地球・調伏の勇者1
「せぇッ!」
下田完全が回し蹴りを放つ。
受けたのは伸び上がりという霊体だ。他にも名前はあるがその辺りはどうでもいい。彼女にとって重要なのは、霊体であろうとダメージが入ったことである。
「全く、フロシュエルの修行で私に幽霊退治が可能になるとはな。修行は互いに得になったらしい」
軽く地面に着地して、サイドステップ。
背後から襲って来た顔だけの魍魎をやり過ごす。
さらに迫る幽霊たちに拳を蹴りを打ちつけ撃破し、その場に居たメンバーの元にやってくる。
リュミエル、シシルシ、今田圭一、切裂魑魅。ぱっと全員を見て完全は直ぐに敵へと向き直った。
調伏の勇者は空から落下して来た完全に呆然と魅入っており、完全と視線があったことではっと我を取り戻していた。
「な、なんだよあんたは!?」
「なに、お前達女神の勇者を殺す暗殺者だ。それ以外、お前が知る必要はないだろう?」
迫って来た魍魎を裏拳で撃破し、すぅっと息を吐く。
「そこの天使」
「ひゃい!?」
「貴女確かフローシュが引き取っていた子ね。今の実力でどれだけの敵が倒せる?」
「え? えーっと。あの小さいの一体くらい、ならいけますお」
「話にならないわね。そっちの三つ目は?」
「シシーは赤いおじちゃんからむやみに力を使うなって言われてるのー」
「使え」
「あ゛?」
完全の言葉に深淵の覗く瞳で少女が発していい声じゃない声を上げるシシルシ。しかし背中越しに顔を見ていない完全はそれに気付くことなく調伏の勇者だけを見ていた。
「今は緊急事態。周囲に民間人も居ない。どこに遠慮する必要がある? 出来る時に出来る奴が出来る事をやる。反省会は後ですればいい。そこの民間人二人を守りたいのだろう? なら、今実力を出さずいつ出すの」
「いや、シシーは別にこの二人助けたいってわけでは……」
「そう。助けられる実力を持ちながらそれを出さないのね。残念だわ」
相手の顔すら見ずに落胆した完全は迫る無数の魑魅魍魎を迎撃していく。
「はぁー。もう、わかったわかった。シシーも知り合いの危機を見逃す程愚かじゃないからねー。でも、シシーが実力出した後の責任は力使えって言ったあんた持ちだからね。んじゃー、目からビームでも出してみるか」
「おおお!? シシービームでるお!?」
「こっち来て覚えたのだよリュミちゃん。見るがいい。シシービーム!」
カッ。光り輝いた額の目から光線が発射される。
近づいていた幽霊を根こそぎ消滅させ、アスファルトを割り砕き、家を真っ二つにする。さらに後方の商店街が爆散した。
「……」
「あそこ……俺らの唯一の商店街……」
「……やりすぎちゃった。てへりゃんっ」
額を小突いて舌を出すシシルシ。
圭一はただただ呆然とするしか出来なかった。
その間にも近づく幽霊たち。
シシルシがさらに魔法を唱え出す。
「そーれぇ」
拡散する光の線が幽霊を消滅させていく。近くの家がついでに消滅し。塀が蜂の巣になり、木々がなぎ倒される。
「シシー破壊し過ぎですお!?」
「だってシシーの攻撃力高過ぎるんだもんっ。言ったでしょ、シシーが闘うと被害が大きくなるってー」
「無差別過ぎですお!? ってひゃぁ!?」
しかし、シシルシの全体破壊攻撃でも難を逃れた霊体がリュミエル達へと迫る。
「ありゃりゃ、数が多過ぎてワロス」
「言ってる場合ですお!? きゃあぁ!?」
シシルシの攻撃をかいくぐった霊体がリュミエルに迫る。
思わず頭を抱えてしゃがみ込んだ赤髪の天使。
目が><な顔になっていたが、ふと気付いた。しばらくたったが攻撃された感じがしない。
はれ? と顔を上げてみれば、目の前でジタバタともがく怨霊の顔がドアップ。
「ぎゃぴぃぃぃぃぃぃっ!?」
「大丈夫」
左腕で怨霊を掴み取っていたのは切裂魑魅。ポーカーフェイスで掴んでいた腕に力を込める。
ばちゅんっと粉砕される怨霊。
魑魅は腕をまくり上げる。
「私も、手伝う。霊体相手なら、なんとか」
「マジですお!?」
相手が守るべき一般人でしかないと思っていただけに、コレはリュミエル達にとって僥倖であった。
「下郎、下郎、退き滅せ。我は神族闇の王」
魑魅が呟く。歌うように紡がれる呪詛が小さく、しかし周囲に満ちる。
「我は神成る人の王。物怪共の守護者なり。人を守りて人を討つ、霊を救いて霊を絶つ。我が左腕は闇を裂く、我が左手は汝を滅す。我は反逆の神たらん。我を恐れよ、我に平伏せ、然れば救いを与えよう。返事は如何に?」
迫る魍魎たちは応えない。もとより返事があるとも思っていない。
突撃して来た悪霊の顔面をアイアンクローで掴み、握りつぶす。
「然らば消えよっ」
巨大霊体の元へ向かう魑魅。迫る小型の悪霊は近づくだけで消滅していく。
調伏の勇者が求めた力、それがこの魑魅の能力であり、悪霊憑きの彼女の実力でもあった。




