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マイノアルテ・時間停止の勇者2

 楽勝だわ。

 事を終えた彼女は心の中でそう思った。

 神速の勇者がントロと魔女を倒したと連絡して来た時は焦ったが、これで仲間内では最多の撃破数になるだろう。

 何しろ半数以上の魔女とントロを撃破したのだ。


 手にしたナイフを腰元の鞘に収め、くふっと笑みを浮かべた少女は、茂みに隠れ、時間停止を解除する。

 彼女の能力は彼女以外の時間を止めることが出来る能力。

 その能力発動中に敵に接近し首をナイフで裂いて行けば、時間停止を終えた瞬間敵が全滅しているという状態になる。


 今、ヌェルティスと名乗っていた女がいるパーティー全員の首を切り裂いて来たところである。

 時間停止解除で彼らの首から血が噴き出す。

 ヌェルティスだけは最初だったので頑張って首を落としたが、重労働だったので次の相手からは頸動脈を切り裂くだけにした。

 そのせいか鎌を持った少女だけは殺しきれなかったらしい。だが、魔女が死んだ以上ントロは元の世界に戻される。だから全く問題はな……


 ドクンッ


 次の瞬間、世界がブレた。

 全身がブレるという意味不明な状況に慌てて周囲を見る。

 だが、異変はなかった。目の前では首切った筈のパーティーメンバーたちが各々楽しげに自己紹介をしている姿が見える。


「……は?」


 異変が無い? 異変だらけだ。

 思わず自分の頬を抓る。

 先程、首を落とした筈のヌェルティスは未だ頭を抱えてカッコイイ称号を考え中。

 他のメンバーも休憩中とあって各々話をしているようだ。


 首を切り裂いた筈だ。斬り落とした筈だ。

 なのになぜ、皆が無事?

 もう一度時間停止。止まった世界を歩きながら相手全員の時が止まっていることを確認する。


 問題はないようだ。

 もう一度全員の頸動脈を切り裂く。

 これで終わりだ。終わりの筈なのだ。


 全員が見える位置で茂みに隠れ、時間停止を解除。

 血飛沫が舞い、龍華が驚愕した顔で叫ぶ。

 ここまでは先程と同じだ。まるでデジャブ。唯一違うのはヌェルティスの首は繋がっており、頸動脈だけが切り裂かれていたことだろうか?


 ドクンッ


 まただ。

 世界が、身体が、全てがブレた。

 そう気付いた時には目の前の光景が巻き戻されたかのように血飛沫は一つも上がっておらず、誰もが楽しげに話をしている。

 否、それだけじゃない、微妙に配置が変わっている。

 攻撃を仕掛けた箇所に誰も居ない。


 どうなっている? 何が起こった?

 意味が分からずもう一度同じように時間停止、全員を切り裂き時間停止を解除する。

 ドクンッとまた全身がブレる感覚があった。

 ここまで来ると確信してもいいだろう。


 初めて時間停止で人を殺した時にこの感覚はなかった。つまり時間停止後に何らかの攻撃を受けたと思った方がいい。

 下手に彼らに攻撃を加えるのは危険かもしれない。

 さまざまな可能性を考えながら、一人一人確認する。

 誰だ? 私の邪魔をしているのは?


 ヌェルティスは全く気付いてない。そればかりか龍華ですら時間停止を使ってここに居る時間停止の勇者に気付いてすらいない。何しろここに来た時は時間が停止していたので歩く気配すら読めないのだから気付かれる可能性は低いと言わざるをえない。

 万一見つかったところで時間を停止して移動すれば気のせいかと思われるだけだ。


 では他のメンバー? 黒衣の男は日記帳に目を落としているだけだし、姉妹と思われる二人は口論している。茉莉は紳士に飴を貰って笑顔で舐めていて、他の魔女たちは世間話をしている。

 こちらに気付いている存在は皆無だ。

 ならば、彼ら以外からの攻撃か?


 しかしそれらしい気配はない。

 むしろあの面子の中にいる誰かか受けたと思った方が自然だ。

 しかし気付いていないということは、緊急回避かもしれない。

 自分が死に瀕した時のみ発動する時間巻き戻し能力。


 時間停止があるのだ、時間巻き戻し位あってもおかしくはないだろう。

 一人納得する時間停止の勇者。

 ふと顔を上げた瞬間だった。

 黒衣の男と目が合った。


 ゾクリと背筋が寒くなる。

 慌てて時間停止を行いその場から逃走。

 一つの木に背もたれたところで時間停止を解除する。この辺りまで逃げてしまえば危険はないはずだ。


 ドクンッ


 次の瞬間、また身体がブレた。

 何かが起こった。慌てて周囲を見回す。

 今は相手を一人も殺してない状態だ。

 なのにあの感覚。スキルが使われたと思っていいだろう。

 咄嗟に確認した周囲に変化はない。


 木蔭で休んでいる状態だ。

 誰もここまで来ているのは知らない筈。分かる筈が無い。なのになぜ……

 ハァー、ハァー。自分の息使いが荒くなるのが自分で分かった。

 背後にしている木の向こう側に、誰かの気配が生まれていた。

 ごくり。思わず息を飲む。


 時間停止。

 停止した世界の中でなら自分は無敵だ。無敵の筈だ。

 木蔭から飛び出し背後に佇むそいつの姿を視界に収める。

 手帳に視線を落とした黒衣の男が一人、木を中央に、時間停止の勇者と反対の場所に佇んでいた。

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