マイノアルテ・クラステス家3
「い、今……何が起こった?」
おもわず頬を抓るヌェルティス。
間横で槍を振るっていた真奈香も戸惑った顔をしている。
「地中から来るぞ! 魔女を守れッ!!」
龍華の声が張り上げられる。
「失礼」
柳宮がいち早く動きステラを御姫様抱っこで抱えあげると跳躍。
一瞬遅れて根っこのような何かがステラに襲い掛かり空を薙ぐ。
ジルベッタにも襲いかかってきたが、これは龍華が一閃。
「真奈香、任せる!」
ラナエを真奈香が即座に抱えあげて空へと飛び上がる。
そこに龍華がジルベッタを投げ飛ばす。
「ひゃああああああ!?」
投げ飛ばされたジルベッタの悲鳴が上がる。真奈香は難なく彼女を片手で受け止め抱えると、そのまま空を駆け上がった。
遅れ、無数の蔦が地面を割り砕く。
「マズい!?」
「シャロンこっちだ!」
ぎりぎりシャロンを確保したヌェルティスが使い魔を召喚して空へと飛び上がる。
その視界の隅に映ったのは地面から逃げられないクラステス家の魔女とガルニエ。
必死に魔女を守ろうとするガルニエだが、いかんせん蔦の数が多い。
「疾ッ」
龍華が走り込み一閃。ガルニエの周囲にいた蔦を一掃する。
「ヌェルティス、ついでにこの魔女も頼む!」
真奈香の足に捕まる柳宮。彼はステラを抱えたまま安全圏に脱出できたらしい。真奈香は空を駆けあがり、さらにそのまま空中で立ち止まる。
「ふぅ、焦ったぁ。隊長、大丈夫ですか?」
「問題無い。ヌェルティスだったか、そちらは無事か?」
「よっ、と。流石に二人を抱えると足場の使い魔共が辛そうだな」
龍華に投げ飛ばされたマグニアを受け取ったヌェルティス。
足場が一瞬下がったことに焦りを覚えるが、足場にしている使い魔たちはなんとか持ち堪えたようだ。
「ガルニエだったな。私達は王城に突撃するしか無さそうだ。さっさと原因を倒すぞ!」
「承知しました」
「私も行きますわ。ヌェルティスの手荷物を持ってもいいけど二人よりは三人の方が良さそうですし」
城への道を確保したエンドが参入し、三人が城内へと走って行く。
それを追う根っこの群れは、桟橋には流石に生えれないようで、悔しげにうねっていた。
しかし、城内は根っこ達の巣窟らしい。うぞりと無数の根っこが龍華達を待ちかまえる。
「二人とも、私の側に寄りなさい! 霧雨の隔壁」
エンドの叫びに二人が身体を寄せる。そこで発動した霧雨の隔壁が三人を包み込んだ。
「むぅ、あれ、全員を詰め込んで全員で向かえばよかったのでは」
「今更ですわね。しかし、事が終わるまで私達はここで見物ですの?」
「マグニア……」
間横に来た友人に、シャロンが苦い顔をする。
軟禁しようとして裏切った相手なのだ、思いは複雑だろう。
だが、それもシャロンが魔女戦争に参加しないようにと思ってのことだと思えば友人思いだと言えなくもない。
「先に言っておきますわシャロン。今でもわたくしはあなたを魔女にはしたくない、できるならこのまま魔女としての資格が無いままにしていて貰いたいですわね」
「姉が戦争を勝ち抜けば、世界を統一して恐ろしい計画を発動させてしまう。それだけは阻止したい。私が戦争に参加すれば、私が存在する間は絶対にそんな事は起きない。だから……」
「それでも、貴女が魔女戦争に参加する必要はありませんでしょう? 私がいます。ガルニエがきっと阻止してくれますわ。だからあなたは……」
「貴女に、死なれたくない……」
消えるような声で、シャロンが呟く。
恥ずかしかったのか直ぐに俯いてしまったが、聞こえてしまったガルニエはまぁ。と口元に手を当てる。
「シャロンったら、まさかわたくしを心配してくださってましたの?」
互いに相手を死なせたくない。敵対もしたくない。だから、対立せざるを得なかった。それを知った二人はただただ恥ずかしげに相手から眼を逸らすしかできなかった。
そしてそれを耳元で繰り広げられるヌェルティスは完全に身の置き場に困っていた。
「それ、今話さなきゃ駄目なことか……早くダーリンに会いたい……」
そんな事を呟いてしまうのも仕方ないことであった。
テンションが下がったヌェルティスに真奈香が近寄ってくる。
「ヌェルティスだったな」
真奈香の足に掴まった状態の柳宮に問われ、ヌェルティスは顔をあげる。
「どうした?」
「日記によればおまえならできると書いてあったのでな。あの城に遠距離から攻撃を行って貰えないか?」
「遠距離攻撃か。ふむ……使えるのは、むぅ? 供物蛇の輪舞会しか使えんのか? 悪魔たちの祭典などの魔力回路に繋がらんぞ?」
「おそらく制約ですわね。シャロンとキスすれば解消されますわ」
「え、儂、それは嫌なんだが」
自分の唇はダーリン専用だ。そう主張したいヌェルティスは速攻拒否していた。
同性に拒絶されたシャロンがちょっと傷付いたのは秘密である。




