君が奪い取ったと思っていた絵麗奈さんの身体も、私が作ったホムンクルスだよ。本体は別だ」
「な、なに?」
「すでに分かっていた計画だ。発動前に手を打っていたに決まっているだろう? 妖研究所は放置する。これからの機構を破壊するといろいろと面倒そうだからな。馬鹿の方に運営は任せよう。でも君は駄目だ」
「嘘だ……嘘だッ!? こんな……こんなバカなっ」
「諦めろレウコクローン。本体からの密告で貴様は既に詰んでいる。貴様の正義の味方、怪人の長期時間跳躍は私もドクターも丁度良いので便乗しておいた。仮面ダンサーたちには事前に伝えて向こうでの指揮を任せて送り出している。まさか未来に送りだすとはな、やってくれる」
動く仮面ダンサーアン、居る筈の無い城内真一、そして異世界に居る筈の茉莉を前に、レウコクローンの思考が停止した。




