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マイノアルテ・熱狂的な者

「神罰であるッ!」


 唾を吐き散らし、宣教師のような男が叫ぶ。

 レザンシエルは十字架を握りしめ、神敵となった黒髪の男を睨みつけた。

 黒髪の男は黒いコートに黒革手袋、黒い靴に黒革手帳。全身黒コーデの不気味な男である。


 立ちふるまいはまさに死神の如く、姿から見て神敵と判断しても申し分ない男であった。

 彼はレザンシエルと召喚者クラリッサ・モー・ヤーデンとの仲を引き裂き、後の魔女戦争を有利にしようとする別の魔女とントロの手先である。

 断じて許すべき存在ではなかった。


「不埒、不遜、不敵ッ、不要不要不要ッ! 我が神の名において貴様は不要である。ゆえに滅せよ! 滅滅滅ッ!!」


「全く話が通じんな」


 溜息を吐いて柳宮は手帳をしまう。


「悪いがこちらも理不尽な召喚、身勝手な女神、面倒な戦争とかなり気が立っている。手加減する気はないぞ」


 拳を握りラフファイト体勢。

 柳宮の動きにレザンシエルは口元に泡を吹きながら十字架に力を送る。

 手に隠れる程度の十字架が一瞬で巨大化し、杓杖になる。


「滅せよ神敵者!!」


「神に敵対した気はないが。むしろ神の意向に背いているのは貴様だろうに」


 走り込んできたレザンシエルを溜息と共にサイドステップ。

 空を切った大上段からの十字架を軽々避けて、柳宮は鋭い蹴りを叩き込む。


「ぐばぁっ!?」


「攻撃も何もなってない。それで神敵を滅するとはな」


「だまれぃッ」


 血走った眼に脂汗、必死の形相で間横に居る柳宮向けて十字架を振る。

 脇腹に走る痛みで一瞬攻撃が鈍るものの、気合いでねじ伏せ振り切った。


「残念だが、お前では私には勝てん、諦めろ」


「貴様が諦め滅せよ神敵ッ」


「やはり話にならんか。スマンが……潰すぞ」


 様子見は終わりだ。

 そう告げるように振り切ったレザンシエルに踏み込み蹴りを叩き込む。


「ごぉっ!?」


 腹に直撃を受けたレザンシエルがくの字に折れ曲がる。

 蹴り抜いた足を戻し際に逆の足で回転蹴り。

 前に出てきたレザンシエルの側頭部に叩き込まれる気合いの一撃。


 言葉すらなくレザンシエルが吹き飛んだ。

 実力差はこの闘いだけで既に決したといってもいい。

 流石に不利だと悟ったクラリッサはどうやってレザンシエルを撤退させるかを考え始めるが、レザンシエルはむしろ気勢を新たに雄叫び上げて立ち上がる。


「オノレ神敵め! 不遜なり不遜なり不遜なりぃぃぃっ」


「狂信者ここに極まれり。やるしか、あるまい」


 殺す覚悟を決め、手帳を取り出した柳宮。攻撃態勢に移ることもせずに手帳に視線を落とす。

 まるで舐めているような態度にレザンシエルがさらに猛る。

 だが、柳宮は彼に視線すら合わせず手帳を読むと慌てた顔でクラリッサに顔を向けた。


「逃げろッ、死ぬぞ!」


「……は?」


 突然声を掛けられたクラリッサは意味が分からず呆然としてしまう。

 その背後から、超高速でそいつは近づいていた。

 柳宮が止めるより速く、レザンシエルが気付くより早い。

 光を越えるスピードで走り込んできたそいつは、走りながら剣を引き抜きクラリッサの背後から彼女の身体を貫いた。


「……え?」


「っし! 魔女一匹ゲットー! 他の奴等まだだろ? 俺が最初の一体じゃね?」


「あ……え?」


 ずるり、剣を引き抜かれたクラリッサは意味が分からないといった顔をしたまま倒れる。

 朱に塗れた剣を振り抜き血飛沫を飛ばした男は下卑た笑みでスマホを取り出しどこかと連絡を取る。チャットアプリだろうか、高速で文字を打ちながら楽しげにマジマジ、俺一番。などと告げていた。


「だから言ったろー、時間停止とか強奪とか魅了なんかより時代は神速だっつの」


「何……を? 何をなさっているのですかあなたはあぁぁぁぁッ!!」


 レザンシエルが立ち上がり、叫びと共に神速の勇者へと走る。

 柳宮が止める暇すらなかった。

 突撃したレザンシエルが十字架を振るう、その刹那、足を踏み出した神速の勇者は、まさに神速。レザンシエルの背後へと一瞬で回り込み、無防備な彼を背中から貫く。


「ほい、ントロ一匹げっちゅー」


「バカ……な」


「馬鹿はテメーだっつーね。いいかおっさん、テメーみてーなノロマがどれ程激高したとこで速過ぎる俺には意味ねーんだっつの」


 睨みつけて来たレザンシエルに一閃。首を刈り取る一撃が彼をモノ言わぬむくろへと変えた。

 呪いを掛けるような憤怒の顔が神速の勇者を睨む。しかし、地面に落ちたそれを、神速の勇者は下卑た顔で踏み潰した。


「さって、残るは一体のみか」


「チッ。面倒が続くな。厄日か今日は? 入鹿や有伽ではあるまいに……」


 神速の勇者が走りだす。

 しかし柳宮にはその動きが目で追えない。

 軽々柳宮の背後に回り込んだ神速の勇者。剣を引き抜き他の二人同様、背後から柳宮に攻撃を加え……

 刹那、顔面に靴底が叩き込まれた。


「がぁっ!?」


 思わずのけぞった神速の勇者に追撃の回し蹴り。

 柳宮の鋭い一撃で神速の勇者は吹き飛んだのだった。

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