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地球・時空転移の勇者2

「絵麗奈さん、待ってくださいっ」


「うるっさいわね。付いてこないでよ真一っ」


 時代をシフトした。

 時空転移の勇者は周囲を確認する。龍華の姿は無く、敵性存在も居ない。

 そもそも二十年以上時代を巻き戻したのである。ここに敵がいるはずもなかった。


 目の前の道路では金髪の女学生が足早に歩いており、その後をメガネでネクラな男子学生が追って小走りに駆けている。

 どうやら少女は纏わりつかれるのが嫌いらしい。


「絵麗奈さん、待ってくださいって、その身体のメンテナンスがまだ……」


「うるさいっての。大体私が死んだって何よ。こうして生きてんじゃないっ」


「ですからそれは私が人造機械で……と、とにかく、今の状態で人に触れたりしないでください、本当にお願いします。確実に殺人になりますからっ」


 意味のわからないことを呟く真一と呼ばれた男と女生徒が去って行く。その方角から今度は同じ学生服の男女。今度は男が先頭で足早に去っており、それを女生徒が追い掛ける形だ。

 ボーイッシュの女学生は必死に彼を留めようとしている様子でもあった。


「鎖無っ。退学ってどういうこと、なんでそんなことになってるのよっ」


「壱与とかいう奴が男に犯されそうになってたから殴った。それだけだ。じゃあな郁。もう会うこともねぇだろ」


 颯爽と立ち去る男と女。そんな光景を見送り、時空転移の勇者ははぁっと溜息を吐く。


「平和だなぁオイ。これから地獄が始まるなんて誰も思っちゃいねぇーんだろうな」


 ふっと笑みが零れる。邪悪な笑みを浮かべた瞬間だった。


「ウキィ」


 頭に何かがのっかった。

 あ? と思った次の瞬間、駆ける音が聞こえてくる。


「むぁてぇクソ猿ッ。私のクッキー缶返しやがれっ!」


「ウキキ、キィ!」


 時空転移の勇者の頭に乗った猿が彼の頭を蹴って飛んで逃げて行く。


「ああもう、すいませんエテ公が。待てコラァ! 一般人に迷惑掛けんな!」


 女生徒らしき少女は猿を追って去って行く。

 一瞬呆気に取られていた時空転移の勇者だったが、直ぐに我に返る。


「全く、猿が街中に出るとかふざけてやがるな」


「全くその通りだ。新見の小娘は賑やかで困る」


 ゾクリ。聞き覚えのある声に、時空転移の勇者は慌てて振り向く。

 そこには小柄な少女が立っていた。

 黒髪をポニーテールにまとめ上げ、長い揉み上げを風に揺らし、鳳眼を薄くして時空転移の勇者を睨む、三メートルはある血紅の鎌をもたげた少女。


「聖……龍華?」


「やぁ。こんにちは。初めましてというべきか? それとも既に会っているかな? 貴様を殺しに来た者だ」


 振るわれた鎌をギリギリで回避する。

 なぜこの時代にこの女がここに居る? 意味が分からないながらも攻撃を必死に回避する。

 時間転移はできるが攻撃を受ければそれまでだ。なのでダメージを喰らわないよう、必死に時空転移の勇者は避け続ける。


「なぜだっ!? 20年以上前だぞ! お前が生きているはずは……っ」


「たかだか20程度ではないか。不死の私には刹那の時間に等しいなっ」


 時空転移の勇者は舌打ちして時空を転移する。

 空ぶった龍華はむっと唸るが、周囲から彼の気配が消えたことで柄を地面に付けた。


「黒の聖女よ。この時代はこれでいいのだろう。次の時代の私よ、任せるぞ」




「クソ。なんだって過去のあの女に襲われンだよ!?」


 時空転移の勇者は新たな時代に逃げ込みふぅっと息を吐く。

 周囲を見回す。丁度空襲が行われている時らしい。周囲一帯焼け野原である。


「おいおい。なんだよこりゃ……ああ、世界大戦時代か」


 第二次世界大戦終盤時期。日本の敗北が濃厚になっていた時代だろうか?

 自分が手を下すほどでもない状況にため息が出るが、ここならゾンビを出現させて滅ぼしたところで問題は。


「予言通りに来たな」


「お、おいおい、嘘だろう?」


 防空頭巾を被った龍華が既に待機していた。

 先程まで背後でずっと佇んでいたようで、呆れた顔をしている。


「気付くのが遅いのではないか。全く、貴様がここに来るまで二日も戦火に晒されて辟易しているのだ、早く倒させて貰うぞ」


「ふ、ふざけんなっ! なんで時代戻ってるのにテメーは……姿変わらず居られるんだよッ!?」


「あいにく死ねない身体なのだよ。そう言う訳で、さっさと死んでくれ。そろそろ面倒になって来たんだ」


「ふざけんなッ!」


 飛びかかってくる龍華の攻撃を避ける。

 鋭い一撃が鼻先を掠めたが、今回もギリギリで避け切れた。

 そして即座に時空を転移する。


「チッ。また逃したか。過去何度も同じように逃げおって……いや。だが後二回程で転換点だったか。面倒だがアレを撃退しなければマズいらしいからな。次は昭和だか平成だかの年号まで大丈夫だったか。忘れんようにするのが面倒だ」


 一人ゴチ、龍華はその場を去って行く。

 少し遅れ、空から鉄の塊が降り注ぎ大地を抉り飛ばして行くのだった。

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