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地球・闇の勇者1

 ゾンビの群れが押し寄せる。

 呻きを上げる人無き存在を蹴り飛ばし、仮面ダンサーペトルは闇の勇者へと踊りかかった。

 両手に曲刀を携え剣舞を披露しながら迫る彼女に、闇の勇者は舌打ちして闇を作りだす。

 近くに居た仮面ダンサーアンの群れは天使と悪魔の軍勢がゾンビと纏めて相手取ってくれるため、闇の勇者との一騎打ちに持ち込めたのである。


「クックック。いいだろう正義の味方よ! 我が闇の力で貴様を完膚なきまでに闇に沈めてやろう」


「抜かせ力を手に入れた一般人。あまり増長すると程度が知れるぞ」


「言ったな? なれば三千世界の果ての果て。貴様の終焉を迎える地へと案内してくれよう。さぁ、闇よあれ!」


 闇の勇者を暗黒が塗りつぶして行く。

 闇に消える男に、ペトルはむっと唸り。即座に周囲に視線を走らせる。

 別に闇が覆い隠したといっても別の闇から出てくるなどというチート仕様ではないらしい。


「さぁ、来るがいい。我が闇に抱かれ死ぬがいい」


「まさか……闇の中でなら勝てるとでも思っているのか……」


 想定を下方に修正されたペトルは思わず脱力する。

 といっても両手両足は近づくゾンビの群れを駆逐するのを止めようとはしていないが、それでも仮面の下では落胆と言ってもいい溜息を吐いていた。


「拍子抜けだな女神の勇者。視界を塞げば勝てると……っ!?」


 闇に一歩、踏み込もうとしたペトルは気付いた。

 地面が、ない。

 闇の中はまさに闇しか存在しないらしい。


「ククク、ハーッハッハッハッハ。どうやら気付いたようだな我が闇の力に! そうだ。ただの目くらましなどと思ってのこのこ入ってくるのなら三流と見て即座に殺してやるつもりだったが、貴様は楽しめそうだな」


「やるじゃないか。多少見直したよ」


「ふっ。それで? 正義の味方は世界を破壊する勇者を相手にどう対処するのかな? まさか闇が恐いから逃げるなんて言わないよなぁ?」


 と、闇の中から笑い声が聞こえる。

 ムッとするペトルだったが、躊躇なく闇の中へと身を躍らせて来た。


「おお、遠慮なく踏み込むか。素晴らしい。だが分かっていないな」


「ほぅ、何が分かっていないのか教えてくれるか女神の勇者」


 足場のない闇の中、周囲を警戒しながら告げるペトルに、闇に紛れた何かの一撃。

 ペトルが気付いた時には背中に切り傷が作られていた。


「これは!?」


「闇は我が領域テリトリーである。気配無き暗殺者により死ぬがいい」


 声も無く音も無く気配も無い。

 しかし確実に攻撃が来る。

 なんとか反撃をしようとするが、足場も定まらない闇の中では流石に何も出来そうにない。


 闇の勇者の嘲笑が聞こえる。

 必死に対策を練ろうとするペトルを翻弄するように腱が斬られ、目を潰され、首を裂かれる。

 成す術などなかった。


「アハハハハッ! なんだよ。御大層なこと言ってたくせに雑魚じゃねーか!」


 モノ言わぬ躯と化したペトルに闇の勇者の嘲笑が響く。

 そんなペトルは命尽きたのか、ゆっくり、すぅっと闇に同化するように消え去った。


「ハハハハハハ……は? え? 待って、人って死んだら消えるっけ?」


 思わず素の態度になった闇の勇者。

 突然消失してしまったペトルに慌てて駆けよるが、そこにはもう誰もいない。


「成る程。闇の中では自由も効かなくなるのか。一つ勉強になった」


「っ!? な、なんだと!?」


 声が聞こえた方を振り向けば、丁度闇の外側、アスファルトのある場所にペトルが立って闇の奥を見つめていた。


「バカな!? 今、倒した筈……」


「『ピョートルの亡霊』。幻影体に実体を持たせるスキルだ。貴様が切り裂いたのは私の幻影だ。愚か者め」


「そ、そんな卑怯なっ」


「どの口がほざくか馬鹿め」


 もともと闇の中に無防備に入るつもりなどなかったのだ。ペトルは最初から安全地帯のビルの上にいた。

 意識を幻影体に移して操っていたのだ。

 倒されるとは思っていなかったが相手の実力を安全に知るこの能力は充分に役立ってくれた。


 とはいえ、闇の勇者をどうにかするには闇の中に入らざるを得ないだろう。

 だが闇の中では闇の勇者の独壇場。今入ったところで幻影体と同じ結末が迎えられるだろう。

 それでは意味が無い。


 ならばやるべきことは闇から闇の勇者を引きずりだすか、闇の中で闇の勇者を倒す秘策を手に入れることだろう。

 ペトルは自身の能力を確認する。

 手が足りない。

 最終奥義を使ったところで闇の中では……いや。舞台展開すれば闇を一掃できるのでは?

 しかし暗闇の中で展開されるだけという可能性もある。一度限りの大博打になってしまう。現状それを行う意味はない。


 さて、闇を打ち払う何やらがあればいいのだが。

 ペトルが闇を前に腕を組んで考えを巡らせていた時だった。


「原因の奴はここかッ!」


 次の一手は向こうからやってきた。


「な、何だあいつは? この世界にアーマー着込んで勇者ルックだと!?」


「それには同感だな闇の勇者。というか闇の中から見えるのか」


 思わず同意したペトル。その視線の先にはイケメン勇者と思える男が女性を守りながらゾンビの群れを薙ぎ散らして近づいて来ていた。


「貴様は女神の勇者か!」


「そう見えるかよ仮面ダンサー! 風見信也だ。元女神の勇者だがこいつ等とは無関係だっ」


 風の魔法剣でゾンビの群れを薙ぎ散らしペトルの元へと辿り着いたのは、元女神の勇者。

 女神サンニ・ヤカーが管理していた世界で彼女の勇者として作りだされ、赤き魔王に敗北し、神々により地球へと飛ばされた元女神の勇者であった。

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