プロローグ
初めに。
この作品は過去作品の紹介を兼ねたクロスストーリーになります。
初めてこの作品から読んでも読めるように気を付けてますがわからない人物や表現がありましたらご一報ください。可能な限り直して行きます。
ご愛読ありがとうございます<(_ _)>
「判決を言い渡す」
そこは裁判所を模していた。
ただし、現代世界に置けるような存在は殆どいない。人間のような姿を持つのは、この法廷には三人のみ。その一人は頭がつるりと光る純白の翼を持つ厳粛な老人の男。翼があるので人間というのも無理があるかもしれない。
彼は裁判長席に座り、ガベル(裁判の時に静粛になどと言いながら鳴らす物)を一度打ち鳴らす。
もう一人はメガネにおさげの冴えない女。傍聴席に座り、判決を待っている。彼女の名を桃栗マロンと言った。
さらに証言台で俯いた状態で判決を待つ女が一人。両手を拘束している手錠のような物は下位世界である地球という、彼らの住まう世界よりも幾分文明の劣った世界の手錠という形状を模したものであり、彼女、サンニ・ヤカーが権能を振るう能力を封印する役割を持っている。
彼らのみが地球でいう人間に近い容姿を保っており、他のメンバーは人型ではあれど人とはかけ離れた容姿や、完全に不定形を保った存在となっている。
裁判官は【液体で出来た女】、【女の表情だけを持つ風】、【青く燃える人型の男】の三人。
検察官としてメガネを掛けた銀色の肌を持つグレイ型生物の男。そして形ばかりの弁護人である、黒光りする砲弾のような頭を持つ甲冑のように流線型の甲殻をもつ黒色の男が立っていた。
マロンにしてみればいつものメンバーだ。
この上位世界、地球を点、線、面、時間の四次元世界だとすれば、今居るのは二十一次元に相当する世界である。ゆえに大抵の者たちは第二十一世界と呼んでいる。地球は第四世界だ。
どうでもいいがマロンも時々遊びに向かい、地球で学生生活をしてみたりしているが、彼女の本来の次元は二十一次元である。
そんな場所で行われる法廷は、やはり地球にある日本の法廷を真似たモノとなっていた。
日本かぶれの上位陣が多いのだ。それは基本の第四世界でアレだけ高度に育った世界だからともいえるだろう。これを作った上位存在は尊敬の目で見られつつ、かなりの上位存在がこの地球を参考にした世界を幾つも作っていたりする。
今回、被告人として証言台に立たされているサンニ・ヤカーも地球にあるゲームなどを参考にして作り上げた自分の世界を持っていた。
そこで、彼女は自分の欲望のまま、別世界から下位世界人を引き抜き、勇者として世界を旅させ、彼らが絶望して死ぬように画策、ソレを見て楽しんでいたのである。
マロンが地球で学生生活を満喫していた時、そのクラスメイトの一人が異世界召喚され、サンニ・ヤカーの世界に連れ去られたのだ。
ようやく見つけた彼を仲間と救出した時に、マロンたちはサンニ・ヤカーを捕まえる事が出来たのである。
傍聴人席には無数の生物。その全てが人とは結びもつかない不定形存在だ。
彼らは皆マロンと同じ第二十一世界の住人であり、暇を持て余した暇人どもだ。
この世界だと食事も必要なければ仕事をする必要もないのでニート的存在が多い。結果、適当なルールで裁判などを行う奴らが現れ、ソレを暇つぶしに見に来ているのが現状だった。
つまり、この裁判もある意味茶番なのである。
これからは行われるのは第二十一世界でも強力な力を持った者たちによる私刑であった。
「汝、サンニ・ヤカーは第四世界より一人の男を引き抜き自分の世界に勇者召喚をした。そして彼に絶望を与え、死んでいくのを楽しんで見ようとしていた。彼だけではないな。他にも沢山の勇者達をしょうかんしたであろう。今回は気付けたから事前に気付けたが、異世界から勝手に人物を引き抜くことは禁止されている。まして自世界でその人物が死んだとなればその罪許しがたい。街灯世界の管理者に報告も無い。これでは無罪にする方が難しい」
罪状を読み上げ終えた老人がガベルを鳴らす。
「判決、有罪」
当然だ、という雰囲気が場を支配する。
もともと有罪になることは確定的だったのだ。後はその罪状による罰がどれほどになるかである。
「被告サンニ・ヤカーは自世界に異世界から無理矢理に勇者を召喚し、己の欲望を満たす為だけに下位存在たちを殺していた。その量は我々が許容できる範囲を軽く超えている。よって女神としての権能1000年の禁止、また下位世界への干渉の禁止を申し渡す。さらに第二十二世界への禁固刑を申し渡す」
判決は下された。甘い判決なのかどうかはわからない。この判決は結局この老人の胸三寸できまるのだから。しかし、第二十二世界での禁固刑はマロンとしても驚きを隠せない。
その世界はさらなる上位世界にアセンション(位相を上げる)するため喧嘩を売ったことで滅んだ世界なのだ。
あそこでは上も下も無くただただ透明な空間が広がっているだけだ。その為下位世界となる第二十一世界のマロンたちでも行き来だけならば出来るのである。ただ、能力を封印されれば出ることは叶わない。地面も何も無いのでただただ無限の自由落下を繰り返すだけの場所だ。
だが、だからこそ、サンニ・ヤカーはククと笑った。
茶番だな。そうとしか思えなかった。
暇を持て余している上位存在共が下位存在のまねごとをして適当なルールで同位存在を捌いている。
皆、大小の違いはあればやっていることは同じことなのだ。たまに暇だからという理由で異世界から勇者を召喚して自世界で冒険させ元の世界に返す。
一応、召喚先の持ち主に許可を取れば合法、勝手に召喚すれば違法。その程度の違いである。
「サンニ・ヤカー、こちらに。能力を封印させていただきます」
グレイ型と黒光りする男に拘束され、能力を封印される。
その刹那、サンニ・ヤカーは思わずくっくと声を漏らした。
怪訝な顔をする黒光りする男。だが、グレイ型の男は違った。
何かがおかしいことに気付いた。
「これは……裁判長! この女、女神としての権能がほとんどありません! これでは封印すべき能力もないに等しいっ」
「なんじゃと!?」
それが女の実力だといえばそれまでだったが、女神を名乗っている存在の一人だ。本来持っている筈の自分の世界を自由にできる権能が封印するまでもないほどに存在しないとなれば、その能力が何処に行ったのかという疑問に行きつく。
「クク……ククク、アハ……」
「サンニ・ヤカー! 貴様自分の能力を何処に置いて来たっ!」
「置く? いやいや、フフ、アハハ、あはははははははははははははっ!! 茶番御苦労様裁判長共っ。私の趣味の邪魔した揚句能力封印して悦に入る暇人の集まり共っ! お前達が私の世界をむちゃくちゃにしてくれたように、今度は私がお前達の世界を滅茶苦茶にしてやるわっ! 女神の権能を持つ神を殺せる勇者たちに手も足も出せず自分の世界が滅ぼされるのを指咥えて見てなさいっ。あは、あはは、あははははははははははははは――――ッ!!」
「な……に?」
「ま、待て、まさか!?」
グレイ型が慌てて自分の管理する世界を空中にモニター画面を出現させて調べ出す。
「これは……バカなっ!?」
「自分の作った世界が他人に滅茶苦茶にされるのはどんな気分? ねぇ、どんな気分!? お前らが私にした事をし返してやっただけよ。絶望に沈め上位存在共ッ! 貴様等は何の手も打てずに滅びる世界を見つめていなさいっ」
女の勝ち誇った声が響き渡る。
裁判長も検察官も、誰もがただただ自分の世界を必死になって探っていた。
そしてそこに、確かに存在してしまっていたのだ。女神の勇者を名乗り、世界に喧嘩を売り始めた悪意たちの存在を。
「女神マロン、お前も同罪だ! 貴様が管理する世界全てに送ってやったわ! もちろん地球とやらにもね! ジャスティスセイバーも他の助っ人共の世界も全て滅びろ。滅びてしまえっ、ひゃはははははははっ!!」
壊れた笑みで嘲笑するサンニ・ヤカー。能力を封印され監禁されるまで、彼女の笑い声は高らかに響いていた――……