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地球・疫病の勇者1

 疫病の勇者は焦っていた。

 疫病により生物は全て自分が殺せる存在になった筈だった。

 この地球を破壊し終えれば次は自分の世界に向かわせて貰えると言う女神との確約も貰っていたので、直ぐに滅ぼし自分を否定した者どもへの復讐を考えていた。


 だが、想定外だ。

 この女、渡有譜亜の存在はまさに非常識である。

 折角手に入れたチート能力疫病が全く効かない。

 何しろ自称機械の女なのだ。生物ではないので効かないらしい。


 ダークエルフ。その浅黒い肌だけで汚物のように扱われ、気味が悪い。気持ち悪いと蔑まれた。

 許せるわけが無かった。

 奴等に地獄を味合わせられるなら、地球などどうなろうが知ったことではないのだ。


 だが、抵抗戦力となるラナリア所属の有譜亜にはそんな腐った思考から発せられた恨み辛みは関係なかった。

 地球にとって、自分たちにとって、生活を脅かす敵を排除する。

 それだけの理由があれば目の前の男を倒すことにためらいなど覚えるはずもない。


 丸鋸アームを押しつけ二つに切り裂かんとする有譜亜。

 剣と防壁魔法でなんとか凌ぐ疫病の勇者。

 この相手に恨みはないが、自分の邪魔をするのなら遠慮はしない。

 遠慮はしないが疫病が効かない以上自分の実力でのみ勝負するしかない。


 チート能力は疫病しか貰っていなかっただけにこれは少々想定外だった。

 思わず毒づくが、それを有譜亜が考慮する訳でもない。

 もう一つのアームをガトリングランチャーに変更し、至近距離からの乱射。

 ぎりぎりアシッドシールドが間に合い弾丸を溶かして受け止める。


「面倒なっ!」


「さっさと駆除されてください。地球にとって貴方は害悪でしかない」


「そう簡単に殺されると思うなよ」


 アシッドシールドを押しだし有譜亜を溶解させようとするが、酸化させるより早く逃れた有譜亜が後部ミサイルを発射。

 追尾式ミサイルが真上から襲いかかり、慌ててバックステップする疫病の勇者。

 ミサイルの一つが地面に接触し盛大に爆発。

 風圧に煽られ目を瞑った疫病の勇者に、追尾ミサイルが襲いかかった。


「ぐあああぁぁぁぁっ!?」


 連続して巻き起こった爆風の連撃に、疫病の勇者の身体が踊る。

 身体強化をしていた御蔭で肉体欠損こそないものの、今の一撃でかなりのダメージを貰ってしまった。


「グラニッド・ディストレス!」


「パターン9203722E4。登録済みの魔法を検知。対処します」


 左腕を電磁ネットに換装して即座に対応。

 さらに腹部分が開かれ素粒子メガランチャーを起動。ネットで集めた石礫を纏めて薙ぎ払う。

 光の奔流が迫り、慌てて疫病の勇者が回避。紙一重で長い耳がチリと光を一瞬受けた。


「ヒールッ、くぅ、やってくれる……」


 涙目で耳を確認し、疫病の勇者は反撃の一手を考える。

 しかし肉体性能は有譜亜の方が強いと言わざるをえないだろう。

 起死回生の一手など思いもつかない。

 このままではミスをした自分が敗北する姿しか想像できない。


 そう、彼一人では有譜亜から逃げることすら出来ないのだ。

 虫の勇者は?

 思わず探すが先程逃げたまま戻ってくる気配すらない。

 役に立たねぇ。思わず毒づく。


 自分の力など大したものではないのは自分が良く分かっていた。

 だからチート能力には自分の実力が殆どいらないモノを願ったのだ。

 疫病であれば周囲の人間が勝手に死んでいくのだから自分の実力など不要でしかない。

 このままではジリ貧なうえに敗北必死だ。焦る疫病の勇者だったが、好機は向こうからやってきた。


「っ? 敵性反応?」


 不意に、有譜亜が疫病の勇者から視線を離す。

 逃げようとは思わなかった。疫病の勇者とてその闖入者に視線を向けていたのだから。

 そいつは仮面を付けたダンサーだった。

 ダンサー衣装に身を包んだ細身の女は、跳躍と共に有譜亜に蹴りを叩き込む。


「仮面ダンサーアン。気が狂いましたか?」


 そいつの名は仮面ダンサーアン。想定外の敵にさすがの有譜亜も疫病の勇者から意識を離す。

 完全に自分への意識が離れたのに気付いた疫病の勇者は、一瞬考えたものの、今がチャンスだと逃走を開始した。


「っ! 逃しは……」


「疾ッ!」


 咄嗟に追おうとした有譜亜。しかしアンの一撃が彼女を吹き飛ばす。

 地面を割り砕き、デパートの壁を粉砕した有譜亜。しかし本人は無傷で歩き出す。


「仮面ダンサーアン。ラナリアデータベースより複数の場所で敵対を確認。本機は最優先事項は疫病の勇者撃破であると認識しておりますが、邪魔をなさるのですか?」


「確かに、彼は危険。でも私にとってはあなたの方が危険だわ。あなたを倒した後で彼は殺しておく」


「その間にどれ程の被害が出るか理解できてますか正義の味方」


「私は悪の秘密結社エレナークの怪人です。もう、正義の味方は引退したつもりですよ」


「そうですか。では。緊急送信。ラナリア全軍に告ぐ。エレナークは完全にラナリアの敵と認識しました。地球の安全の為早急に駆除することを報告します。これよりラナリアは、エレナークと全面戦争に入ります」


「好都合」


 有譜亜と仮面ダンサーアンが敵対する。

 既に疫病の勇者はいなくなっていたが、有譜亜の索敵には既に登録されているのでどれ程離れてもいつでも追える。今は、この危険過ぎる敵を撃破する事だけに意識を向けるのだった。

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