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マイノアルテ・最終決戦4

「……一日、経ったか?」


「まだ六時間も経ってないわよヌェルティス」


 森を越え、近くの街を迂回して、ヌェルティス達はクラステス領へと逃げ込んでいた。

 マグニアの領地であるため休憩地点としては十分機能するし、安全地帯と言っていい。

 しかし、追手の速度から言えばここでゆったりするのは愚の骨頂。

 それでも、逃げる場所など既になく、敵を倒さなければどうしようもない状況の中、レウ、フラグニア、伯爵の三体を相手取らねばならないのだ。

 ヌェルティスにとっては絶望的な状況と言える。


「ヌェルティス……」


「……なんだシャロン」


「死ねば、元の世界に無傷で戻れるわ。……戻っても、いいのよ?」


「抜かせ、この状況で儂だけ戻れば寝覚めが悪いわ!」


「しかし、覚醒したとしてお前だけで戦況を覆せるの!?」


「シャルロッテを何とかしたいと言ったのは誰だっ!」


「私だっ。私だよっ。どうしろっていうのよっ!!」


「それを今考えておるのだ。ええい。フラグニアの装甲にレウの障壁。幼女の前なら際限なく強化される伯爵。こんな奴等相手にどうしろと、いっそ奴等が勝手に争い合ってくたばってくれればいいものを」


「ヌェルティスが倒された後なら可能性はあるかしら。私達は全滅した後だけど」


「やだよ、ヌェルティスお姉ちゃんまでいなくなるの?」


 度重なる死に分かれにジルベッタが泣きだす。

 そんな彼女を慰めつつマグニアは困ったように空を見上げた。

 巨大隕石は既になく、青い空が広がっている。


「どうしたものか……だが、ダーリンに笑って会うためにも、ここで敗北の二文字はないな。さて……」


 自分が出来ること、相手をなんとか倒せぬものか、ヌェルティスは腕を組んで考える。

 出来ることはある筈だ。何しろ自分は真祖の吸血鬼。宵闇の……


「吸血鬼……おおっ!? そうだった。最近ダーリンや他の側室共とドタバタ劇しかしてなかったからまったく血を吸っとらんかった」


「はい?」


「方法はあるが、さて、いや、しかしフラグニアの装甲を破る手立てはないし、他の事もいろいろと……」


「話は終わったかしら?」


「ああ、多少不安だがレウ相手には……なっ!?」


 掛けられた声に返事をしたヌェルティス。振り返った先には、茉莉、フラグニア、伯爵。そしてその魔女である。メルフィーナ、エルフリーデ、シャルロッテの六人が居た。どうやらビルグリムの魔女ゼムロットはいないようだ。ントロを無くし殺されたのか、自宅へ引っ込んだのか。


「最終決戦と行きましょう、シャロン」


「姉上……ッ」


 対峙するようにシャロンがヌェルティスに並び、マグニアがジルベッタを庇いながら二人の背後に移動する。


「全く、対処しようとした矢先に発見か」


「いやいやー。すでに捕捉はできてたんだけどね。せっかくだから観察してたのだよヌェルちゃん」


「そう言うことだ。既に貴様は詰んでいる。貴様の死を皮切りにして、我等三体のントロで闘いは締めくくられる」


「お嬢様方。諦めなさい。私が勝ち残り、幼女たちが笑い合える千年王国を作ると約束しましょう。だから武装解除して速やかにントロの送還、証の放棄をお願いします。放棄した者の安全は私が保証致しましょう」


 魔女たちを守りつつもヌェルティスを撃破せんと前に出る茉莉、フラグニア、伯爵。


「ヌェルティス。私も闘います。せめて最後まで……」


「抜かせ、魔女にントロの相手は難しい。三人を相手取るのは儂だ。お前はその隙に大将首を狙え。魔女同士なら何とかなるだろう」


「ヌェルティス……分かりました。私はシャルロッテを」


「ジルベッタ。少し頼みがある。皆を生かすためだ、協力してほしい」


「ヌェルティスお姉ちゃん……うん。協力する。だから……だから皆やっつけてっ」


 マグニアに隠されるように匿われていたジルベッタが泣きながら前に出てヌェルティスの元へ。

 ヌェルティスはその首元に、思い切り歯を立てる。


「少しじっとしていろ。すぐに済む」


「ひぅっ!?」


「ふ、FUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOっ!? 幼女を吸血する幼女キタ――――」


 伯爵が思わず叫ぶ。

 そんな声に白目を送りながら吸血を終えたヌェルティスは、口元から垂れた血を拭い、くたりと力尽きたジルベッタをマグニアに渡す。


「だ、大丈夫なの?」


「問題ない。ジルベッタを頼むぞマグニア。伯爵が言ったように、儂らが負けたらジルベッタに証を放棄させろ。それでお前達は生き残る」


「そんな、二人を見捨てろというの!?」


「負けた後と言っただろう。それにガルニエが願っただろう。お前は幸せになる権利がある。その権利に、ジルベッタを同席させてやれ。シャロンは……シャルロッテと決着を付けるまで止まれんだろうしな」


 さて。とヌェルティスは再びシャロンの横へと並ぶ。

 用意が整うまで待っていたのはレウによる様式美という奴だろう。

 最終決戦、敵の全力が出せる状態まで待って徹底的に叩き潰すつもりらしい。

 できるなら明日に襲撃してほしかったものだが、そこは仕方なしと思うしかないだろう。


「全力とまでは行かんが、シャロン、お前が頼りだ。シャルロッテを倒してみせろ」


「了解した。我がントロ。共に闘おう。我が命尽きるその時まで」


 今、ヌェルティス最後の闘いが、始まろうとしていた。

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