マイノアルテ・クラステス家2
「くぅ、なんという……」
「貴方様、申し訳ありません」
ヌェルティス達の元へ声が届く。
群がる人々を薙ぎ散らしながら進むことしばし、ここは貴族邸ではなく王城のようで、その門前で町人たちと闘いを繰り広げる四人の男女が見えた。
「居たぞ、モルディアノ家だ!」
「待て、アレは……シャロンを襲っていた男ではないか」
「マグニア・フィー・クラステス、そのントロ。竜殺しの聖騎士ガルニエ。クラステス家の魔女たちだわ」
哀しそうな顔で、シャロンが告げる。
友人だと思い助力を乞うた彼女は、シャロンを軟禁しようとしたのだ。
その彼女とこんな形で再会することになったのだ。思いは複雑だろう。
「シャロン……」
「いえ、参りましょう。あの城を目指さねばならないのは確かです。モルディアノでもクラステスでもない魔女、あるいはントロの攻撃だというのであれば、この街の現象を食い止めるのはあの城を攻略すること、最悪あの二家とも協力するしかないでしょう」
「モルディアノと……か。それにしても、彼女の屋敷はどうなったのかしら? あの城の位置にあった筈だけど……」
ロールが思わず唸る。どうやら立派な城は後からできたものらしく、おそらくントロの能力によるものであろうと思案する。
「城を作りだすントロかぁ。王様が相手とか?」
「魔女も操られてたりしてね」
真奈香とエンドの言葉にロールの顔が嫌悪に歪む。
「カルメラ……大丈夫かしら」
敵を真奈香が薙ぎ払いながら皆の安全を確保し突き進む。
「ユウサクだったわね。がんばるじゃない」
「むぅ!? き、貴様等何故ここに!?」
「あんたらがアリアンヌ家を乗っ取ったからそれを奪い返しに来たのよ!」
「シャロン!? ああ、なんてこと、結局貴女も魔女戦争に参加してしまうのね」
絶望に顔を歪ませたのは金髪ロールおさげの女性だった。
驚き具合がいちいち芝居がかって見えるのが少々気になる高嶺の花は、白銀の騎士に守られながらもシャロン達に警戒感を滲ませる。
「マグニア……」
「私は悔しいですわシャロン。貴女を止めきれなかった自分の無力さが、呪わしいわ。言ったじゃない、シャルロッテは私が倒すから、貴女は私の城にいなさいと」
何か言いたそうに口を開こうとしたシャロン。しかし、言葉がつっかえたのか、そのまま諦める。
「マグニアだったな。シャロンとのいさかいに口を出す気はないが、今はこの現象をどうにかするのが先決であろう。協力する気はないか?」
「共闘ですわね。シャロンがいいのなら、わたくしは構いませんわ」
「……ああ、ヌェルティスが良ければ、私は構いません」
少し辛そうに告げるシャロン。確執がどのようなものかは理解していないヌェルティスだったが、周囲の仲間たちに視線を送り、同意を得たことで首肯する。
「よし、今はとりあえず呉越同舟。この現象を起こす首魁を仕留めるぞ」
「共闘ですか。いろいろ思うところはありますが、今は全て飲み込みましょう。ですが、城門は開かず桟橋も上がったまま。向こう岸にある城に辿りつく方法がありませんよ!」
ガルニエが声を張り上げる。ヌェルティス達全員に聞かせるように告げたその言葉に、ならばとエンドが突出する。
「桟橋と入口は私がどうにかするわ。ジルベッタをよろしく」
「承知した!」
走りだすエンドに代わり、龍華がジルベッタとラナエの護衛に回る。
ステラとシャロンをヌェルティスと柳宮が守り、真奈香が道を切り開く。
大振りに振るわれる旗が風圧を受けてばたばたと激しく靡く。
血飛沫を撒き散らしながら右に左に流れる旗は、まさしく町人を吹き飛ばす凶悪な武器と化していた。
「エスメラルダッ! 私の証明証を返しなさい!」
「あら、こちらは流石に共闘無理かしら。貴方様どうしましょう?」
「仕方あるまい。証明証を渡してしまうのが一番だろう。楽に終わると思ったんだがな。ままならぬな国家統一は」
ユウサクに言われ、しぶしぶ証明証を取り出すエスメラルダ。
破壊音と共に桟橋が降りる。
焔を纏わせたエンドが城門を融解させた瞬間だった。
ゾブリ。
証明証を受け渡すエスメラルダ、そしてそれを受け取りに近づいたロール。
二人の身体を地面から生えた何かが貫いた。
「……え?」
「あ……れ……?」
二人揃って腹を見る。
突き刺さった長い棒状のモノ。否、それは地面から現れ二人を串刺しにする青い根のようなモノ。
ごぷり、血を噴き出す二人に反応するように、根は地面に引っ込んだ。
支えを失った魔女二人が大地に倒れ伏す。
「ロールッ!?」
「バカな!? エスメラルダ!?」
ントロ二人が駆け寄るが、既に遅く、ントロたちの姿が消失を始める。
「な、何だこりゃ、俺の身体が!?」
「送還だ。エスメラルダが、殺されたとは……皆さん、こういってはなんですが、仇を……」
二人のントロの姿が消える。
ヌェルティスたちはその光景をただただ見つめるしかできなかった。




