表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/223

マイノアルテ・最終決戦5

「祖は宵闇の覇者にして真祖の王」


「なんだ。また懲りずに暴食蛇の武踏祭ベヘモート・ボルテージか。フラグニアにも私にもそれは効かんと「レウちゃん、また私の邪魔するー」今回は私にやらせろ「えー」」


 レウがなにやら余裕めいた言葉を喋っているが、ヌェルティスは気にせず呪文を詠唱する。

 今回使える魔法は身体強化、あるいは供物蛇の輪舞会リヴァイアス・ロンドくらいで、それ以上の魔法となると制限が掛かって使えなくなっている。

 だが、使える魔力量で新たな魔法を使うのならば別だ。

 

 暴食蛇の武踏祭ベヘモート・ボルテージは拳に纏わせることで攻撃力の強化と追加ダメージを与えるものだが、この増加する強化量を攻撃だけではなく加速と防御に割り振る。

 その分威力はダウンするが、三人を相手にシャロンに邪魔が入らないようにするだけならば、充分すぎる魔法となるだろう。



「我いざなうは覇王の具足、天凛の鐘。空を制せ、地を制せ。我は全てを飲み込む者。全てを征せ! 飛空龍の蹂躙祭バハムート・ジェノサイズ!」


 闇の炎がヌェルティスの全身を覆い隠す。

 ここに来て新たな魔法ということもあり、流石に驚くレウ。

 フラグニアが先制とばかりに走りだす。


 黒炎が燃える。

 突き出されたフラグニアの拳を炎に塗れた腕が握り威力を削ぐ。

 全身に炎の装甲を纏ったヌェルティス。その姿はミシャンドラを真似てドラゴン装甲の全身鎧になっており、目元を残して顔もガードする黒炎の兜、爪を装着した手甲。具足に背中から燃え広がる黒炎の翼と尻尾。


「さぁ、最終戦と行こうか、レウ、フラグニア、伯爵!」


 ヌェルティスは強化された腕力でフラグニアの拳を受け止めると、彼を持ち上げ思い切りレウにぶん投げた。

 慌てて避けるレウ。

 ふっ飛ばされたフラグニアは彼女を飛び越え、魔女三人の元へ吹き飛んだ。

 その一瞬の隙を付き、シャロンが走る。


「むぅ、いかん!」


「いかせんよ!」


 シャロンの妨害に向かおうとしたレウの目の前に蝙蝠が出現する。

 突然前を塞がれ驚くレウ。

 その隙に飛び上がったヌェルティスがレウの背中に蹴りを叩き込む。


「がぁ!?」


 まだ障壁を張る前だったらしい。

 無防備な背中に一撃を受け、レウが地面に激突した。


「阿呆か!? さすがに今のが直撃するとは思わなかったぞ!?」


「油断し過ぎだよーレウちゃん!?「う、うるさいっ」」


 慌ててプリズムリフレクションを行うレウ。

 しかしその手を握り込んだヌェルティスが思い切りレウを投げ飛ばす。


「なん!?」


 攻撃というよりは牽制の投げ飛ばし。避けも受けもできない一撃だけに戸惑いつつも翼を打って制動を掛ける。

 しかし、既に近づいていたヌェルティスが再び腕を掴んで投げ飛ばす。


「貴様、何がしたいのだ!?」


「邪魔者を纏めたいのさ。シャロンの邪魔をされても困るからな!」


 はっと気付いた時には既に遅かった。

 投げ飛ばされた場所に居たのは、丁度起き上がったフラグニア。

 咄嗟に受け止められはしたものの、二人揃ってシャロンから距離を取らされてしまっていた。


「ちぃっ! 面倒な!」


「伯爵は!?」


 舌打ちするフラグニアにレウがはっと声をあげる。

 伯爵はと言えば、何をするでもなく彼らを見つめていた。


「何をしている伯爵! さっさとヌェルティスを攻撃しろ!」


「それは……できません。私に幼女を攻撃するなど、出来ようはずがないではありませんか!!」


「アホか!? ええい、ならばシャロンだ。奴を殺せ!」


「仕方ありませんな、では……っ!?」


 動き出そうとした伯爵の前に、そいつは立ちはだかった。

 ヌェルティスにより吸血され、ふらふらになりながらも、小さな体を広げて伯爵の前に立つ。ジルベッタの姿に伯爵は戸惑いを浮かべざるを得なかった。


「何を……なさっているのです?」


「小さな子なら、手出ししないんでしょ。だから。これ以上私の知り合いを傷付けないでっ」


 目元に涙をためて。青い顔に震える身体。恐怖で堪らないだろうに、ジルベッタは己が身を盾に立ち塞がる。

 少女の決意を前にして、伯爵はただただ思考を停止させる。


 その少女の姿に、彼は幻視した。

 かつて自分が犯した間違いを正そうと、立ちふさがった同志の姿。

 自分が仲間と理想を追い求めた結果泣かせてしまった子供達の反抗する強い瞳が、目の前の少女と重なったのだ。


『お前に幼女は微笑んでいるか?』


 かつての同志の言葉が脳裏を掠める。


「チィッ、何をしている伯爵! エルフリーデ、お前のントロだろう! 何とかしてみせろ!」


 シャルロッテが鞭で対応しシャロンの剣撃を弾く側で見ていた少女にレウが叫ぶ。

 シャロンは頬を掠める鞭を気にせず駆け寄り一閃。鞭では対応しきれないと鞭を投げ捨てたシャルロッテがレイピアを引き抜き対応する。

 その横でエルフリーデは恐怖に震えながら首を横に振る。

 その顔は、もう嫌だ。これ以上争いたくない。そんな思いがにじみ出ていた。


「仕方ないわね」


 それを見たフラグニアの魔女メルフィーナがエルフリーデの首を背後から腕で羽交い締めにする。


「伯爵。さっさとあの目障りな魔女を殺しなさい。じゃないとエルフリーデを殺すわよッ」


「っ!?」


「馬鹿か!?」


 思わず叫ぶレウ。しかし、その直後に接近してきたヌェルティスのせいでそれ以上何も言えなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ