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マイノアルテ・アリアンヌ家2

 ―― うわっ、目を離した隙になんか闘いにっ!? ちょっとー、ントロ同士の闘い無しっつったじゃーん ――


「今更か! 相手に話が通じんのだ。なんとかしろっ」


 突然降ってきた女神の声に、柳宮は思わず毒吐く。

 耳元で語られたせいで普通に対応してしまったが、はたから見れば毒電波を受け取ったようにしか見えない。

 気付いた柳宮は少し恥ずかしそうにしながらも、対応策を考えるように伝えなければと被りを振る。


「神だったな。この場合相手を倒してしまっていいのか?」


 ―― いやいやいや、ントロ同士だから倒した方にペナルティだよっ ――


「チッ、面倒な……」


 相手に倒されれば相手はペナルティを受けるが、こちらは誰かを倒され損となる。

 だが、こちらが相手を倒してしまうと、ペナルティを受けるのはこちら。相手がペナルティを受けるだけなら問題ないが、こちら側がペナルティを受けるとなると少々避けたい事態となる。


「……待てよ。おい神、ントロ同士はダメらしいが、私はントロになるのか?」


 ふと、そこに思い至った。

 ントロとして召喚されたのは真奈香。柳宮は巻き込まれで召喚されただけなのだ。


―― んー。あ、そっか。あんたントロだけどントロじゃないんだっけ。じゃあまぁ特例で許してあげよう。あんたが倒した場合はペナルティ無しってことで。相手も邪神の勇者倒す気無いみたいだし ――


「恩に着る」


 ふっと笑みを零し柳宮は憤慨中のレザンシエルを見る。

 話を聞く気はないらしい。クラリッサの方もこちらを殺す気満々のようだ。

 話にならんとはこのことか。呆れた顔で溜息を吐き、柳宮は後ろのメンバーに視線を向けないまま告げた。


「女神からの話は聞いたな。あのントロは私が倒せば御咎めなしらしい。真奈香、お前達は先行して勇者退治に行って来い」


「隊長!? いいんですか?」


「問題あるまい? それとも、私では不安か?」


「御冗談を」


 からころ笑い、真奈香は背後の皆を見る。


「それじゃー皆さん、隊長がアレの相手してくださるので私達は迂回して女神の勇者倒しに行きましょー」


「あら、いいの?」


 真奈香の言葉にエンドが念押しするように確認する。


「仔細ない。さっさと敵を仕留めて家路に就こう。有伽が待っているのだろう?」


「有伽ちゃんが、待ってる! 有伽ちゃんが、私を! 有伽ちゃんが、全裸でリボン巻いて私がプレゼントだよって待ってるッ!! 上下真奈香! 全速力で帰りますッ」


「あ、馬鹿ッ! 突出しないでよっ!? ああもう、二人ともちょっと失礼、口開くと舌噛むわよ!」


 走り出した真奈香を追うためエンドはステラとジルベッタを小脇に抱えて走り出す。

 人の姿をしながら人ではないエンドの走りはとても速く、二人の人間を抱えてすらその速度は殆ど衰えない。


「風圧っ、風圧――――っ!」


「はは、これは速い。でも真奈香に全く追い付けないあいつ速過ぎだろうっ!? 人間か!?」


 泣き叫ぶジルベッタと歓喜するステラ。物凄い風圧のせいで口元が凄いことになっていたが、二人が気にする余裕などなかった。

 あっという間に柳宮の姿が豆粒と化す。

 相手のレザンシエルとクラリッサが驚いた顔をしていたが、彼らは何も出来ずに見送るしかなかったようだ。


「もー、遅いよーエっちゃん」


「貴女が速過ぎるのですわ。全く、なんですのその加速力は」


「えー、普通だよ? 普通の妖使いだって。あ、でも能力名言って無かったっけ? 私は茶吉尼天の妖使いなんだよエっちゃん」


「その妖使いが何かわかりませんが、そう言えば正式な自己紹介はしてなかったですね。私は人のシンキングセル、エンド・オメガ。能力は他のシンキングセルのお姉様たちから能力をコピーさせて貰うことかしら」


「しんきん?」


 走りながら小首を傾げる真奈香。よく分かっていないようで、ま、いっか。と良く分からない単語についてはスルーして、そういう能力を持っていると納得したようだ。


「そろそろ街門が近いな。速度を落としなさい真奈香」


「あ、そっか。他の人が見たら驚きだよね」


 ぴたっと足を止める真奈香。急制動について行けなかったエンドは少し滑走しながら勢いを殺して真奈香より数メートル離れた場所で止まる。

 空気抵抗が無くなり、ジルベッタが荒い息を吐き始めた。


「ふぅ、なかなか出来ない体験だったな。まるでドラゴンの背に乗って飛行したかのような速度だった」


「またまた御冗談をー」


「死ぬ、死んじゃう。柳宮のお兄ちゃん助けて……」


 手をひらひらして笑う真奈香に、ジルベッタは半泣きの顔で置いて来た柳宮に助けを求めるのだった。


「なんとか街門には付けたな。ここがアリアンヌ領の大都市カーバンクだ。宝石の流通で大きくなった街らしいぞ」


「宝石、ねぇ。私にはどうでもいい石にしか見えないんだけど」


「有伽ちゃんも宝石類が好きってことはないから私もどうでもいいでーす」


「宝石、凄い高いのに……」


「諦めろジルベッタ。人選が悪い。しかし、リーダーが抜けたのは痛いな。どうしたものか……」


 先行きが不安なパーティーメンバーを見回し、ステラは思わずため息を吐くのだった。

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