神々の経過報告4
マズいマズいマズいっ。
目の前のノートパソコンを高速で打ち込みながら、桃栗マロンは焦っていた。
パソコン画面に映るのは地球である。
12に別れた画面には今、ラナリア内部が3画面、他の場所が9画面映っている。その9画面が問題だった。
正義の味方が、悪の怪人が、一人、また一人と消えている。
必死に抵抗しようと他の神々の力も借りて解析しているが地球に展開された魔法陣を駆逐できない。
解析すらも許さない魔法陣により、超常軌的存在が次々と消えているのだ。
「あああ、消えるっ。スマイリームーンもアダチもサラリーマンズも消えてくっ」
「くぅぅ、他の世界は平穏取り戻したのに、なんだこれっ」
「むぅぅ、儂の知らん法則じゃと、ありえん。何故そんなものを第四世界の住人が使えるのだ!?」
神々がどれ程権能を使おうとも、地球に展開された転移陣の解析は進まない。
ブラックボックスがあまりにも多過ぎて転移先すら見付けられないのだ。
「ああもう。なんで虚数が普通に混じってんのよ。つかこの数式ってなんぞーっ。テイラー展開の虚数バージョン+αとか意味不明なんですけどっ」
「こっちは微分積分が必要になるぞ。しかも虚数」
「ちょ、ここの計算どうすんの、多重連結式の二十五次元式になってるわよ!?」
「二十五っ!?」
「んなもん分かるか! こっちにゃ未知の世界だっちゅーねん!」
全員が地球に釘付けになりながらも手を打てず拱いている。
「こういう時は頭脳派気取ってるグーレイの出番でしょうよ!? なんであいついねーですかね!」
「おい、見ろ、また消えたぞ!」
「ぎゃひーんっ。魔法少女部隊消え始めたーっ」
「出来たっ、これでどうだっ!」
ミルカが作成したスキルを展開。消える寸前だった魔法少女一人を守る檻のようなモノが展開される。
エレクトロハルリーがスプラッシュみうみうが消えるのを間近で見て呆然としていた。
彼女だけはミルカの御蔭で転移から免れたらしい。
「よし、キャンセル障壁正常作動。待ってて、数作るから、出来たらクオルに渡すから展開よろしくっ」
「心得た」
「私も手伝うっ」
「ではアルテの作ったものはこのモルグが責任を持って使用しよう」
「無理じゃ、そんな余裕はないぞ!」
「地上に残ってる超人数残り30、20……10……1」
「よし出来……え?」
「ラナリアに残ってるメンバーとエレクトロハルリー以外……超人消滅を確認」
はは、とマロンは思わず笑う。悲壮感のあるその顔に、神々は逆に押し黙った。
「なんだこれ? 正義の味方も怪人も、秘密結社も纏めて消えちまったぜ。なんぞこれ?」
「マロンよ、気をしっかり持つんじゃ」
「気を持て? 無理でしょっ!? 何されたらこんなことになるのよっ、ありえないでしょっ!!」
焦燥感を浮かべるマロンに神々は何も言えない。
彼らでも結果は同じだったのだ。相手の術式をまったく解けなかった。
神としての権能を持ってすら邪魔出来なかった事実に戦慄を覚えざるをえない。
「まだ、終わった訳ではないわ。とりあえず宇宙に居るメンバーに連絡して、地球にはまだ戻らないように告げないと」
「それは俺がやっとく。ラナリア側にも伝えよう」
「私は魔法陣の解析ね」
「せめてこれを解除することに専念しよう。解除できねば永遠超人が地球に生まれなくなるぞ」
「よし、儂も手伝おう。マロンは少し休め」
マロンをパソコンから引き離し、神々が後を引き継ぐ。
何も無い世界に座り込んだマロンは、虚空を見上げて気の抜けた息を吐く。
「ごめん皆……」
それはクラスメイトの皆に告げた言葉か、それとも地上の皆に告げた言葉か。ただ、女神は力無く座り込み、声を殺して泣くだけだった……
「どうだ?」
「分からん。ブラックボックスが多過ぎる。これは我らより高位存在が絡んでいるぞ」
「あの者に高位の協力者がいるというのか?」
「しかしそうでなければこれは作れまい?」
「しかし二十五もの次元が使えるとすればそれこそ次元の管理者でもなければ……いや、まさかそんな事がありうるのか?」
「それだけじゃないわ。この辺りは虚数だらけ、多分反存在の法則が使われてる」
「こっちは魔界の法則だな。天界の法則も散見されるぞ」
「なんて複雑な術式だ。とりあえずこれ以上の転移能力を発揮せんようにしてしまおう。そのくらいならばできよう」
「ブラックボックスがどう作用するか不安だけど、一応転移陣を封じることはできそうね」
マロンを放置して神々の共同作業が始まった。
これだけの高位存在が集まればそれなりの対策はできるようで、地球に存在する魔法陣の無効化が始まった。
どれ程の無効化が可能かは不明だが、これ以上どこかに転移する可能性だけは封じることができそうであった。




