マイノアルテ・アルテンリシア家3
「祖は宵闇の覇者にして真祖の王。我誘うは魔物の王。用意されしは数多の供物。時満るは収穫祭。我が目に映る全ての園は収穫場。集え魔王。集え魔神。我が最高の祭典へ!」
ヌェルティスの声が高らかに響く。
魔女との口付けにより枷を外したヌェルティスに、敗北の二文字は考えにすら及ばなかった。
「悪魔たちの祭典!」
相手はただの木。ならば暗黒炎であれば燃える筈。
ヌェルティスの黒炎魔法がギルガナッザを包み込む。
さらに炎に揺らめきながら魔王たちの収穫祭の幻影が覗く。
料理長ニスロクにより作られたあまたの供物を食す魔王たち。
サタン、ルシュフェル、ベルゼブブ、龍華などなどが集う幻影は、あまりにも恐怖をそそる収穫祭だった。
「って、ちょっと待てヌェル! 今私がいなかったか!?」
「……き、気のせいであろう?」
ヌェルティスにとっては魔王と同義、むしろそれ以上の悪夢だったので幻影に登場してしまったらしい。これ以上追求されても困るので適当にあしらっておく。
「お前が魔王じみているのは今更だろう。それよりも見ろ」
なおも追求しようとした龍華に、柳宮が遮る。
視線で皆を促す彼が教えたかったのは、黒炎の合間にあまりダメージを負っていないギルガナッザがいたからだ。
「なんと!? 火炎が効かぬのか!?」
「そんな筈はないわ。でも特性……違うのかも?」
「いや、見ろ。根や蔦は燃えている。おそらく燃えるよりも早い速度で再生しているのだろう。随分と強力な再生能力だ」
「ええっ!? それって卑怯だよ!?」
「卑怯でもそれが特性って物よ真奈香。龍華、方法は?」
「おそらく再生能力は根から吸収した大地をエネルギー源にしている筈だ。龍脈を吸い上げている根を根こそぎ破壊できればあるいは……」
「ふむ……そうなると私と真奈香では無理そうだな。魔女たちの面倒を見ておこう」
柳宮は接近戦しか出来ない自分達を鑑みて魔女たちの護衛をするようだ。
「仕方ありませんね。根っこの方は龍華に任せ、私は本体を攻撃しましょうか。ヌェルティスさんは今の連射できます?」
「ふむ。それが妥当か。もう数体ントロが居ればいいのだが、それにしても卑怯な魔王だな。アレも同じントロというのがなんとも……個体差凄すぎぬか?」
「おそらく魔女と直結することで常時枷を排除した状態になっているのでしょう。つまり、勇者が居なければ退治出来ないような大魔王が相手というわけですわね」
「ふむ。手塚の奴を呼びたくなるな。フレアライトクロスで一撃だぞきっと」
「有伽ちゃんがいてくれればなぁ。あんなの一瞬でぶわーっとやってくれるのに」
なんだぶわーって。と小首を傾げたエンドだったが、そんな些事に構っている暇などないと意識を切りかえる。
「では、私が地を駆け根を切り裂く!」
「儂が燃やして動きを止める!」
「そして私が本体をやる! それでいい?」
三者三様こくりと頷く。
相手が頷くことは確認すらせずに、同時に足を踏み出した。
加速する龍華が大鎌を振るう。
迫る根を蔦を切り裂き道を作って行く。
「祖は宵闇の……は今はマズイな。以下略、悪魔たちの祭典!」
ヌェルティスの魔法により龍華の前方の根や蔦が一瞬で炭化していく。
その炎の中を突っ切る龍華。身を焼かれながらもギルガナッザすらも脱帽ものの再生力で駆け抜ける。
「やはりあそこに居るのは私ではないか! あとで尋問案件だな」
二度目の幻影出現で確信した龍華はあとでヌェルティスの尻でもひっぱたいてやろうと心に決め、そのためにも生かしてここを切り抜けることを決意する。
黒炎を抜けた先に、ギルガナッザの根元。迷わず切り裂く。
「なんだとっ!?」
「ふはは! 魔王程度が龍華を見誤ったな! あれは魔王だろうが魔神だろうが神だろうが切り裂く死神様だ!」
「何を得意げに……」
呆れながらも切り裂く行為を作業のようにたんたんとこなす龍華。
そんな龍華に奇襲を仕掛け攻撃を止めようとするギルガナッザだが、それを阻止するのはヌェルティスの役目。
「略式伝説の大地の悪夢の記憶」
「なんかもう、長い呪文必要ないような?」
「馬鹿者! 真奈香よ、呪文詠唱は、ロマンなのだ!」
即座に反論するヌェルティス。その両手はさらに魔力を高め、絶大なる一撃を用意する。
「祖は宵闇の覇者にして真祖の王。我誘うは悪意の柱、聖なる柱と対なる柱。堕ちし柱よ立ち昇れ。足掻け生者、迷える羊よ贄と化せ!生贄求ム悪意之柱!」
魔力を練り上げた究極の一撃。
驚く龍華ごとギルガナッザを闇の柱が包み込む。
「ええいヌェル! 貴様私が不死身だからと遠慮なく行きおったな!」
「聖ならば普通に無傷だろう。遠慮はいらん、今が好機ぞ!」
「悔しいが事実だな。だが後で覚えておけ」
叫びながら龍華が切り込のだった。




