マイノアルテ・最終決戦7
「フォ――――ッ!!」
気合い一突き。
伯爵の一撃がフラグニアの右目を突き破る。
プシューっと音を立てフラグニアの機能が停止する。
「おじ様っ!!」
「ふぉっふぉ。なんとか勝てましたな」
ステッキを降ろすとフラグニアの身体も地面に着地する。
爆炎により所々焼け焦げ満身創痍になりながら、全裸紳士は朗らかに微笑む。
『警告。身体に重大な障害発生。本機はデータ破棄のため、自爆します』
「っ!?」
紳士が気付いた時には遅かった。
彼の間横で強烈な爆弾が破裂する。
フラグニアという名の強力な肉体を完全に消去する過剰過ぎる爆発が、フラグニア共々周辺を巻き込み爆散した。
伯爵の勝利に近づこうとしたエルフリーデを咄嗟に引き寄せるマグニア。
ジルベッタも驚愕の面持ちでマグニアの裾をギュッと握り爆炎を見上げる。
直撃を受けた伯爵は確実に無事では済まない。その筈だ。
だが、爆炎の中、その男はゆっくりと、尻を引き締め歩み出る。
「幼女が、見ているのだ。この程度では死なんよ」
「おじ様っ!」
炎の中片足を引きずりながら戻ってきた伯爵。
その光景に、レウは思わず舌打ちする。
「クク、どうしたレウよ。随分とシケタ面だな」
「メルフィーナの阿呆にほとほと呆れているのさ。しかし、そろそろ疲れたんじゃないのかヌェルティス」
「全く疲れんな。お前はもうしばらく儂と踊れ!」
「嫌なこった。茉莉、アレをやるぞ!」
「なんだ!?」
何かをすると言われて警戒したヌェルティス。
一瞬の隙をついてレウが何かを飛ばして来た。
直ぐに気付いて避ける。
「何だ今のは? 攻撃にしては単調過ぎる気はする」
「ふふ、なんでしょねー」
再びレウの手を掴んで投げ飛ばそうとしたヌェルティス。ふと違和感に気付いて相手を見た。
「貴様、茉莉か!? レウはどうした!」
「ふっふっふ。レウちゃんはどこかって。さぁ、どこでしょう?」
投げ飛ばされる茉莉が不敵に笑う。
その背後で、誰かの悲鳴が聞こえた。
「嫌ぁ――――っ!?」
驚いたヌェルティスが目にしたのは、伯爵をのステッキを奪い、彼にステッキを突き刺すエルフリーデの姿。
自身の魔女により攻撃され、呆然としている伯爵。本来少女の攻撃などで彼の身体に傷など付かないはずなのだが、人が本来セーブしている力全てを使った渾身の一撃で、彼の心臓は確かに貫かれていた。
「なんで? なんで私がっ!?」
「お嬢……様?」
「違う、違うの、私じゃ、私じゃな「ククク、残念だったな伯爵。お前のお嬢は私が貰ったよ」」
がふり、血だまりに沈む伯爵は最後に気付く。
その少女の中に、いつの間にか異物があった。
「貴様は……レウとかいう……?」
「私は本来こういう生物でね。怪人レウコクロリディウム。この身体は寄生虫、茉莉に砲弾のように飛ばして貰ったのさ。エルフリーデ向かってね」
そして、とエルフリーデの身体がビクンと震えた。
次の瞬間伯爵の姿が薄く消え始める。
「な、何!? どうなって……」
「ええい。マグニア、ジルベッタ、エルフリーデに近づくな。そいつはもう敵だ! クソあの寄生虫本気で寄生しおって!」
「レウちゃんが本格寄生したの初めて見たけど酷いよねー」
「お前はお前でなぜ能天気なのだ!?」
茉莉をエルフリーデへと投げ飛ばしヌェルティスがエルフリーデを撃破するために走る。
「レウッ!」
「クハハッ、油断したなヌェルティス。茉莉と我を一人と勘定したのがお前の敗因だ!」
「まだ負けたわけじゃ無かろうが!」
「否、既に負けているんだよ、茉莉!」
「あいさ。エアロフレーム!」
「っ!? なんだ!? 風が……」
「こいつは風の防壁を身体に貼りつける魔法さ、これで茉莉に触れて投げる方法は取れなくなったな」
「ちぃ、ちょっと隙を突かれただけでそれか!?」
「今度はこちらの番だ。茉莉、ヌェルティスの相手は任せるぞ!」
「おっけーレウちゃん。茉莉任されました」
「嘘だろ……」
折角押し込めた茉莉とレウが分離してしまい、茉莉は掴むことすら出来ない状態でプリズムリフレクションを発動。
打つ手を無くしたヌェルティスが回避一辺倒になってしまう。
「クソ、レウが……」
自由になったエルフリーデの身体を操るレウ。手にしているのは彼女が持っていたために未だに残っているステッキ一つ。
おそらく彼女の武器として残ってはいるが手を離した時点で伯爵の後を追って消え去ることだろう。
今の彼女はエルフリーデの全力を扱えるため、マグニアやジルベッタでは逃げ切れるものではない。それにシャロンとシャルロッテも誰か一人助っ人が入った時点で決着が付く。
自由に動けるレウの存在はヌェルたちにとって最も危険な存在ながら、現状排除できない存在でもあった。




