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マイノアルテ・クラステス家4

「真空波斬!」


 龍華の一撃が前方を薙ぎ払う。真空波に切り裂かれた根が霧雨の隔壁ミズル・ウォールに触れて消し飛ばされる。

 その光景を、ガルニエはただただ走りながら見ているしか出来なかった。

 次元が違う。そう言わざるをえない。


 自分は騎士だ。ントロ召喚されたことでそれなりに強いと自負はあったし負けるなどとは思いもしなかった。

 しかし、目の前に居る、今は仲間のントロたちを見ていると、勝てる気がしない。

 自身も含めて守っている霧雨の防壁を破る術を思いつかない。


 さらに巨大な鎌を軽々振るう少女。

 あの攻撃範囲はあまりに脅威だ。

 それだけならまだしも、真空波まで飛ばせるとあってはどれ程の射程を誇ることか。


 悔しいが彼女達と敵対した場合、ガルニエが勝利できるビジョンは見えなかった。

 マグニアを守り彼女達を倒すのは、竜退治よりも至難であると言えるだろう。


「そろそろ玉座だな」


「敵の攻撃も激しくなってる。多分首魁はもうすぐよ!」


 エンドと龍華には付いて行くだけでやっとだ。

 ガルニエは自分の力の無さを確信しながら、もっと強くならねばと心に刻む。


「扉、開けるわ!」


「ああ、吹き飛ばしてしまえ!」


駆け抜ける閃光フラッシング・レーザー


 一条の光が扉を突き抜ける。

 意図した効果ではなかったようでエンドがあら? と思わず戸惑う。


「ここは私が! 巨竜殺しの一撃、お見せします!」


 事前にマグニアにキスをして貰っていて良かった。

 ガルニエは魔女に感謝して、剣に力を込める。

 光り輝く剣がさらに猛り狂う。


「ドラグバスターッ!」


 真下から切り上げる一撃、光の斬撃が扉へと襲いかかる。


「ほぉ! 真空波斬の縦バージョンか! しかも威力がかなりある!」


「さすがントロね」


 よく言う。扉が爆散するのを見ながら、ガルニエは心の中で舌打ちする。

 彼女達二人は口付けをして本来の力をだしてすらいないのだ。


「来たか……」


 根っこだらけの謁見の間に龍華たちがやってくると、玉座に座る女性が一人。

 否、それは生気のない女性で、この原因を作った人物ではなかった。

 カルメラ・ノン・アルテンリシア。ここアルテンリシア家の魔女である。


「これは……」


「後ろだ! あの女性の後ろ、玉座を見ろ」


 龍華の言葉でガルニエも気付いた。あの玉座は玉座ではない。脈打つ玉座などありえるものか。

 蔦のような脈動する何かが絡まって作られたそれを見て焦る。

 ガルニエが想定していたよりも凶悪な存在がそこにいた


「ようこそ、我がアルテンリシア家へ。いや、魔王ギルガナッザの城へようこそ」


「ま。魔王……だと?」


「成る程、アルテンリシアは魔王をントロとして呼び出したか」


 龍華の言葉でようやく理解する。

 なぜこの世界で魔王などという存在がいるのかと疑問に思ったガルニエは、ようやく理解できて思考が追い付いて来たのに気付いた。

 今まで龍華やエンドの強さ、蔦や根のよくわからない状況。すでに翻弄されすぎて理解が置いてきぼりになっていたらしい。


「まだ混乱気味ですが、とりあえず目の前のアレを倒せばいいのでしょう?」


「そういうことね。あ、でもシールドの外には出ないで、切り刻まれても知らないわよ」


「遠距離のみで倒せとか、無茶を言いますね」


「火力は充分だ。問題はあのカルメラだがな」


 どう助けるべきか。そう思案する龍華にエンドは眼をぱちくりとさせる。


「何を言ってますの? ギルガナッザとかいう魔王を倒すかあの魔女を殺せば勝手に消えるのでしょう。ならば狙って倒した方がいいでしょう。魔王はともかく魔女を生かす理由、ありませんわよね。魔女戦争ですし」


「それはそうですが、囚われの女性を殺すなど……」


「甘い甘いチョコよりケーキよりシュークリームよりも甘いですわっ! もはや紅茶に砂糖を山盛り入れるくらい甘過ぎですわよ!」


 魔女である以上、倒さなければならない敵だ。

 ントロとしてエンドの言葉は正しい。納得できるかどうかは別としても、龍華もガルニエもカルメラを救う必要はないのである。


「遠慮は要りません、どうせ殺し合うのですから今倒すのも後で倒すのも一緒、いえ、後に回せば足元掬われるかもですし、今でもアレを気にしながら闘って勝てますの? 救えるなら救えばいいですが、ハイリスクローリターンでは救う意味の方がありませんのよ」


「……確かにそうだな」


 エンドの言葉に納得する龍華に正気かこいつら。と思わず驚愕するガルニエ。騎士である彼にとっては目の前で危機に瀕する女性を見捨てるなど出来る相談ではなかった。

 しかし、今エンドの防壁を解除して女性を助けに向かっても犬死に、遠距離攻撃をするには彼女の背後に潜む魔王を倒すには彼女の身体が邪魔過ぎる。

 むしろ弱点である魔女を前面に押し出してくれているのだ。そこを攻撃しない手はないだろう。

 騎士としての矜持とントロとして敵を屠るべき使命。相反する思いがガルニエを苛むのだった。

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