マイノアルテ・クラステス家1
翌朝、アルテンリシア家を目指すため、ヌェルティス一行は宿屋前に集まっていた。
実際問題仲良く起床し、寝食を共にした彼女達の友情度はかなり高い。殺し合いなど出来る状況ではなかった。
それが気に入らないシャロンではあったが、今ここで無理に敵対しても勝機が無いので押し黙ったまま皆に続く。
「一番気を付けたいのはシャルロッテと茉莉だな。茉莉にはレウが付いている。あの計算高く巧妙な生物相手では、知らぬ間に罠に嵌められる可能性がある」
「フラグニアとかは? あのお爺さんもかなりのやり手みたいだったけど」
「闘った感想から言えばフラグニアは聖の斬撃を受けても問題無かったな。硬過ぎるのは脅威だがやりようはいくらでもある。あのあの爺さんは無駄にしぶとい。それとビルグリムは無駄に速かったな」
ヌェルティスの簡単な言葉にエンドがふーんと気の無いそぶりを見せ、柳宮がヌェルティスの感想を日記にまとめ、ぱたんと閉じる。
アルテンリシアはそこまで離れている訳ではないようで、半日と掛からずアルテンリシア家のある街へと辿りつくことが出来た。
ガールズトークを行っていたせいか歩いた時間はそこまでないような感覚のまま、ヌェルティスは街を見上げる。
「なんというか……変ではないか?」
街を覆う空気が重い。
街門は閉ざされ、内部を見ることはできず、街門からわずかに見える茶褐色の城が不気味に聳え立って見える。
「確かに変ね。カルメラの国は商業が盛んで門戸は開かれてた筈。まさかモルディアノ家に?」
「いや、それなら街門前に兵士がいないのが気になるな。奴らなら我らを足止めするために兵士どもを使い門前払いする筈だ」
「それもそっか」
どの道入ってみないことには理由も分からん。と龍華が街門に手を掛ける。
「ん? 開いてる?」
ぎぃっと開かれる扉。三メートルはある鉄の門が少女の力一つで軽々開かれてしまった。
「聖よ、流石にその腕力はどうかと思うぞ。いや、理解はしておるが理不尽だ」
「私に言われても困るな。不死となった後も鍛錬を欠かさなかっただけだとしかいえん」
龍華が開いた扉を潜り、全員が街の中へと入り込む。
次の瞬間、扉が独りでに閉じられた。
「っ!? お、おい聖!」
「ふむ? これはっ。私の力ではビクともせんぞ?」
入る時は軽々開いた扉は、外に出ようとしても一ミリすらも動かなく、閉まったままになってしまった。
「閉じ込められた? どうなっている?」
柳宮が警戒するように周囲に視線を走らせ日記に視線を落とす。
人の通りは全く無い。まるでゴーストタウンのように生活感の消えた街並みが広がっている。
否。少し遠くから剣撃のようなモノが微かに聞こえる。
「少々おかしい。なんてもんじゃないわね」
「カルメラ大丈夫かしら?」
「っ! 全員円陣を組め! 来るぞ!」
家々の合間から、一人、男が現れる。
第一町人発見と、皆が尋ねようと思い、一瞬で躊躇いを浮かべる。
ふらふらとしている男は虚空を見つめ、しばしその場で立ち止まった後、ぐりんっと首をヌェルティス達に向けた。
当然のように視線は遥か彼方に向けられている。
「う……がぁ……があぁっ」
「ぞ、ゾンビか!?」
「何でもいい、倒すぞ!」
「待て白滝柳宮、下手に触れるな。私がやる」
戦闘態勢になる柳宮を押しのけ龍華が一足飛びに男を切り裂く。
「ふむ……日記には危険な状況になるとは書かれていないな。感染型の生物などではないみたいだぞ?」
「しかし、かなり異常な男だったぞ。どれ……」
ヌェルティスは遺体に近づく。その瞬間、ぐりんとヌェルティスに顔を向けた男が上半身のみで飛びかかって来た。
「っなぁ!?」
「駆け抜ける閃光」
驚いたヌェルティスの頬を掠め、一条の光が駆け抜ける。男の顔面を消し飛ばし、光の筋が消えて行った。
「お、おおぅ、助かった」
「まさに動きはゾンビだったな。しかし、切った感覚は人間だった。おそらく生存状態で操られているのではないか?」
「悪魔の所業だな。ントロの仕業か」
「可能性はあるだろう。どの道、相手のントロに接触せんことにはこの国から脱出もできん」
ぞろぞろと、病人のようにふらつきながら現れる無数の町人。男性女性、老人子供。まるでこの街に住んでいた住民すべてが操り人形のようにヌェルティス達へと群がってくる。
「敵はおそらく王城だ。駆け抜けるぞ!」
「こいつ等に触れたら操られたり感染したりしないわよね!?」
「よっと。とりあえずコレ使おっと」
真奈香が物干し竿をお借りして近づいて来たオバサンを薙ぎ払う。
一撃で物干し竿が折れてしまい、吹き飛んだオバサンが壁に突き刺さった。
「うーん、もっと硬いのがいいな。丸太ないかなー。あ、旗発見。これ使お」
アルテンリシア家を象徴する旗のポールを引き抜き武器に使う真奈香。どれであれ腕力がおかしい真奈香が振るえば、群がる敵を全て壁のオブジェクトへと変えてしまうようだった。




