地球・時空転移の勇者5
西暦でいうならば4000年。詳しい年代はわからないが適当に転移した。
時空転移の勇者は周囲を調べる。
青い空の先、天空に巨大な大陸が浮かんでいた。
目の前の大地も随分と変わっている。アスファルトも都市すらも無い。
赤茶けた大地と広々とした荒野である。
そして、やはり背後に佇んでいる龍華が一人。
いや、今回は仲間と思しき存在がいる。
ピンク色の髪を持つ少女だ。手には杖を持ち、まるで魔法使いですと自己主張するような紺のローブを身に纏っている。
「龍華さん、ほ、本当に来ましたれすっ」
「だからいっただろう。これが世界の敵だ」
「うぅ、何でそんなのと闘うことになってるんれすか私は……やっぱり不幸です」
「さて、やるか?」
「うるせぇ! まずはテメェが居ない世界の確保だよ。後で散々にぶちのめしてやるから楽しみにしてなァ!」
「ええ!? 折角闘う決意したのにもう消える気ですかっ!? 何この不幸!? やっぱり私不幸すぎ……」
負け犬の遠吠えのように叫んで時空を転移する。ピンク髪の女が何かくっちゃべっていたが聞き流すことにした。
この時代もダメだった。
次は5000年だ。
辿り着いたのはさらに荒廃した大地。大気もどんよりと曇り空で、なんだか空気も悪い気がする。
光化学スモッグという奴だろうか? 薄暗い世界に思わず顔を顰める。
どうやらここには龍華も居ないらしい。
周辺を調べるが龍華の姿は何処にも……
ブロオオオオオオオ
遠くから、空中を走るバイクがやってきた。
風避けの為だろうか? 湾曲した窓ガラスのようなモノが前面に取りつけられ、頭上付近まで三日月状に取りつけられた空を走るバイクだ。
そこに短髪の少年と銀髪の少女、そして龍華がバイクに取りつけた縄を持って水上スキーのように木板に乗ってやってきた。
「いやスマン。待たせたか時空転移の勇者! 流石に5000年ともなるとお前の出現を忘れかけていたよ」
「クソッ。まだ現役かッ!」
「あ、オイ。もう行くつもりか!? 折角来たのに早過ぎ……」
龍華が何か告げていたが、気にせず時空転移を開始する。
6000年代。流石にここまでくれば龍華も諦めるだろう。
だが、そう簡単には行かないらしい。
「お、おいおい、何があったらこうなんだよ……」
肌寒さを覚えて思わず全身を抱きすくめ震えあがる。
地面は灰色染まっており、周囲一面灰世界になっていた。
ただ、白く染まっているだけならば時期が冬であると思うだけでいいのだが、積雪量? が並みではない。
彼が転移を終えた瞬間ずぼっとハマり、胸元まで埋まってしまった。
さらにブリザードが吹き上げ、どう考えても東京付近で起こる状況ではありえない。
なのに目の前には巨大な山が聳え立ち、噴煙を撒き散らしながら赤黒い血流を流し活発な活動を見せている。
黒雲に覆われた空は陽の光すら差し込まず、黒い雪を降らせていた。
違う、これは雪ではない。そして見覚えのない巨大な山。おそらく近くの大地が隆起して作られた山であり、この雪のようなものはすべて火山灰なのだろう。
慌てて口を塞ぐ。呼吸器官に灰が入れば流石に死にかねない。
即座に時空転移を開始する。
龍華が居るかどうかの確認は出来なかったがする必要すらない。この時代では彼自身の生命が危機を迎えるからだ。
なんとか時代をさらに1000年先へと転移。
どうやら火山灰も1000年経てば固まるようで、関東ローム層のように積もった大地はそれなりにしっかりとしたものだった。
目の前の山も火山活動を終えたようで、晴れ渡った空の下、役目を終えた岩山が聳え立っていた。
「ふぅ、流石にここまでくれば奴もいないか」
龍華が周囲にいないことを確認して息を吐く。
実にしつこい存在だった。
だが、時代を越える自分が相手であれば、奴の居ない時代で自由に遊べるのだ。地球を破壊することもできるし、改変だって自由自在だ。
「まさに、時空の王様だな。そういや時空王とか名乗ってたのが居たけど、あいつってもしかして、未来の俺とか?」
「そんな訳ないだろう」
びくんっ。突然掛けられた声に背筋を伸ばす時空転移の勇者。
いつの間にか背後にタキシードの男がやって来ていた。
「チッ。テメーを振り切ることはできないってか?」
「ああできないね。ついでに言えば聖龍華もこの時代にいるさ。既に君のことは忘れているようだけど」
「あー、6000年代にあいつと会わなかったのもそのせいか」
「逆だな。その時代に会うことがなかったからもう死んだ者と思われて忘れ去られたのだろうさ」
「はっ。そういう方法取りゃよかったのか」
今更ながら龍華に会わない方法を気付かされた時空転移の勇者だったが、もはやどうでもよかった。問題は目の前に居る邪魔者だ。
「さて、テメェはどうする気だ時空王。お前を倒して俺が時空王になってもいいんだぜ?」
「ふむ。代わってくれるというのなら代わって貰いたいところだが、残念ながら君は時空を元の形に修正しようとはしてくれないからね。悪いが代わる気はない。それに、今回君の敵は私ではないよ」
では。と何がしたかったのか、彼は時空を転移して消えてしまう。
彼が敵ではないというのなら、時空転移の勇者の敵とは誰なのだろうか?
そう思っていると、空から何かが降ってきた。
驚く時空転移の勇者の目の前に、ドチャリと地面にぶつかって動かなくなる白髪の少年とその少年の上に屋台ごと飛び降りて来た黒髪の少女。
ラーメンの屋台を牽いた少女は器用に屋台を着地させると、あら、ごめん。と少年から飛び降りる。
死んだんじゃないか? そう思った時空転移の勇者の目の前で、潰れた少年がむくりと起き上がった。




