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マロムニア1

「ふぁー。久しぶりだなぁ」


 青い髪を揺らし、少女は懐かしき世界へと降り立った。

 魔術師ルックの少女は青空広がる世界を見る。

 目の前に居るのはこの国では国獣として登録されているにっちゃうというふわふわもこもこの雪達磨型兎である。


 ぴょいんぴょいんと飛び跳ねている姿を見つめながら、イチゴショートケーキ・フロンティアははふぅと息を吐いた。

 今回、この世界に助っ人に来たのは彼女一人。

 むしろここがヤバいと聞いて思わず一人で来てしまったのだ。


 後で他の人も連れてくれば良かったと思ったのだが、向こうも向こうで大変だと聞かされたので援軍が来るかどうかは不明。とりあえず魔国に向かい現状を確認してから援軍が必要ならば【ムーブ】の魔法で世界を越え、薬藻か誰かを連れてくればいい。その程度に考えていた。


「来たか小娘」


 不意に、声が聞こえた。

 誰だ? と振り返れば、ミカン頭の男が一人。背後に立つと無言で射殺されそうな厳つい顔のミカン男は、イチゴが振り返るとよぉと右手を上げた。


「あなたは確か、薬藻さんのテイムモンスター?」


「だったモノ。だな。会話可能でお前とも面識がある者。ということで選ばれた。飛竜でこちらに来た。魔国へ案内するので付いて来い」


 言うが早いか踵を返すミカン人。

 イチゴは慌てて彼を追う。

 王国から少し離れた草原で待っていた飛竜。首に特別便というプレートを掲げたそいつはイチゴ達を見てしゃがみ込む。


「これに乗って行く」


「あ、はい」


 二人で乗り込み特別飛竜便が飛び立った。

 どうやら飛竜の一部が各国を飛ぶ定期便として小銭を稼ぎ始めたらしい。

 火急の用事などで重宝するので各王国に一匹づつ派遣されているそうだ。


 しばし空の旅を満喫し、イチゴは魔国へとたどり着いた。

 定期便発着場へとたどり着いた飛竜が地面に着地し寝そべる。

 ミカン人にエスコートされながら飛竜から降りると、ミカン人が飛竜の首からプレートを取り去る。


 係りの人だろう、魔族の男が駆けよって来て飛竜に定期便プレートを付けさせていた。

 そんな姿を背後にして、イチゴはミカン人と共に魔国へと向かう。

 にぎわう国を見て、思わず目を見張る。

 前に見た時と全然違う。


 発着場から簡易検査を受け魔国へと入ると、入口付近に勇者公認勇者饅頭を売る屋台。

 どうやら勇者手塚至宝が公認した饅頭屋らしく、1時間待ちの大行列が出来ていた。

 屋台をやってる男も売り子を数人雇って販売中である。

 恐ろしいほどの大盛況に疲労困憊のようだ。売れ過ぎるのも問題らしい。


 魔国の街には無数の兵士が警邏していた。

 女神の勇者が入り込んでいないか定期的に見回っているらしい。

 各国にも捜索隊が出向き、国々と連携しているそうだが、今のところ音沙汰なしだそうだ。


 エントランスホールに辿りつく。

 魔王城に入った瞬間現れるのは、壁に掛けられた一枚の絵画。

 見る者を圧倒する最悪の存在。女神マロンが遣わし、魔族を恐怖のどん底へと陥れた地獄の死神、怪人フィエステリア・ピシシーダの絵が出向える。


 描いた作者が感じた恐怖を存分に描き出したその絵はあまりに恐ろしく、迫力があり、今にも絵を破り実物が出現し見る者に鞭毛と呼ばれる触手を打ち込み、踊り狂わせながら殺してしまいそうな恐ろしさがあった。


 人々に地獄の死神の恐ろしさを伝えるため、魔王クラシカの意向でこのエントランスで自由に閲覧できるようにしている名作である。

 イチゴもこれを見た瞬間思わず硬直してしまい、普段のフィエステリアからは想像もつかない恐ろしさに思わず身震いした。

 どうでもいいことだが、イチゴにとっては夫の肖像画になる絵なのである。

 武藤薬藻の側室の一人であるイチゴは、夫がどれ程恐れられているかを見せつけられた気がして苦笑いしながらさらに王城の奥へと向かうのだった。


 謁見の間へと辿りつく。

 ミカン人にドアを開いて貰い、一人、赤い絨毯を歩いて行く。

 謁見の間には玉座に座る女が一人。

 その座る姿には威圧感があり、まさに彼女が王なのだと納得できる存在だった。


「お久しぶりですイチゴさん」


「はい。クラシカさんも御壮健なようで」


 クラシカは玉座から立ち上がるとイチゴのもとへと近づいてくる。


「とりあえず、お話もありますし、あちらへ参りましょう」


「あ、はい。あの、謁見はもう終わりで?」


「あんなものお猿さんに任せておけばいいんです。それよりも休みたいっ」


 思わず出た本音に思わずクラシカは口元を押さえる。


「あの、今のは他言無用に」


「言いませんって」


 くすくすと笑いながらイチゴとクラシカはクラシカの自室へと向かった。

 豪奢な部屋だが、これは王としての威厳の為の部屋。

 その部屋の奥に存在するドアを開きクラシカはプライベートルームへとイチゴを案内する。


「え? 質素?」


「私もともと王族とは無縁の存在でしたし。王族の部屋とか眩しすぎて寝れませんから、増渕様にお願いしてこの部屋を作って貰いました」


 ベッドと炬燵があるだけの簡素な部屋に驚くイチゴ。どうやら増渕が地球の方から炬燵を持って来たらしく、電力の方は魔道具で何とかしているそうだ。

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