地球・翼の勇者4
「ギルティ―バスターッ!」
光の奔流が仮面ダンサーアンへと襲いかかる。
しかし、通常の怪人ならば必殺の一撃が直撃しているところだが、アンはやすやすこれを避けてしまう。
ゾンビの群れだけを駆逐して、光の奔流が収まる。
「クソッ、動きが速い!」
「ジャスティスセイバー、貴様にも一応尋ねよう」
「尋ねる? 何をだ!」
「我々エレナークは今、ラナリアに巣食う秘密結社シクタを壊滅させようとしている。貴様もラナリアを抜け我らと来るがいい」
「シクタ……だと!?」
その名は、彼にとって恥辱であった。
彼が首領であるどうもこうもを討ち取れる位置にいながら馬鹿により逆に倒されてしまったのだ。
それだけでなく馬鹿となった彼はクラスメイトを追い詰めるようなことを告げてしまい、福田瑪瑙の暴走に繋がったのである。
彼にとっては因縁めいた秘密結社だ。
「そうだ。奴らをラナリアが匿っているのが分かった。だからこそ……」
―― 皆聞いて! ラナリアがシクタっていう秘密結社に乗っ取られたわ! ラナリアからの指令や通信が入っても従わないで!! ――
丁度その話題をしている時に、マロンから天の声が降り注ぐ。
思わず嘘だろ……とタイミングの良さにジャスティスセイバーは唖然とする。
「どうするジャスティスセイバー?」
「ああ、そうだな。シクタは……シクタは潰すべきだ」
「ちょっと河上!?」
他の仮面ダンサーアンと激闘を始めていた八神が思わず声をあげる。
「だがな仮面ダンサーアン」
「……なんだ?」
「ならばなぜ、関係の無いユクリやあちらの正義の味方にお前達が闘いに向かっている? そもそもが女神の勇者が地球をどうにかしようとしている今、やるべきことなのか?」
「この日本に根を降ろし、なくてはならない機関となったラナリアというシステムが敵に乗っ取られたのだ。これは世界の危機だろう。今動かなくていつ動く」
「ならばこそさ。お前が沢山いるなら俺達など構わずシクタを包囲して物量作戦で倒せばいいだろう。何故それをしない?」
「それは……」
「お前次第でこの状況になる前にカタを付けられた筈だ。わざわざ正義の味方や怪人たちの前に出て来ずとも、秘密裏に大将首を倒せばいいだけだからな。だが、お前はそれをしなかった」
ゆえに、ジャスティスセイバーは彼女の言葉を信頼しない。
確かに、シクタが危険だということには同意する。だがエレナークが善であるとは肯定できない。
女神の勇者達を放置して避難誘導をする正義の味方や怪人を攻撃していると連絡が入っているのだから。
「誰の指示か知らんが、踊らされているのはあんただろ仮面ダンサーアン!」
「……残念だ。敵対するならば君も倒さねばならん」
答えを返すことなく構えるアン。
本気になったと気付いたジャスティスセイバーも迎撃の構えを取る。その瞬間。
「やりやがったなテメェェェェッ!!」
瓦礫を割り砕き、翼の勇者が突撃する。
仮面ダンサーアンに向け、超高速の飛び蹴りを喰らわせた。
だが、それを涼しげに片手で受け止める。
「なっ!?」
「邪魔だ!」
投げ飛ばされる翼の勇者。空中で羽を羽ばたかせなんとか制動する。
地面に着地した瞬間、すぐ側に居たジャスティスセイバーと目が合った。
「ちっ、癪だが俺一人じゃ勝てそうにねぇや」
「……マジかよ。共闘しろってのか」
「互いに邪魔だろが」
「違いないな」
溜息と共に翼の勇者と肩を並べるジャスティスセイバー。本来であれば地球を破壊する翼の勇者を倒すべきなのだが、仮面ダンサーアンを倒すには自分一人では無理だ。
翼の勇者もそれに気付いているようで、ジャスティスセイバーの戦力に期待することにした。
「「こいつ倒したら次はお前だッ」」
走るジャスティスセイバーに合わせ翼の勇者もまた滑空する。
流石に共闘して来るとは思ってもみなかったアンはどちらを迎撃するか一瞬迷い、ジャスティスセイバーに狙いを絞る。
セイバーの一撃を裏拳で弾き、懐に潜り込んでの渾身の一撃。
「させねぇよ!」
翼の勇者が割り込みアンの肘を蹴りつける。
流石に関節は弱かったのかバギリと金属が折れる音がした。
「くっ!?」
「行くぜ、ジャスティス。弾けろ、セイバー!」
「しまっ」
「反応が遅いなアン! 大量投入したせいで身体が扱いづらくなってんだろ! 食らいやがれ! ギルティーッ、ニルカナイアッ!!」
ズブリ、バックステップで逃げようとしたアンの腹へとセイバーが突き刺さる。
正義力が剣から溢れだし、貫いた対象に注がれる。
「ッ!? これは……マズ……」
内側から溢れだす正義力に何かを言おうとしたアン。しかし、その身体は正義力を御しきれない。
セイバーを引き抜いたジャスティスセイバーがくるりと背中を向け、トドメを刺した後のポーズを取る。
その背後で、仮面ダンサーアンが盛大な爆発を遂げるのだった。




