マイノアルテ・隕石落下2
「聖……嘘だろ……」
絶望的な状況に、思わず呟きが漏れる。
既に能力は再封印され幼女姿へと戻ってしまったヌェルティスは、今は悲嘆に暮れる場合ではないとすぐさま意識を切り替える。
目の前に居る敵は二人。
ビルグリム・ゾルダームとフラグニアだ。
素早い動きで味方を撹乱し、続く一撃をフラグニアが放つ。
「真奈香!」
「おまかせっ!」
しかし、拳の一撃は狙われたジルベッタを襲うことなく真奈香の蹴りにより撃墜された。
「嘘だろ!? フラグニアは機械だぞ」
「私は妖使いなので」
さらに回し蹴り。フラグニアごとビルグリムを蹴り飛ばす。
逃げ場を無くしたビルグリムは物凄い勢いで吹き飛ばされ、地面とフラグニアに挟まれ潰れた蛙のような声を出す。
「ステラ、シャロン、マグニア、ジルベッタ、私達の後ろへ。真奈香とヌェルティスと私で円陣を組む!」
「わ、分かった」
「魔女がやられれば終わりだからな。今ジルベッタが死んでしまえば隕石消去も不可能になる。分かっているのかビルグリム!!」
叫ぶヌェルティス。ビルグリムはフラグニアにどいて貰ったことで自由の身になり、痛む身体を起こしてうぐぐと唸る。
「うるせぇ。俺としちゃこの世界がどうなろうが知ったこっちゃねぇっつの。まぁ茉莉とかいうのが問題ないと言ってたしな。俺がやるべきはフラグニア連れて高速移動。お前ら全員ぶっ倒すだけだ」
「茉莉……つまり貴様等はシャルロッテについたということね」
忌々しげにシャロンが叫ぶ。
何処に居る! 焦ったように周囲を探るが、シャルロッテの姿は見当たらない。おそらくントロだけをこの場に遣わし、茉莉は他の魔女たちの護衛でもしているのだろう。
「やるしかないか。だがあの速度……切り離さねば面倒だな」
「隊長。あのおじさん止めるのはできるけど、どうします?」
「フラグニアに対抗できるのも真奈香だけか。放浪の不死者がやられたのが痛いな」
「あんたの能力でまた過去改変したらいいんじゃないの?」
「駄目だ。異世界が絡んだ状態なのでラナエを救えるだろうが龍華は既に送還された後の状態のままになる」
「こんな時こその過去改変じゃないの使えないですわね」
マグニアの辛辣なモノ言いにむぅと唸る柳宮。
「仕方ない。真奈香、ビルグリムをなんとかしてくれ。フラグニアは我々で対処してみる」
「りょおかい!」
「ええい。指図するなと言いたいところだがお前の指示が一番的確か。フラグニアは任せい。柳宮だったな、茉莉たちに気を付けてくれ、レウの卑怯な罠にハマるなよ!」
龍華は消え去りエンドは隕石消去。
正直かなり辛い状況だ。だが、真奈香たちがいるだけまだマシだろう。
「エンドが戻ってくるまでが勝負だな。守り切るぞ!」
真奈香が飛ぶ。
思い切り蹴りつけた地面が抉れ飛び、背後に居たシャロンに土が被った。
悲鳴を上げるシャロンを背にしてフラグニアを抱え直そうとしたビルグリムに接敵する。
「なっ!?」
「そいさ!」
少し離れた場所で踏み切り上空からの回転踵落とし。
咄嗟にフラグニアがビルグリムを突き飛ばし、その衝撃で自分も逃れる。
地面に真奈香の踵が叩きつけられ地面が陥没、土が飛び散る。
「うおぉ!?」
「おじさん、遊ぼう?」
「ふ、ふざけんな! チェンジだ!」
慌てて逃げ出すビルグリム。しかし即座に追って来る真奈香。その速度はビルグリムに匹敵していた。
「嘘だろ!? 俺の唯一の特性が!」
「龍華ちゃんの仇!」
地面を蹴りつけ接敵とともに拳を付きだす。
ぎりぎり回避したビルグリム。脇を掠めた一撃で防具が弾け飛んだ。
当っていればと顔を青くしながら必死に逃げる。
そんなビルグリムをフォローしようとしたフラグニアだが、懐へと現れたヌェルティスに視線が向かう。
小柄な少女は地面を蹴りつけ闇の炎を両手に纏わせフラグニアに突撃。
しかしダメージらしいダメージを喰らわせられないようだ。
フラグニアもそう判断したようで気にすることなくビルグリムのフォローを行う。
「ちょぉ!? 貴様は儂が相手だぞ!?」
「相手にもならん。食らえ!」
ヌェルティスに答えながら真奈香に口からレーザー光線を発射。
即座に気付いた真奈香が避けるが、そのせいでビルグリムとの距離が空く。
「ヌェルちゃーんっ」
「すまん、クソ、火力が足りんっ」
本来の力さえあればと悔やむが既に本日は打ち止め。
悔しいがフラグニアを相手にするには荷が勝ち過ぎる状態だ。
「だが、儂が足止めせねば。託された仕事くらいできんでダーリンに合わす顔がない。全力で行くぞ!! 供物蛇の輪舞会」
「むぅ、ぐぉ!?」
ダメージ自体はないが、現れた供物蛇によりフラグニアの上体が傾ぐ。
「儂が考えた最強の暗黒舞踏術を見るがいい!!」




