マイノアルテ・強奪の勇者2
強奪の勇者の強みは、触れたモノから奪うことが出来るだけでなく、魔法やスキルに触れるだけでソレを強奪できるチート力にある。
つまり相手の身体に触れずとも、防壁などはそれに触れれば奪えてしまうのだ。
エンドはそれを見越していたのか遍く全てを防ぎし壁よをさっさと解いて奪われないようにしていた。
かわりに、霧雨の隔壁を張ったままにしていたのだが、これは奪われる心配すらない防壁だ。
物理攻撃に対してはこれ程に効果のある防壁はまず無いだろう。
何しろ、高速回転し続ける霧雨の水たちが、遍く全ての触れたモノ削り飛ばしてしまうからである。
そう、この防壁は、触れたモノを削り飛ばす、エンドにとっての姉が扱う能力である。知能が足らなかったのかスキル名が英語としては間違った読み方になっているが、エンドは気にせずそのまま使っていた。
そして、そんな防壁に手を触れ奪おうとした強奪の勇者。その腕がどうなるかなど、自明の理であった。
腕が消し飛んだことに、強奪の勇者は一瞬気付けなかった。
気付いた時には彼の腕が消え去っており、痛みがじくじくと襲って来た後だ。
「あ、な……なんだこりゃぁっ!!?」
「あははははは。愚か、愚考、愚者。裁断機に手を突っ込むような間抜けね勇者様ァ!」
「て、てめぇぇぇぇッ!!」
防壁に包まれたまま抱きつくように飛び込むエンド。
慌ててバックステップ。魔法弾を無数に飛ばしながら飛行魔法で逃げる強奪の勇者。
霧雨の隔壁が大地を削り飛ばしながら強奪の勇者に迫り来る。
全てを消し飛ばす球体に襲われ、流石の強奪の勇者も強奪など考えず逃げに徹する。
「遮断する光の幻影」
「はぁ!?」
逃げようとした目の前にエンドの姿。
ありえないと思いつつも思わず身体が止まる。
そんな強奪の勇者に突撃するエンド。残っていた腕が消し飛んだ。
「があぁっ!?」
「光の屈折を利用して別の場所に自分を見せる技ですわ。あまり活躍するところはないけれどたまには使ってあげませんと」
「クソッ、奪う。ぜってぇ奪ってやるぞテメェの能力全て!」
「それは、残念。奪うのは、私の専売特許ですわっ」
霧雨の隔壁を切り、飛び上がったエンド。
強奪の勇者が反応するより早く彼の頭を掴む。
「我は汝の行為を禁ず」
「馬鹿が! 俺は自分の体に触れれば強奪できるんだよっ!! 全部奪ってやるッ」
強奪の勇者がエンドに強奪を発動する。
エンドはそれを気にもせず彼の頭を鷲掴みにすると、腕力に物を言わせて持ち上げる。
「……あ、あれ?」
強奪の勇者が慌ててもう一度強奪を発動する。
しかし、スキルが発動しない。否、強奪だけじゃない。今まで奪った魔法も、技も、全てが使用できない。
エンドに掴まれたままもがくしか出来ない彼は、次第自分の力が失われたことに顔を青くする。
「な、なにが……お、お前、お前俺に何をした!?」
「あら? どうしましたの勇者様ぁ? お得意の強奪、しませんの? 私がお姉様方から頂いた光の力を、風の力を、防壁の力を、火炎の力を、あら、あらあら? あらあらあらぁっ。まさか、まさかまさかまさか。強奪スキル使えませんかぁ!?」
ニタリ、黒い笑みを浮かべエンドが告げる。
そのあまりのざまぁと告げそうなしたり顔に、強奪の勇者は悔しくて仕方がない。
しかし、彼は既に詰んでいた。なぜならば……
「ええ。ええ、ええ。そうですわ。それは私がお姉様から頂いた禁止スキル。貴方一日強奪スキルも何もかも、覚えたスキルは使えませんわよ。ああ、お可哀そうな勇者様。どうかしら? 散々力を奪っておいて、いざ奪われる側になった時の喪失感、どうかしらっ」
「ぐ、あああっ、返せ、返せよっ! 俺の能力ッ。苦労したんだぞ! 苦労して奪った能力を返せぇッ!!」
暴れ出す強奪の勇者。
それを見たエンドはさらに喜色を浮かべる。
基本弱者に対しては絶対的優位から下に見るのが好きな性格なのだ。
「ああ。可哀想っ。可哀想過ぎるわ強奪の勇者。無力、無価値、無意味、スキルが奪われればなんとか弱き男になるのかしら。もはや生きてる意味もないかしらぁ?」
「こ、殺す、殺してやるッ! テメェ、絶対に全てを奪って絶望のうちに……」
「ええ、そうね。その通り、今から貴方の全てを奪って絶望のうちに殺して差し上げますわ」
「ち、ちが、殺すのは俺で、殺されるのは……」
「違わないでしょう。殺すのは私で、殺されるのは貴方。この私、最後のシンキングセルにしてコピー能力をもちし全知全能に至るシンキングセル。エンド・オメガが貴方を殺しますわ勇者様ァ!」
「い、嫌だっ。死にたくないッ、俺はまだ全て奪っちゃいな……」
「霧雨の隔壁」
無慈悲に告げられるスキル。
エンドの目の前にいた存在が、一瞬で消失した……




