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マロムニア2

 二人して対面で炬燵に潜り込む。電源は入っていないが、これに潜ると何故か落ち付けるから不思議だ。

 イチゴははふぅと息を吐いて炬燵に上半身を預ける。

 直ぐにはっと気付いて身体を起こし、クラシカを見た。

 ぐた~っと同じ体勢を取っているクラシカがいた。


「クラシカさん……?」


「ごめんなさい。ゆったりできる時、殆どなくて。あー癒されるぅ」


 余程魔王業が大変らしい。苦労してるんだなぁとクラリシアとは全然違う王の苦労にイチゴは苦笑いする。

 彼女が側室入りしているクラリシアの王は側近や正妻たちのキャットファイトに巻き込まれたり逃げたりするのが主な仕事になっている。

 前王妃が普通に現役なことも理由の一つだろう。書類仕事などはキャットファイトの合間にちょっと教わる程度で他はネリウの親が全て行っているのだとか。


「じゃあ、とりあえずそのままで。えっと、結局どうなってます? 魔王軍も他の国も戦争準備をしてる様子はないみたいですが?」


「ええ。数日前から探してるんだけどね。女神の勇者と思しき存在が居ないのよ」


 クラシカはここ最近、無数の国と連携し、それこそくまなく世界中を捜索した。

 しかし、女神の勇者を自称する存在も、黒髪の怪しいパーティーも見当たらないのだ。

 捜索中に遭遇して消されたような冒険者も居ない。


 遺跡などにも苦労して侵入してみたが欠片も見受けられなかった。

 街に潜んでいるのかと暗黒街や浮浪者のいる通りを一斉検挙してみたりもしたが、一向に姿を現さない。

 本来であればそろそろ何かしらの行動があってもおかしくない筈なのだ。

 なのにどの国も滅びたり打撃を受けたなんてことは起きていない。


 もしかしたら女神マロンからの話は嘘だったのではないか?

 そんな疑問すら国内から出て来る程に、なんの成果も上がらないのだ。

 まるで居もしない幻獣を捜索している気分だ。


「世界中捜索したんですか?」


「近くの国が必死こいて国内探して、私は連絡を受けただけなんだけどね。マロン様と敵対することの愚かさを知っている各国がわざわざ世界を滅ぼすと言われている勇者を匿うことはないでしょうし、あと探してないのは……あそこくらいかなぁ」


「あそこ?」


「ええ。一応、この世界ではあるのですが、私達では捜索できそうになくて放置している個所があるんです」


「そんな場所があるんですか!?」


 驚くイチゴ。しかしふと、ある一つの島を思い出す。


「あー。もしかして?」


「はい。もしかして、そこに居るのかも? いえ、むしろ、居たのかもしれません」


 二人して思わず顔を見合わせる。


「い、いやー。流石にそれは……」


「そ、そうですよね。流石に都合が良すぎますよね?」


 あははははははは。

 あり得ないことに二人は乾いた笑みを浮かべる。


「ちょっと、マロンさんに聞いてみましょうか……」


「お願いします」


 イチゴが連絡を入れる間、クラシカははふぅと休憩を堪能する。

 休暇には出来ない。しかし、数分間でも休めるのなら、それに越したことはないのだ。


「クラシカさん。そんなにきついなら休暇を取られた方が……」


「皆さんそう言ってくれますけど、この前無理矢理取らされた休暇が休暇にならなくて」


 皆も心配してくれたのだろう。クラシカに一日休暇を作った事があった。

 しかし、クラシカが一日仕事をしないだけで書類が恐ろしいほどに溜まり、他の作業に差し障りが出てしまった。その時ようやく宰相たちはクラシカが行う仕事の多さに気付かされたのである。

 以降出来そうな仕事を彼らでこなすようにはしてくれたのだが、やはり仕事量は許容量をオーバーしたままである。


 さらには上手く魔王城が回っているのか気が気でなかったクラシカは休暇なのに休養できず、逆にストレスが溜まってしまったらしい。

 せめて安心して任せられる部下ができるまで、彼女の休みは無さそうだ。

 部下が出来るのが先か、彼女が過労で倒れるのが先か、イチゴはちょっとヤバい状況じゃないのかな? と疑問に思いながらマロンに勇者の居場所の確認をして貰うことにした。

 平和になったら助っ人を何人か呼んでクラシカを休ませるのも良いかもしれない。


「連絡終わりましたよ」


「じゃあ、どうしましょっか?」


「炬燵に入ると出たくなくなるんですよねー」


「じゃーもうちょっと。ミカン有りますよ、食べます?」


「はい。あの、これ、表面に顔が……」


 蜜柑族からの差し入れである。

 彼らが育てる蜜柑は何故かこゆい顔が付いてしまうのだ。

 イチゴは嫌そうな顔をしながら蜜柑を向いて行く。


「うわー、スプラッター」


「結構美味いんだがな。この顔さえなければ」


「この顔さえ、なかったらなぁ」


 二人は再び顔を見合わせ溜息を吐くのだった。

 マロムニアは、本日も平穏な時が流れていた。

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