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地球1

「……ん?」


 不意に、今田圭一は目を覚ました。

 開かれた目から見えるのは闇。

 窓から差し込んだ月明かりで今が深夜であることに気付く。


 視線の先には自宅の天井。

 ベッドの上で眠り、布団を掛けた状態。

 違和感は全く無い。

 ない筈だった。


「……あれ? 魑魅?」


 だが、彼の側に居る筈の同居人が居ないことに気付いて身を起こす。

 その少女はベランダに居た。

 わざわざガラス戸を開き、夜風に当りながら月を見上げていたのだ。

 圭一は頭を振って寝ぼけた頭を無理矢理覚醒させると、ベッドから這い出る。

 ふらつきながらもベランダへ。

 そこには小柄な少女が月を見上げていた。

 赤と緑に輝く瞳が、背後にやってきた圭一に向けられる。


「どうしたんだよ?」


「あいつが告げたの。自分の世界を奪おうとするモノが来るって」


 小さな声で、少女は告げる。

 怒りに満ちたようでもあり、憂いに満ちた表情でもあった。

 少女はそれだけ告げると、再び月を見上げる。


「邪神の使いが……来る」


 なんだそりゃ? 圭一はよくわからない言葉に頭を掻き、再びベッドにもぐり込む。


「明日も学校だろ。お前も少しくらい寝ろよ魑魅」


「ん。大丈夫」


 少女の返答を聞きながら、圭一は再び眠りに付くのだった。


 -------------------------------------


「ゾンビ……ねぇ」


 自宅のダイニングルームに腰掛けた赤髪の女は面倒臭そうに溜息を吐いた。

 寝ぐせのようにぴょいんと立った側面の髪に寝ぼけた眼。額に怪しげな紋様を持ち、ダボダボの私服に身を包んだ彼女は、目の前でにっこりとほほ笑む童顔の天使を見ながら緑茶をすする。


「ふはー。これぞ至福の極み。で、もう一度確認するけどさーハニエルさんや」


 グラマラスボディを持つ童顔の天使。それがハニエルと呼ばれた女の姿だ。ゆるふわウェーブの髪を揺らしてクスリと微笑む。


「はぁーい、いくらでも確認してねー小影ちゃん」


 はぁ。何度目の溜息になるか分からない溜息を漏らし、聖小影は虚空を見上げる。


「魔物に機械に魔王と来た後、ようやく小康状態になったと思えば、何、異世界から勇者様ご降臨フェスティバル?」


「ん。ちょーっとおかしな言い回しだけど概ね間違っていないのよぉー」


「んで、臨時給金だすから私も手伝えと?」


「そ。聖戦士ルミナスナイト四人とも全員集合。ついでにフローシュたちにも頼んどいたから独自に動いてくれてると思うわ」


「つか天使に悪魔が動いてんでしょ。だったら私達まで行く意味なくない? ゾンビハザードとか金になんなそーだし」


「ごめんねー。天界も人材不足でさー。ほぼほぼ大天使が代替わりしちゃったから今でもカツカツなのにゾンビとかもー手から零れてますって感じなのよねー。はー。休みたい」


 そう言いながらテーブルに寝そべる大天使。これが神の愛と呼ばれる有名な天使の実像なのだから笑えない。


「仕方ない。まぁ金が出るんだから働きますかいね。で、私の担当区画はどの辺り?」


「この街周辺かなー。なんかピクシニーだっけ? あいつらも動くみたいだから共同してくれってチェクトちゃんが言ってたわよ」


「マジか……敵対してる筈の魔族と共闘ですかぃ」


 溜息を吐きながらお茶を飲む。

 ふぅ。と落ち付いた小影は天井を見上げた。


「メルトー、なんかこう、楽できない?」


 ―― 全部溶かせばよかろう? ――


 小影の身体には原初の柱の一柱。すなわちこの世界で神と呼ばれる存在だ。同じ神の一柱ルストという存在と出会うため、小影の身体を借宿として寄生しているらしい。

 触れた対象を溶かすという能力を持つコレの御蔭で、小影は強力な魔王相手でも充分に闘える聖戦士としてハニエルの依頼を日々こなしているのである。


「まぁ、それが常道か。っし、ゾンビ共は任せるよメルト」


「どうでもいいけどー。メルティング・スノウだっけ? あのスキル使うなら触れないと意味ないんじゃない? ゾンビに」


 致命的な事実をハニエルに指摘され、小影はうぐっと思わず呻く。


「仕方ない。こういうのはウインターかオータムの仕事だ。あいつらに一任しよう。私は勇者殺し一択で」


「その辺りは現地で皆で決めてねー」


 何度目になるか分からない溜息を吐いていると、ダイニングルームの入り口から転がるようにやって来る顔に無数の足がひっついた生物。


「おお、ここにいたか小影よ」


「なんだねブエルさんや」


「うむ。女神の勇者を名乗る奴らが来たと放浪の不死者に言われてな、魔王同士連絡を取ってきたところだ。今回は我も手伝おう」


「そうですかい」


 頭痛の種が増えたと思わず額に手を当てる小影。

 魔王の一柱であるブエルはハニエルの横にやって来るとくっくと笑いだした。


「全く、天使と悪魔が手を取り闘う日が来るとはなぁ。ハニエルよ、あの天使見習いは息災か?」


「フローシュ? ええ。今はリュミエルっていう天使見習いをあの子が育ててるのよ」


「ほぉぅ、それはまた面白い天使が生まれそうだな」


「異端過ぎるって他の大天使共はいい顔してないけどねー。ま、今回はよろしく」


 大天使と魔王が互いに隣り合う。そんな光景を見た人間、聖小影は、何でこんな奴らが自宅に居るんだろう? と今更ながら溜息を吐くのだった。

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