序・モルグドラハ
ギャオオオオオ!?
悲鳴と共に巨体が傾ぐ。
木々を圧し折り首長竜が倒れ伏した。
「っし! 肉確保です!」
拳を握ったのはトンボをモチーフとした黄色と黒が基調の怪人バグリベルレ。
さらに蟻を基調としたバグアントとカブトムシを基調とした片腕が機械のバグカブトが首長竜の生死を確認し始める。
「さすが先輩達です。私の感動が止まりません!!」
空中から翅を羽ばたかせて舞い降りてきたのは蜂型怪人バグワスプ。
さらにその後から数人の男女がやって来る。
彼らはヒーロー養成学園ヒストブルグで森元王利の異世界転移に巻き込まれたメンバーだ。
今はバグソルジャーと共に恐竜狩りを行っており、大物を仕留めたバグソルジャーの元へと集まって来たのである。
王利のクラスメイトである海賀雅巳、笹垣薺、藍染亜衣子、李蘭爛。さらに巻き込まれたエコーデリーターと仮面ダンサーステップ、ダンゴロワムワがいる。
彼らはバグソルジャーを手伝って首長竜の遺体をキャンプ地まで運び始める。
そのキャンプ地では、件の森元王利がいた。
インセクトワールド社首領の右腕と呼ばれる自己の生存のみに特化した怪人ウォーター・ベアである。
彼は今焚火の種火を作ろうとしているところであった。彼の側には彼を主人と仰ぐ人型兵器ほたるんと、ハルモネイアがじぃっと彼が作る種火を見つめている。
「いや、見つめる位なら手伝えよ。炎とか出るだろハルモネイア!?」
「無理でる。私の武装ではこのような細い枝を燃やすことはできませる。むしろ炭化するか消滅しまる」
「私も残念ながら炎関連は……」
「あーもう、はいはい。分かりましたよ。俺がやりゃ良いんっしょ。つか葉奈さんくっつき過ぎ。種火作りづらいんですが」
冴えない王利の直ぐ横には横ポニーテールの女ががっしりと彼を拘束して抱きついていた。
正直密着し過ぎていて動きづらい。
コレがバグソルジャーの一人であるバグパピヨンであるというのだから驚きだ。
「葉奈さんはラブラブですねぇ。あ、ラナさんかクルナさんここに火つけてくれます?」
王利と葉奈を優しい目で見ながら告げたのは武藤風音。彼女もまたインセクトワールド社の社員であり、今はラナリア所属の怪人だ。怪人フィエステリア・ピシシーダの妹役でもある。当然ながら普段生活を送る為の設定なので実際の兄妹ではないらしい。
風音が王利から視線を外して声を掛けたのは、土をこねてお城を作って遊んでいた二人の少女だった。
金髪の可愛らしい少女がラナ。黒髪の少し冷めた視線を向けて来たのがクルナである。
二人は風音に話しかけんなオーラをだしつつも、仕方ないな、とラナが立ち上がる。
「火よ、灯れ」
言葉を紡いだ瞬間だった、今まで王利が苦労して種火を作ろうとしていた理由、集めた薪が燃えだした。
王利の苦労は台無しである。
呆然と燃える薪を見つめる王利は、力尽きたようにその場に倒れた。
視線の先には、ラナにより作られた、ビーチによくある寝そべられる椅子に寝ころんでいるラナに良く似た金髪の少女と、隣に寝そべる黒髪の女。ラナリア影の首領、レウコクロリディウムの第二人格クロリと、バグソルジャーのメンテナンスドクター花菱鹿波である。
クロリの側には世話役のエルフ姫エルティア、そして元クロスブリッドカンパニー社長令嬢、ヘスティ=ビルギリッテ。鹿波の側にはナールという名前の機械兵がいる。
巨大な扇で仰がれているのは、ここが恐竜が闊歩する熱帯雨林だからだろう。
皆大量の汗を掻いているはずなのだが、言霊を操るラナとクルナがいてくれる御蔭で結構快適に過ごせていた。
王利が腕に嵌めている異世界転移の腕輪で行ける異世界を、彼らは今一次元から順に巡っている最中であった。
時間を掛けてゆったりと回っているため今は第十世界。魔法を使う恐竜たちが闊歩する恐竜時代である十次元の世界で野生生活満喫中であった。そこに、天からの声が降って来たのだ。
この世界モルグドラハを守ってほしい。女神サンニ・ヤカーの勇者を名乗る者たちが三人程入り込み、この世界を破壊しようとしているのだという。
起き上がった王利は首領クロリに視線を向ける。
「ふむ。ただ魔法を使って来る恐竜共だけだったので刺激が少ないと思っておったのだ。丁度いい。暇つぶしに遊んでやるか、なぁ、W・B」
「遊ぶのはいいですが、結局闘うのは俺達っすか」
「当然だろう? 首領というのは部下を顎で使ってどっしりと構えておくものさ」
「もうすぐ貴様等が死滅すると予言されている第十六世界だ。肩慣らしには丁度良いのではないか?」
と、いいながらやって来たのは別世界から合流してきたアルベリカ・アロンダイト・アークウインドという女と、その付き人の巨漢の男。松平夜叉丸時宗。
彼らは森から集めた果物や野草を適当な場所に置いて焚火の元へとやって来る。
「ほぅ。ただ木と木を擦るだけでここまで立派な炎になるのだな」
「……」
アルベリカの感心した声に、王利はただただ無言で押し黙るしかできなかった。




