表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/223

マイノアルテ・時間停止の勇者4

 ありえない。

 脳内を占めるのはその言葉だけだった。

 だから、何も考えず作業的にこなす。


 時間停止。首を切り裂く、時間停止解除。

 時間停止。首を切り裂く、時間停止解除。

 時間停止。首を切り裂く、時間停止解除。

 時間停止。首を切り裂く、時間停止解除。

 時間停止。首を切り裂く、時間停止解除。

 時間停止。首を切り裂く、時間停止解除。

        ・

        ・

        ・


 しかし、何十と繰り返した動作は、同じく何十と復活、否、過去を改変する柳宮により、ノ―ダメージに終わっていた。

 次第焦燥感にかられる時間停止の勇者。

 思考は停止し、脳裏をありえないという言葉だけが占めて来る。

 両手繋いでぐるぐる回りながら「ありえない」たちがタップダンスを踊りだす。


 時間停止。首を切り裂く、時間停止解除。

 時間停止。首を切り裂く、時間停止解除。

 時間停止。首を切り裂く、時間停止解除。

 時間停止。首を切り裂く、時間停止解除。

 時間停止。首を切り裂く、時間停止解除。

 時間停止。首を切り裂く、時間停止解除。

        ・

        ・

        ・


 ダメだ、まるで効果が無い。

 こと時間停止の勇者戦に置いて、柳宮はまさに天敵と言える存在であった。

 思わず絶叫にも似た声が漏れる。

 恥もプライドも掻き捨てて、時間停止の勇者が雄叫びと共に時間を停止し柳宮の首を切り裂く。

 しかし、次の瞬間世界は修正され、過去が改変。

 その場に柳宮は居らず、別の場所からゆっくりと、徐々に近づく黒衣の男。


 恐怖が心を支配する。

 絶望が身体を支配する。

 震えるのは身体か心か。あるいは両方か。

 時間停止の勇者が時間を停止するより早く、ついに柳宮が彼女の元へ辿り着く。


 こいつには時間を止めても無駄だ。

 時間停止。攻撃を止めて逃げ出す。

 柳宮が見えない位置まで逃げて時間停止を解除。


 ドクンッ。

 世界が改変され、彼女の逃げる先に先回りするように存在する白滝柳宮。

 手帳に視線を落とし、まるで彼女が来ることが分かっていたかのように彼女を見据える。


 時間停止。逆方向に逃げだす。

 見えなくなった位置で時間停止解除。

 ドクンッ


「あ、ああ……」


 目の前に、黒衣の男が待っていた。

 ありえない。ありえる訳が無い。

 時間停止こそ最強の能力のはずだ。ずっと夢見て来た能力なのだ。

 誰も彼も時が止まってしまえば無力のはずなのだ。


「ああああああああああああっ」


 迫る男を拒絶するように一歩下がる。

 一歩近づかれる。また下がる。

 さらに一歩。足がもつれて尻から倒れた。


「なんでっ。殺したのにっ! 首を切った筈なのにっ」


「残念だが、それらは全て、ありえた未来の話だ。お前にその未来は訪れん」


 パタン。手帳が閉じられ、柳宮が倒れたままの時間停止の勇者を見下ろす。

 まさに勝者が敗者にトドメを刺すような位置。

 驚愕する時間停止の勇者が逃げようと立ち上がった瞬間、鋭い蹴りが彼女に叩き込まれた。


「ここからは私のターンだ。君の時間停止は、ここで抹消する」


「がぁっ、ぎ……げはっ。うぉぇっ」


 腹に突き刺さった蹴りの一撃で吹き飛んだ時間停止の勇者。

 地面を転がり木にぶち当たり、その場で吐き散らす。

 痛い痛い痛い痛い。こんな痛み感じたくない。なんで私がこんな目に?

 時間停止の勇者は憔悴する。


 今まで感じたことの無い、本当の意味での闘いに身を投じていた。

 こちらの攻撃は効かず、相手の攻撃はこちらに重大なダメージを叩き込む。

 もともと攻撃されることを想定してない彼女にとって、痛みは想像を絶するものだった。


 助けて。

 ありえないという言葉は脳内から消え、助けてという思いだけが積み重なる。

 女神に、世界に、生きる全ての誰かに、誰でもいいから自分を助けて。ガチガチ噛み鳴らす顎で必死に叫ぶ。

 さらに近づいて来た柳宮から必死に逃げる。


 四つん這いで、吐き散らしたモノに手を付いてでも無様に逃げだす。

 痛いのは嫌だ。攻撃されるのも嫌だ。

 助けて助けて助けて。こんなはずじゃなかった。こんな状況になりたくなかった。

 誰でもいい。ここから私を救ってっ。この危険な存在が居ない場所へ……


 ―― じゃあ、素直に時間停止スキルを私に渡してくれるかなー? ――


 不意に悪魔のような声が聞こえた。

 その契約は理不尽なものだった。しかし、今の彼女には藁にも掴む思いの救い。

 地獄に垂れた蜘蛛の糸を引っ掴むように、彼女は告げる。


「時間停止なんていらないから、だから助けてッ! 死にたくないッ」


 ―― いいでしょう邪神の勇者。我が名はアルテ。今から能力を剥ぎ取るから抵抗の意思を見せないように。その後安全な場所に返してさしあげましょう ――


「何でもいいからっ、早く助けてぇっ!!」


 ベリッ。

 応えた瞬間身体から何かが剥ぎ取られる感覚。

 意味不明な感覚に思わず悲鳴を上げた。

 が、次の瞬間、彼女の目の前には森は姿を消し、変わりにアスファルトでできた遊歩道。直ぐ横では車が車道を通過しており、行きかう人々が彼女を追いこしてはどこかへと去って行く。


「……え?」


 思わず周囲を見る。

 そこは彼女にとって見覚えのある世界。

 女神サンニ・ヤカーに召喚される前にいた世界であった。


「ああ、そっか。夢か。夢よ。そうよ。夢だったのよっ」


 今までの全てをなかったことにして、彼女は現実の日常へと帰って行ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ