マイノアルテ・隕石落下1
「どうしろと……」
驚くヌェルティスは、近づいてくる巨大隕石を見上げていた。
近くに居る面子を見る。破壊できるか? と聞かれれば可能性はある。とだけ言うべきか。
エンドの遠距離攻撃や自分の暗黒魔法を使えば割り砕くくらいは可能だろう。細かくなった隕石の流星雨が降るだろうがそれをどうにかする術は無いので、自分たちが行えるのは割り砕くだけだ。
「ふむ。隕石相手では私は無理だな。自身は生き残れようが魔女が死んでは意味がない」
「うむ。巻き戻しも意味がなさそうだな」
「怪力だけじゃ何にも出来ないなぁ……」
龍華、柳宮、真奈香が残念そうに呟く。
彼らは今回足手まとい化してしまっている。
ヌェルティスとしては戦力外通告したくも無い面子だが、超遠距離攻撃を持たない彼らでは確かに何も出来ないだろう。
流石の龍華も星を切り裂くことは出来ないようだ。
「ふむ。茉莉の奴なら何とかできんだろうか?」
「魔法少女らしいしな。戦力にはなるだろう。しかし呼びに向かう時間はないだろう」
「向こうは向こうで動いてるでしょ。こっちが出来ることからやってきましょ」
「それもそうだな」
今回は出し惜しみなどしている暇はあるまい。
ヌェルティスは一人頷き、魔法を考える。
「仕方ないな。シャロン。もう一度口付けだ」
「……あ、そうですね。能力の解放を……」
「え? ちょ、ちょっと待ってシャロン。貴女もしかして、制約知らないの?」
「え? 制約? なんですマグニア?」
問い返されて困った顔になるマグニア。
「能力の解放は一度行うと一日は行えないの。効果は二時間程よ」
「……ヌェルティス、時間は?」
「いや、流石に二時間はそろそろ経っておるだろ?」
「あの隕石がここに来るのはどのくらいだ?」
「明日までは持たないと思うぞ」
龍華と柳宮の言葉にヌェルティスは焦る。
「ど、どうしろと!?」
「神がなんとかしてくれればいいけど、無理でしょうしねぇ……」
仕方ないか。とエンドが息を吐く。
「ステラ……能力解放をお願い」
「エンド? 何とか出来るの?」
「さぁてどうかしら? でも、やれる可能性があるのはヌェルティスか私なんでしょ?」
「……そうね。やって見せて」
ステラはエンドと口付けを交わす。
魔女とントロのキスに寄り、ントロにかせられた枷がはずれる。
「形態変化・ドラゴン、フェニックス」
エンドの姿が変化する。
その姿は伝説上の生き物。地球には存在する筈の無い空想の生物である。
青き龍を思わせる長い体躯に屈強な鱗、そして背に生やされた紅の翼。
ばさり
ひとたび羽を動かし、飛び上がったエンドが飛んで行く。
空へとひたすらに飛翔していくその姿は、まさに伝説の龍その者であった。
「なんっじゃありゃぁ!?」
「エンドの能力だろう。私はよく知らんが」
「そのくらいは分かっておる。ええい、ドラゴン変化とかカッコイイではないか。いいなぁ、いいなぁ。暗黒闘気纏って儂もなんとかアレ作れんかなぁ」
「ドラゴンになりたいのか……廚二病患者の考えることはよくわからんな。あんなモノ図体がデカイだけのステーキ候補だろうに」
「龍華の感性の方が訳分からんわ。なぜあの巨大で勇壮な存在を食料として見れるのだ全く」
しかし、とヌェルティスは周囲を見回す。
小高い丘に着地したヌェルティスたちはただただエンドを見上げているだけであり、周囲への危険は全く確認していないようだ。
ヌェルティスがぱっと見た感じでは危険は無さそうだったのでヌェルティスは再び空へと視線を向ける。
「しかし、隕石……なぁ。どんな女神の能力を手に入れたらあんなモノを呼び出せるのだ」
「流石に少々強過ぎるな。神が消せないということは同格くらいの実力はあるのだろうし」
「そうなのか……あ、そうだ聖よ。この状況について覚えて居らんのか?」
「すまんな。流石に覚えてない」
「そうか。だが龍華や他の未来人が居る以上地球はなんとかこれを撃退出来たのだろう。最悪でもそれが分かれば決して相手が無敵という訳じゃ無いことは理解できた」
「仕方あるまい。今回はここで見学だ。誰かがやってくれることを祈っておくこととしよう」
既に豆粒すら見えているのかどうか分からないエンドを見上げる。
彼女はやってくれるのだろうか?
分からないが彼女に託すしかヌェルティス達には出来そうになかった。
「ん? おい、聖、お主なんで……薄くなっている?」
「ん? むっ!? これは……ラナエ!?」
振り向いた先に居たのは、ラナエ。その背中から刃を突き立て、フラグニアが立っていた。
「フラグ……ニア?」
「へへ。こりゃいいや。共闘してよかったぜ」
「貴様、ビルグリム!?」
フラグニアの後ろにはビルグリム。
どうやらビルグリムがフラグニアを運び、龍華が感知するより早くラナエを殺したらしい。
「くっ、やられた!?」
「貴様等やってくれたな!?」
叫ぶヌェルティス。走りだす龍華。
柳宮と真奈香も魔女たちを守りに入るモノの、その面子を嘲笑うようにビルグリムがフラグニアを抱えて走りだす。
物凄い速度に皆が付いていけない。否、彼女だけは即座に追い付き切り裂く。フラグニアの装甲で受け止められ、龍華最後の一撃が終わった。
「ヌェル、真奈香、白滝、エンド……後を、頼む」
一言だけを残し、龍華が消え去った。




