地球・ラナリア乗っ取り
「クソ、エレナークはラナリアを潰すつもりか? どうなってるっ」
メインコンピューターを前に毒付くのは、赤城哲也と日本毅である。
哲也の舌打ちに毅はただ黙って画面を見つめるに留める。
「なんだろうな、この感情。まるで敗戦寸前のあの島にいるようだ」
「何を言って……っ!?」
ドアが開き、誰も入って来ない筈のこの部屋に、何者かが侵入する。
「馬鹿、気を付けろ、何かが……馬鹿?」
入って来た人物に、背後に居た白衣の少女、馬鹿は、なぜか入って来た存在に頭を垂れている。
「やぁやぁ皆御苦労。しかし、そろそろ交代の時間だよ赤城哲也」
「……なんだ貴様は?」
金髪の綺麗な女がそこに居た。
しかし哲也には見覚えのない存在だ。
しかもそいつがインペリアたちを引き連れている。
「初めましてになるかね? シクタ首領というものだよ」
「貴様が!? どうもこうもではなかったのか!」
「あれはただの影武者だ。表舞台に立たせておいただけだよ。そのおかげで随分ゆっくりと動けた。彼らには感謝しておくべきかな」
「それで? 今更現れて何のつもりだ?」
クスリ、シクタ首領は察しの悪い子供に教える先生のように、しょうがないなぁといった顔をする。
「簡単なことさ。準備が出来たので君に預けていたラナリアの権限、その全てを返して貰おうと思ってね」
意味が分からなかった。
ラナリアを立ち上げたのはラナとレウコクロリディウムであり、彼女達は別世界に旅立ってしまったのだ。
仕方なく哲也が首領代理を行っているが、シクタ首領がラナリアの権限を返せというのは話がおかしい。
「俺を、殺すつもりか?」
無言で日本が歩み出て、焦る哲也を庇う。スラリと引き抜かれた日本刀を握り、シクタ首領へと静かに向けた。
「安心したまえ、殺す必要などないのだよ」
「……なに?」
「インペリア。役目を終えた彼らを丁重にお帰りいただけ」
「はっ」
シクタ首領に告げられ、インペリアたちが毅と哲也を拘束する。
「バカな!? どうやって彼らを、俺の権限を越えるのは二人しか居ない筈……」
「クローン技術だよ哲也。レウコは万一を考え別組織に自分のクローンを隠しておいたのさ。自分が滅ぼされてもまだ目的を成すことができるように、二手、三手と手を打っているのだよ」
「レウコ……おい、まさか、まさかあんたはっ! レウコクロリディウムのクロー……」
最後まで告げることなく、哲也と毅は機械兵たちに拘束されエレベーターに乗せられるのだった。
一度下へと降りれば権限が剥奪された彼らがここに戻る可能性は皆無。
邪魔者が消えた部屋でシクタ首領はくっくと笑った。
「首領どの。馬鹿共が消えたのはいいが、エレナークの馬鹿どもはどうするつもりだね」
「そちらはどうもこうもにまかせるよ馬鹿君。インペリア、連絡用に一人私たちに付いて来てくれ。あと、どうもこうもをここに連れて来て哲也君がやっていた作業を無理矢理させておいてくれ」
インペリアたちが了承し、それぞれ散って行く。
シクタ首領達もエレベーターへと乗り込むと、指令室には誰もいなくなった。
そして……追い出された哲也と毅はといえば、一階に無理矢理下ろされ、叩きだされるように外に連れ出されたのだった。
「クソッ、やられた!」
「抗議しようにも今は正義の味方も怪人も出払っていて受付すらほぼ機能してないぞ。皆が戻った時ラナリアがおかしくなっていてもしばらく気付かれない可能性が高い」
思わずアスファルトを叩く哲也と、戦慄する毅。
幸いなのは彼らが無傷でラナリアから出されたことだろうか?
「どうする? ラナリアとしての活動が出来なくなったぞ」
「連絡もままならんな。連絡網は全てインペリアに託してあった、皆に偽の連絡でも流されれば大変だぞ」
「仕方あるまい、駄女神を使うしかない」
「反応してくれればいいがな。おい駄女神、マロン、聞こえるか!」
空に向けて叫ぶ。ゾンビが溢れる世界になったせいかこの周辺に人はいない。御蔭で大声で独り言を叫んでも変人と思われることはない。問題としては大声でゾンビが寄ってくることだが、さすがラナリア周辺というべきか、この辺りのゾンビは駆逐済みのようだ。
―― はいはい。呼ばれて飛び出ないマロンちゃんでーす。オイコラ、駄女神言うなし! ――
「緊急事態だ。全員に連絡してくれ! ラナリアが乗っ取られた」
―― はぁ? 何言って……うわ。なんじゃこりゃ、いつの間にこんな状況に!? ――
「いいから関係者全員に連絡、ラナリアから連絡が来ても絶対に信じるなと告げてくれ! お前が頼りだ。ラナリア本部に居ないラナリア職員にも、正義の味方にも怪人にもクラスメイトにも告げてくれ! 敵は、シクタだ!」
―― りょ、了解。ああもう、また面倒なことがっ! いや、まぁ他が落ち付いた後だから対処可能ってことで幸いかにゃぁ ――
とりあえず最悪の事態は回避できそうだ。
哲也と毅は互いに顔を見合い、安堵の息を吐くのだった。




