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マイノアルテ・アリアンヌ家3

「待て、身分証を提示しろ。浮浪者を受け入れる気はない」


 街に入ろうとすると、門番の兵士に止められた。

 かなり高い街壁が存在するアリアンヌ領の街。

 大都市に入るようで警備は厚いと言っていいだろう。


 ジルベッタは困った顔で仲間を見た。

 当然ながらントロに身分証はない。

 そして自分とステラは二人とも魔女。身分証は提示出来るが提示した時点で魔女が領内にやってきたことがアリアンヌ家の魔女に知らされてしまう。


「これでいいか?」


 だが、ジルベッタの不安を一蹴するようにステラが自分の身分証を見せる。

 ドラグニア領の令嬢を示す身分証に、兵士の一人が慌ててアリアンヌ家へと走って行った。

 そして槍を向けられるメンバー。


「おのれ他領の魔女め! 我らが領地はやすやす落とせんと知れ!」


「アホか」


 思わず口に出すエンド。沈痛な顔なのは問答無用で敵対して来た彼らに対する侮蔑である。


「あはは……どうしようエっちゃん?」


「私の進む道に小石があっただけよ。邪魔なら避ければいいと思わない? ねぇ、皆さん」


 沈痛な顔から一転、ニタリと悪魔のような笑みを浮かべる。

 ジルベッタがあまり目立っちゃだめだよ? と小声で告げるが、エンドには聞こえなかったようだ。


「さぁて、それじゃあ楽しい狩りの時間と行きましょうか?」


 両手に光を溜め込むエンド。

 一瞬即発の彼らに、魔女襲来と聞いたアリアンヌ家の魔女が泡食って走り込んできた。


「ストップストップストッ――――プ!!」


 エンドが能力を使うより一瞬早く、辿り着いたアリアンヌの魔女は荒い息を吐きながら叫ぶ。

 そして驚く彼らの元に辿り着くと、力尽きたのか膝に両手を置いて大きく息を吐く。

 遅れ、筋肉質の粗野な男が悠々歩いて追い付いて来た。


「おー、ントロ来たのかロール」


「あ、貴方はややこしくなるから来ないでと……」


 男にそれ以上来るなとばかり手で制すが、男は気にせず彼女の横を通り過ぎ、エンドたちを取り囲む兵士の群れを割って入ると、胸の前で拳を握りボキリと指を鳴らす。


「よぉ、ントロはどいつだ。俺とちょっと殴り合おうぜ」


「だぁぁ! ボルガナザ、あんたちょっと何してんの!?」


「あぁん? 共闘してぇんだろ? だったら相手がどの程度の力か殴り合いで確かめるのがいちばんだろうがよ。殴り合って力尽きたら次からダチだっつー……なんだよ、男いねぇじゃん!? 女殴る趣味はねーんだが……」


「そちらの都合ばかり押し付けられても困るのだけど。あんたがアリアンヌ家のントロね」


「おうよ! 傑出した者っつーらしい。狂魔なんて呼ばれてるボルガナザってモンだ」


「そう、有徳の者、エンドよ」


「私は寛大な者の真奈香でーす。肉体言語なら得意ですよ? 殴り合います?」


 カモン、とジェスチャーする真奈香。華奢な少女にしか見えない彼女相手に殴る気はないらしく、ボルガナザはぼりぼりと頭を掻いて「あ――――っ」と空を見上げる。


「クッソ。なんでこう会うントロ会うントロ殴り合い出来ねェ奴ばっかなんだよ!」


 畜生帰るっ。と大股で憤慨しながら帰って行くボルガナザ。唯我独尊な彼の背中を見送り、ようやく息が整ったロールが溜息混じりにエンドたちに近づいて来た。


「どうやら話の分かる魔女とントロみたいで助かったわ」


「あん? それはどういうことだい?」


 ロールの言葉に小首を傾げるステラ。

 ロールは説明するより先に来てほしいところがあると、彼女達を引き連れ自分の領地へと招き入れた。

 なんでも女神の声でこの地に女神の勇者がいると知らされたロールだったが、自分のントロは喧嘩っぱやいボルガナザ。正直勝てる気がしなかった。

 なので他の魔女とントロと共闘して倒すしかないと考えたのだが、魔女とて人間。話の合いそうにない存在だっている。


 しいていうなれば熱狂的な者とヤーデン家の魔女は話が合わないと確信したので門前払いさせて貰った。

 隣のアルテンリシアに共闘要請は送ったのだが、仲の良かった筈のそこからはナシの礫。何かしら異変があったのか、あるいは既に死んでしまったのか。

 不安ながら過ごしていたロールは領内に女神の勇者がいる事を知りながらも何の手だても打てずにいた。


 やがて、領地にやってきたモルディアノ家の魔女と大胆な者のントロとの共闘を取りつけたもののボルガナザと向こうの価値観が違い過ぎ実質的な共闘は不可能に近い。

 だから、むしろ別の魔女とントロの到着は喉から手が出るほど待ち望んだものであった。


「というわけで、私の領地を守るために共闘よろしくっ」


「ふざけんな」


「ですよねー。でも結局女神の勇者っての倒さなきゃ魔女戦争再開しないんでしょ。よろしく頼むぜステラの姐さん」


 悪びれた様子無くサムズアップするロール。ボーイッシュな彼女に似合う素敵な白い歯を煌めかせていた。

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