地球 ・隕石落下1
「痛いじゃないかーっ」
隕石を割り砕き、巨大化の勇者が立ちあがった。
既に満身創痍のジェノス、踏みつぶされれば一撃死の萌葱、そして不幸な凛。他のメンバーは居ない。魔法少女達も信之と共に撤退させたので、この三人だけでなんとかしなくてはならないのだ。
「って、な、なんですかあれー!?」
最初に気付いたのは凛。空を見上げて叫ぶ彼女に、思わず皆が空を見た。
さらに巨大な隕石が落下して来るのが見えた。
「なんて大きさだ……」
「ちょ、あんなのどうしろってのよ!?」
「……そうか。アレならあるいは……でもそうなると……」
皆が戦慄する中、ジェノスの操者である高田純平だけは別の事を思いつく。巨大化の勇者に打つ手はない。そう思っていたけど違う。宇宙でなら、勝機はある。
何しろ放射能だらけで真空状態。空気が無いので呼吸も不可能。そんな場所ならば、生身の巨大化の勇者が生き延びられる可能性は皆無。最悪、そういうスキルが備わっている可能性もないではないが、試してみる価値はあるだろう。
「萌葱さん、巨大化の勇者の動き、止めれますか?」
「え? いや、でも今はそんな状況じゃ……」
「お願いします。宇宙なら太陽光エネルギーも充填が速くなります。大破しかけてましたがナノスキンによる回復でなんとか上昇は可能ですから。相手の反撃さえなければ、この勇者を倒せます!」
「あ、あの隕石は!?」
「命がけで何とかしますよ。段階踏んで倒して行きましょう」
「そ、そうね。よし!」
双剣を構え萌葱が走る。
「暴力的な闇」
「そんなので動きを止められるもんか!」
巨大化の勇者による蹴り。近づく足に焦る萌葱。その前に飛び出す凛。
「この蹴りなら不幸を感じることなく死ねますね」
彼女に幸福を届ける蹴りは、逆足にたゆたう闇のせいで巨大化の勇者がバランスを崩したことで空を切る。
風圧に弄られごろごろと転がる凛。運悪く壊れた便器が真上のビルから落下して頭に被さった。
「ギャーーーー!?」
「な、ナイス凛さん。不幸すぎるけど……」
凛のフォローで隙が作れた萌葱はさらにスキルを使用する。
「青ざめし秘密の花園」
「ぎゃあああああああっ!?」
地面から出現した蔦が巨大化の勇者の足に巻きつく。
針が刺さったような痛みに巨大化の勇者が倒れた。
その足を、そして両腕を縛るように巻きつく蔦の群れ。
「高田さん、これでいいですか!?」
「上出来だ。ジェノス、巨大化の勇者を抱えて宇宙だ! そろそろ決着と行こう!」
「了解ですマスター!」
ジェノスがもがく巨大化の勇者を抱えあげ、地面に根付いた薔薇蔦を引きちぎりながら空へと上昇していく。
「ちょ、単騎突破できるんですかーっ!?」
思わず大声で叫ぶ萌葱。その返答は返ってくることは無く、ジェノスは空の彼方へと消え去った。
遅れ、遠くの空から別の機体が現れる。
「この辺りかな。あ、萌葱さーん。巨大化の勇者見てませんかー」
ジェノサイド・エヴーネに乗った綾嶺麁羅であった。
「綾嶺さん!? なんてタイミング!」
ジェノスが空へと向かった事を告げると、慌てて空へと追って行く麁羅。
遅れ、意識を取り戻したのだろう。アトミックマン・ヘルトが別の方角から空へと向かって行くのが見えた。
「三人……か。まぁなんとかできると祈るしかないわね」
「とりあえず、あの隕石落下で死ねるなら幸せだ。ってしばらく思っときますね」
萌葱と便器を帽子を持ち上げるように頭から外した凛は空を見上げながら息を吐く。
自分たちの闘いは終わった。後は仲間の激闘の結果を待つだけらしい。
「待つのって、辛いわよね?」
「ええ。とっても……いいえ。幸せです。私はアンゴルモア様が居ない方が幸せなんです」
辛くても、それを辛いと言えない不幸。もしもまた会いたいと、アンゴルモアと一緒に居たいと願ってしまえば、不幸は嬉々としてそれを遠ざける。
だから、会えることは無いのだと、会う方が不幸だと心の底から思い生きることで本当に会えることを待つ。その相反する思いの矛盾と辛さ、萌葱には想像すら付かないものだった。
そして不幸が移る可能性があるため、抱きしめてあげることすらもできない。
何も出来ない自分に萌葱は思わず胸元で拳を握り込むのだった。
「あ、そういえば」
「ん? どうしたの凛さん?」
「命どこいったのかしら」
気が付けば娘が見当たらない。慌てて探し出す凛。はっと気付いてぶつぶつと呟きだす。
娘に会えないなんて幸運と繰り返し呟く凛に複雑な思いを覚えながら萌葱は必死に捜索する。
すると、下の方から声が聞こえるのに気付けた。
どうやらたまたま開いてたマンホールに落下したようだ。
「凛さーん。こっちです」
「あ、萌葱さんは触れないでください。娘も不幸体質なので触ると感染しますよ」
「嘘でしょ……」
冗談にも出来ない言葉を聞いてだそうとした手を思わず引っ込める萌葱。
次の瞬間鉄砲水が発生し命を押し流して行くのが真上から見えた。




