マイノアルテ・隕石落下4
「無力。惰弱。脆弱め! そんな穴だらけの防壁で私に勝てると思いましたの!」
遍く全てを防ぎし壁よを解除する。
上半身を無くした茉莉の身体が宇宙空間へと流れ出す。
邪魔者は居なくなった。隕石も茉莉との戦いで破壊済み。後は皆の元に戻るだけだ。
「多少時間を食いましたわね。向こうは大丈夫かしら?」
「向こうの心配などしている場合ではなかろう?」
「っ!?」
とっさに反応出来たのは奇跡に近かった。
光の柱を出す推進力で逃げたエンドの左腕が吹き飛ぶ。
距離を取って振り返れば、上半身が吹き飛んだ筈の茉莉が首無し状態で宇宙空間を漂っており、こちらに手を向けホーリーアローを打ち込んで来ていた。
「バカな、上半身吹き飛んだ筈! なぜ腕があるの!?」
「ククク、分かっておらんなエンド。茉莉はな、魔法少女などではないのさ」
魔力を媒体として聞こえる声はレウのモノ。その母体となっている茉莉は、こうしている間にも黒い靄に覆われ急速に顔を再生させている。
「茉莉は改造人間。天使と魔王の因子を持つ魔法少女型改造人間さ」
茉莉の能力はとある天使の因子と、魔王ブエルの因子を持つハイブリッド怪人。変身状態こそが魔法少女茉莉の姿であり、その能力は神聖技と魔法を自在に使え、瘴気が存在する限り不滅の存在となる。
魔族にとっては弱点でしかない聖属性に特化しながらも魔王としての特性を合わせ持つ改造されし人間。それが城内茉莉であった。
「うー酷い目に会った……」
ついに全身の再生を終えた茉莉が苦い顔で告げる。
「隕石は壊滅したみたいだな。茉莉、ここからは私がやらせて貰うぞ」
「うぅ、仕方ないなぁ。頑張ってねレウちゃん」
刹那、茉莉の纏う雰囲気が変わる。
「成る程、ここからが本番って訳ね?」
「そう言うことだ。今までのようなぬるい攻撃だとは思うなよ?」
レウが飛翔する。
散弾のように打ち出される光の連撃を、片手で光を発射しながら迎撃、あるいは避けて行くエンド。
片手を失い、相手は選手交代でパワーアップ。ハンデにしてはかなりの不利に身を置いてしまっていた。
「リフレクトシールド」
「?」
不意に、レウが不規則に飛翔しながら謎の行動に出る。
不審に思ったモノの、ただシールドを出すだけのレウに、エンドは警戒しながらも光を打ち続ける。
「リフレクトシールド」
何度その言葉を聞いただろう。
どれだけ防壁を出すのか。呆れかけたその瞬間、レウとは別の場所で光が瞬いた。
「っ!?」
マズい。思った次の瞬間右足が吹き飛んだ。
背後からの一撃は完全に殺気無く、何が起こったのか一瞬理解すら出来なかった。
「今のは……」
「行くぞ、ホーリーアロースプレッド!!」
「っ! そういうことか!」
なんのことはない、エンドがやった反射攻撃をやりかえされただけであった。
リフレクトシールドは攻撃を跳ね返す。
それが無数に設置された場所に光の魔法が飛んで行き、反射されて不規則に動く。
エンドを狙うものもあれば別方向に飛んで行くモノもあるが、それでもエンドに集束するように仕向けられている以上エンドが反撃を行うのを躊躇わせるには充分な効果を発揮していた。
「でも残念! 遍く全てを防ぎし壁よ」
そう、狙いはわかるがエンドには完全防御のこの障壁があるのだ。隙間のあるプリズムリフレクションとは訳が違う。
「その技を待っていた。得意防御で絶対に死なんと思っているその思い上がりを徹底的に破壊してやろう。我が名はインセクトワールド社首領、レウコクロリディウムが一人、レウ。この名、地獄の底まで持ってゆけぃ! ブラックホール、ホーリー・アローEX!!」
ただのホーリーアロー。そう見える一撃が、遍く全てを防ぎし壁よに当る直前黒い何かに吸い込まれるように消えて行く。
「ホワイトホール」
しかし、直ぐに白い回転する空間からホーリーアローは出現し、エンド向けて迫り寄る。
エンドにはその意図が読め無かった。
ホーリーアローは障壁に阻まれ消え去るだけの筈だ。
だが、何か嫌な予感が止まらない。避けなければならないそんな気がする。
しかし、遍く全てを防ぎし壁よは空間固定の障壁。宇宙空間といえどもこれを展開したままでは逃げ出せず、解除した瞬間レウによる攻撃が待っている。
「ホーリーアローじゃこの障壁は抜けないわ!」
結果、エンドはその場に留まり遍く全てを防ぎし壁よの強度を信頼することにした。それは彼女の姉が使用するその防壁に絶対的自信があったからに他ならず信頼が慢心を生んだとも言えた。
結果、ホワイトホールから飛びだしたねじくれた光の矢がエンドの身体を貫き破壊する。
「あ……え?」
「ククク、ハーッハッハッハ。貴様風に言えば愚図。愚鈍、愚か者。ただのホーリーアローなど放つ訳があるまいに。茉莉の素体に使った天使が使っていた技でな。再現するのは大変だったが、茉莉はともかく我が使うことは可能だった。ブラックホールに突っ込むことで別次元の法則を手に入れるようでな。我々の次元で使われる防壁では防ぐことは適わんらしい」
遍く全てを防ぎし壁よが自動解除され、エンドが放り出される。
そんな彼女へ向け、レウは無情にも手をかざす。
「終わりだ。ホーリー・アローEX」
放たれた光の矢が、エンドの身体を爆散させた。




