地球 ・ラナリア最終決戦4
「これが終わりの合図だよアン」
ニヤついたままレウコクローンが片手をあげる。パチンと指を鳴らした瞬間だった。
世界が……鳴動した。
「っ!? 何をしたレウコクローンッ」
「不要なモノを排除するのさ。秘密結社、正義の味方。悪の怪人、戦隊ヒーロー。地球の守護者その他様々な超人の排除さ」
「バカなっ、そんなことできる訳が」
―― クラスメイトの皆聞こえるッ、地球で何があったの!? 地球全体に魔法陣が、何コレッ、あちしの知らない法則がががが、ギャフーンッ!! ――
「くはは。女神がギャフンとはな。いや素晴らしい女神の鼻まであかせたか」
「貴様ッ」
「気付きもしなかっただろうな葵。我が本体が死んだ時、インペリアたちは最終命令を実行していたのだよ。すなわち、人類補完計画さ。正義と悪を排除して、ここに残るのは一般人のみ。さすれば我等レウコクロリディウムのみが彼らを導くことが出来る。世界平和は既に我が手にある」
「貴様がやろうとしていることは全人類の管理だ。断じて世界平和などではないッ」
「わかっているさ。だから今回は人間の自主性に任せることにしたのさ。正義の機関と秘密結社を軒並み駆逐してしまう。超常軌的存在の欠如。その後に来るのは人類の英知による繁栄か、それとも生存本能のみによる衰退か」
「違うだろ、レウコクローン」
悔しげに唇を噛むアンに代わり、龍華が歩き出す。
ゆっくりと、勇然に。玉座に片膝に足を乗せて肘かけに肘を乗せ、片手で頬を支えて見下すように龍華を見るレウコクローンへと接近する。
「違う。とは?」
「私の血で何を手に入れた?」
「クク、恐いな。流石はご本人様か。わかったよ正直に言おう。私の目的はレウコ本人とは違う。平和な世界など不要。そして邪魔をして来る正義も悪も不要なのさ」
やれやれ。と面倒そうな顔をしながらも、面白そうな表情で話しだす。もともと全てを話すつもりだったようで、レウコクローンはニタニタと笑いながら告げる。
「正義と悪。それを飛ばした後で、この世界に何を齎す気だ?」
「新人類さ。新たな超人とも言える。まずは日本で、その内世界に広げるつもりさ」
「新人類だと!?」
「ああ。その通り。すでに閉塞した人類は衰退するのが決まっている。自然淘汰という奴さ。だから私が刺激を加えるのさ。新たな刺激で新たな進化が生まれる。人としての限界を伸ばす。それが私の目的さ」
「その為にあの血が必要だと? 信じられるか!」
「信じる信じないなどどうでもよい。既に計画は動き出している。馬鹿が実行部隊で既に被検体に投与済みさ」
「ならば、もはや遠慮は不要か。我が不死を利用する者は誰であれ斬る。覚悟は良いな?」
「おお、恐い。お前は堪え性がないな。せめてフロシュエルとくらい話をさせんか」
「え? 私ですか!?」
指名されたフロシュエルが驚きの声をあげる。
「そりゃあそうさ。我が本体様が少しなりとも鍛えた天使だ。決別の会話くらいは交わすものさ」
「決別、ですか……レウコクローンさん。貴女が本当に人間たちの為を思ってしていることなら、天使は貴女の妨害をすることはありません」
「バカな!? 正気か天使ッ」
「天使は人の成長をこそ願う者。人が新たな成長を行い繁栄を望むのならば、天使はただ見守るだけです。でも……違いますよねレウコクローンさん」
確信めいた瞳で、フロシュエルはレウコクローンを射抜く。
「貴女に、いえ、レウコクロリディウムさんに教わった事です。もっともなことを言いつつも嘘を吐く。10%の真実を90%の嘘で塗り固める。もっともらしく甘美に聞こえる話題で相手を手玉に取る。そう告げたのはあなたです。そのあなたが、全ての真実を語る訳がない」
そう告げて、光の天使は矢を番える。
「人間に新たな刺激を与える。人の限界を伸ばす。そうでは無いでしょう。貴女が行うのは正常な進化ではなく異常進化。それは人類ではなく全く別の生物です、ならば、天は貴女の行いを見過ごさないッ」
開戦の一矢が、放たれた。
問答無用の一撃に、動くことすらしないレウコクローン。彼女を守るように、横合いから誰かが飛びかかり、光の矢を自身で受ける。
「ぐおぉっ!? 何という威力!?「馬鹿なの貴方は! 無防備に受けるなんて」貴様でもあるだろうが」
「どうもこうもっ!?」
慌ててセイバーを生成し、ジャスティスセイバーが叫ぶ。
どうもこうもは取り逃がしたという事実から因縁のある相手だ。彼は、どうもこうもの姿を見た瞬間走りだしていた。
「やれやれ、忙しない連中だ。残念だよフローシュ。本当に私は人類の為を思って行動を起こしているのだがね。まぁいい、女神の勇者というイレギュラーはあったがアレの御蔭で邪魔もなくなった。正義の味方共が気付いてももはや遅い。さぁ。始めよう世界。我等レウコクロリディウムがその臓腑、食らい尽くしてくれよぞッ!!」
玉座が下へと沈みだす。
慌てて後を追おうとしたアンや龍華を足止めるように、量産型ハルモネイアの群れがそこかしこから現れる。
「チィッ、足止めか!」
「時間は無い、私は行くぞ!」
「一人で行くな。クソ、ジャスティスセイバー、こちらは任せる!」
「私も行きますッ」
「シシーちゃん行くお」
「ええ、シシーも!?」
沈んでいく玉座にアン、龍華、フロシュエル、リュミエル、シシルシが後を追い、出来た穴へと身を躍らせる。
丁度後続部隊がエレベーターからやってきたようで、扉が開くと同時に下田完全が走りだしていた。




