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マイノアルテ・アリアンヌ家1

 アリアンヌ領に彼らはやって来ていた。

 終始にこやかに自分の世界について話す黒髪の少女。

 日本人形のようなつややかな黒髪に整い過ぎた小顔。目元が前髪で隠れているが、それを贔屓目に見ても充分過ぎる美少女だ。線の細い四肢は白珠の如く、性格も朗らかなので終始周囲を明るくしている。


 彼女が話しかけているのは金髪の少女。背丈は黒髪の少女より低い140センチ大。少し胸のある黒髪少女の胸をじぃっと羨ましそうに見つめながら彼女の話を聞き流している。

 こちらも英国美女のような整った顔立ちとブルーアイ、華奢な四肢を持っていて、白いワンピースを着ている。私服の黒髪少女と比べても充分タメを張れる美少女で、彼女は話し続ける黒髪少女にそろそろ飽きて来て一緒に来ている他のメンバーに助けを求める視線を送っていた。


「でねー、有伽ちゃんが「真奈ちゃん料理上手だね」って言ってくれたんですよぉ。もう押し倒してそのまま処女捧げちゃいたくなりましたよー。ああもう有伽ちゃん素敵過ぎぃ~それでそれで……」


「そろそろ、アリアンヌ領に入るぞ柳宮」


「そうか。ジルベッタだったか、それとステラは私の後ろに、真奈香、そろそろ話を止めろ、感付かれるぞ」


「有伽ちゃん私と結婚し……え? あ、もう次の領地ですか隊長。じゃあエっちゃん頑張ろうね」


「エっちゃん……それで、アリアンヌ家ってなんだっけ?」


「傑出した者、ですね」


 エっちゃんことエンド・オメガは真奈香の召喚者であるステラに視線を向ける。野性味溢れる彼女は既に弓を手にして周囲を警戒していた。

 そこまで警戒せずとも好いのだが、自分のスキルを伝える必要も無いので無駄な努力を見逃しておく。


「領地に入ったと言ってもあまり意味はないでしょ。もう少し街に近づかないと、なんだっけ勇者? アレがいないんじゃないの?」


「目に見える範囲に勇者とか他の人はいないかな~」


「ふむ。接敵はまだのようだな。今しばらくは歩きだ。疲れてはいないかジルベッタ?」


「は、はい。お気使いありがとうございます」


 ぽっと顔を赤らめるのは小柄な少女。男の人に優しい声を掛けられることはなかっただけに、凛とした佇まいの柳宮に惹かれるのも無理のないことだった。

 頼れる存在としていつの間にかリーダーになっていた柳宮は、冷静沈着で判断も素早く全体指揮も申し分ない。ステラも彼の特性を早々に見極めこのパーティーの司令官になって貰っていた。


 もともと柳宮は元の世界で警察、妖対策課の係長をしていた身なのだ。むしろ司令官役は今まで通りのことを行っているだけに過ぎない。

 周囲を探り、時折手元の日記に視線を落とし、背後のメンバーがちゃんと付いて来ているかを確認、ちょろちょろと動いてどこかに行こうとするエンドを窘めたり、有伽ちゃんの自慢話を始める真奈香を窘めたり、あるいは野生の魔物を蹴りで撃破したりと忙しなく動きながらメンバーを街へと連れて行く。


 正直な話、柳宮が居なければあと数日は野宿生活が待っていただろう。

 ステラは良い拾いモノだったと一人納得する。

 召喚時ントロと一緒だったために無理矢理連れて来られてしまった彼には申し訳ないが、今回のントロ召喚は大成功だったと言っていいだろう。


 真奈香と柳宮。一人だけでも強力なのに、二人も同時に召喚出来たのだ。魔女戦争が再開されたとしてもこの二人が居れば勝利可能としか思えない。

 とはいえ……とステラはジルベッタを見る。

 彼女の召喚したエンドという名の少女は真奈香相手に善戦していた。

 正直真奈香一人だけだったらエンドと相打ちしてしまっても不思議ではなかっただろう。否、向こうの方がまだ武器を隠しているだけ危険かもしれない。


「ふむ? 気を付けろ、ントロだ」


「え?」


 最初に気付いたのは柳宮だった。

 驚くステラを放置して、真奈香とエンドが警戒体勢に入る。


「おや? これはこれは。初めまして皆さん」


 神官服を着た男と聖女のごとき姿の女が向かうべき道からやってくる。

 かなり距離は離れていたのだが、柳宮は警戒しながらも進むことにしたらしく、丁度発見から半分ほど歩いたところで相手と出会う。


「あなた達がアリアンヌ領の魔女とントロか?」


「いえ。私はヤーデン家の者ですわ。アリアンヌ領でントロ同士闘わせようとしたのですが、ほら、女神様から神託がございましたでしょう?」


「ああ、この世界は素晴らしい、神が身近に存在する。私レザンシエルは神々の使徒として邪神の勇者共を駆逐致しましょう。なればこそ、貴方がたに構っている暇などないのです。我が使命の邪魔にならないのであればどうぞ道をお開けくださいませ」


「なんか……上から目線よね。ムカつくわ」


「ダメだよーエっちゃん」


「ふむ? お前達先程の声は聞いていないのか?」


「先程の声?」


「うむ。アリアンヌ領で勇者反応があると女神が言っていただろう」


「……バカな!?」


「……気のせいですわ」


 驚くレザンシエルと目を逸らす魔女。

 どうやらヤーデン家の魔女には神託があったようだが、レザンシエルには真実を告げなかったらしい。

 

「クラリッサ、どういうことですか!」


「レザンシエル、その者たちは我らを惑わせようとしているのです。邪神の勇者を倒した後はントロ同士の闘い再開、その時に私と貴方の仲を引き裂くつもりのようですわ」


「オノレ貴様等ッ! 我等信徒の仲を引き裂くつもりだったか! 神敵、神敵、神敵であるッ! 罰を、神罰を天罰を人誅をををッ!!」


「チィッ! 真奈香、エンド、戦闘態勢! 来るぞ!」


 話すら出来ない狂戦士と化したレザンシエルに、思わず舌打ちする柳宮。

 女神に思わず視線を向けるが、天の声が降ってくる気配はなかった。

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