地球・武器の勇者
「あはははははっ、楽っしい!」
追尾ミサイルの群れが生成されてはフロシュエルへと向かい飛び交う。
翼を打って宙を旋回、飛び交うミサイルを引き連れ金髪の天使が空を舞う。
武器の勇者は次々現れるミサイルを避けていくフロシュエルにかつて無い昂揚を覚えていた。
「凄い。これよこれ。弾幕戦がやりたかったのよ!」
「こっちはやりたくも無いですね。早く倒してリュミエルたちを追わないと」
「はは、あんたはここで終わるんだっての。そら、追加行くわよ!」
さらにミサイルの数が増えていく。
これは流石に酷いか? 武器の勇者が思わずやりすぎたかもしれないと思いながらも全てを発射。
飛んできたフロシュエルを真正面から迎撃に向かう。
「ぎゃー、挟み撃ちっ!?」
「もう終わり? 天使っても呆気なかったわね」
「ところがどっこい。ブラックホール!」
回避は不可能と判断したフロシュエルは空中に停止すると前方後方から迫る追尾ミサイルに片手づつを向け、魔法を発動。
黒い球体が生まれ空間を巻き込み渦巻き始める。
迫り来たミサイル達がこれに巻き込まれ互いに接触、フロシュエルに当る前に爆発する。
爆発したミサイルに後続が突っ込み誘爆。フロシュエルへと向かった爆風は全て黒い球体へと吸い込まれて消え去った。
「ちょ!? ブラックホールって……天使が使っていい魔法じゃないわよそれ!?」
「お返しです。ホワイトホール!」
作りだされるのは白い楕円。
全ての爆風とミサイルを反転させたように、捻じれ内部と外部がごちゃ混ぜとなったミサイルの群れが爆炎を抜けて武器の勇者へと襲いかかる。
「な、何あれ……」
一瞬呆然とした武器の勇者は、直ぐにマシンガンを生成して飛び交うミサイルを迎撃し始める。
しかし、銃弾が直撃したミサイルは爆散すると同時に収縮し意味不明な爆発を行う。
初めに広範囲に爆散し、その後急速に収束するミサイルたちに武器の勇者は気味の悪さを覚えずには居られなかった。
まるで普通のミサイルが別のモノに変質したようにしか思えない。
「バリスタならどう!」
「プリズムリフレクションで全部跳ね返せますけど、矢には矢を。インフレーションホーリーアロー!」
発射するのは普通のホーリーアロー。
バリスタからの一撃に対抗するように生みだされた光の矢が放たれる。
二つの矢は同時に相手に向かい放たれ、互いの進路を妨害する。
しかし、距離が近づくほどにホーリーアローの内包する力が増していた。
周囲からの魔力を根こそぎ絞り取り、バリスタの矢を爆散させさらに武器の勇者へと襲いかかる。
威力を増す一撃を避けようとした武器の勇者は、しかし直前に光の矢が消え去ったことで一瞬面喰った。
「がぁ!?」
だが、姿は消えても光の矢自体が消えたわけではなかったらしい。避ける必要はないと判断した武器の勇者の脇腹を、透明になった矢が貫通した。
「こ、こんな……嘘?」
「周囲の魔力を吸収して力を増すホーリーアローを途中で属性変化させました。今のそれは強化型ウインドアローですね」
「このっクソガァッ!!」
口から零れた血を噛みしめ、武器の勇者が全力でスキルを発動。
無数のミサイルがフロシュエル向けて放たれる。
「数だけ上げればいいとか思ってますか。私もそう思った時期はありました。だから……終わりです」
迫るミサイルがフロシュエルに殺到する。
次の瞬間フロシュエルは空間を掴んで自身を覆い隠す。
まるで世界を引き剥がし、その内部に隠れたかのようにフロシュエルの姿が掻き消えた。
「……は?」
「ブエルさん直伝テレポートです。そして……」
背後から聞こえた声に慌てて振り向く武器の勇者。
そこにはフロシュエルが拳を構えて待っており、彼女の振り向きと共に指先を武器の勇者へと叩き込む。
「完全師匠直伝、断末魔作成拳! あたぁ!」
マズい。咄嗟に後に飛ぼうとする武器の勇者。その足をフロシュエルの足が踏み締め動きを阻害。逃げきれなかった武器の勇者にフロシュエルの指先が突き刺さった。
「オッス!」
口から漏れ出る謎の声。
「オラ」
自分の意思は関係なく、意味不明の声音が自分の口から漏れ出る。
「だってしょうがないじゃないかぁ」
「ありゃ、点穴間違えた?」
キョトンとしたフロシュエルの顔を最後に視界に収め、武器の勇者が崩れ落ちる。
「うーん。完全師匠もたまに間違えるとは言ってましたが、これは確かに難しいですねぇ。数ミリ単位でずれれば別の台詞が出てしまいます」
「な、なに……今の……」
全身の力が無くなっていた。既に死に掛けているらしい武器の勇者は最後の力を振り絞って疑問を口にする。
「月下暗殺拳・断末魔作成拳らしいです。相手の断末魔を任意の台詞にしちゃう技ですね。では、申し訳ありませんが天使憲法より外れた貴女を滅します。迷える子羊が天に帰らんことを、アーメン」
ホーリーアローが放たれる。
迫る光を見つめながら、武器の勇者は「最悪……」と意識を手放すのだった。




