ミルカエルゼ・錬金の勇者2
「う、動きませーんっ」
泣き顔で告げるシャーセ。呆れた顔なのはパールヴァティだけだった。
自由に動けるのも彼女だけだったため、我が独壇場よな! とばかりにやる気満々、錬金の勇者向けて目から怪光線を発射する。
「きゃっ」
咄嗟に身を屈めやり過ごす。
その間にもアレをどうにかするには何が必要だと思考を回転させる。
「そうだ!」
道具を取り出し空中にばら撒く。
「また何か作る気です! A・P気を付けて!」
「言われなくとも分かっておるぞ! 我が魔眼で諸共潰して……」
パンッ。両手が合わさり調合が開始される。
融合した資材から合成されたのは、一本の縄。
縄? 三つ目をぱちくりさせたパールヴァティ向けて、錬金の勇者は迷うことなく縄を丸めて投げつける。
「阿呆か、ただ投げてどうな……おぉぅっ!?」
手で払おうとした瞬間あった。
まるで蛇のようにその腕を伝いパールヴァティの身体に巻きつく動く縄。
勝手に動きパールヴァティの身をきつく縛りつけてしまった。
芋虫のようにごろんと転がったパールヴァティ。その口から罵声が漏れるより早く、猿轡のように縄が口を塞いでしまった。
「んんっ!? んーんーんーっ!!」
芋虫がごろんごろんと転がる。
滑稽な拘束物体と化した彼女を見て、ようやく息を吐く錬金の勇者。
「ふぅ、とりあえずは無力化成功、かしら」
「すげぇな。あの三人結構強いんだが」
「ええ。焦りはしたけど拘束だけなら充分……え?」
不意に、背後から男の声がした。
素で返した錬金の勇者は、ふと気付く。
爆炎の勇者はまだエクスキューターと闘っている最中だ。
では一体、誰が……
慌てて振り向いた瞬間、その顔を両手が固定する。
失敗した、そう思ったが遅かった。
男の顔が迫る。
「悪いな」
何が悪いのか、軽く謝るような言葉を呟き、男は彼女の唇を塞いだ。
何が起こったのか理解できない。その間に彼女の初キスは奪われそればかりか未知の感覚を味合わされることとなる。
「うわー。さすかにエケツないネ」
「我が夫ながら、アレは……ねぇ」
美音奈と鯉恋が呆れた顔をする。
当然のことながら錬金の勇者を襲ったのは武藤薬藻ことフィエステリアであった。
彼の特技の一つ、駄女神マロンの悪ノリのせいで手に入れてしまった口付けスキルのせいで、彼はまさにレディキラーの二つ名をほしいままにするハーレム王となったのだ。
その一撃が今、女神の勇者の一人に大判振る舞いされていた。
「あ、あの、あれって……」
「堕ちるわね。可哀想に」
良く分かっていないながらも戦慄するノエルの肩を冬子がぽんっと叩く。
戻ってきた可憐が瞬間移動の勇者なんとか倒しま……えええっ!? と驚いていたが誰も彼にはフォローを入れる気はないらしく、行為が終わるのをただただ呆れた顔で見守っていた。
唇と唇が離れる。
くたり、力尽きた錬金の勇者が地面に寝そべった。
その姿はもはや凌辱の限りを尽くされた顔であり、ハイライトが消えているようだった。
ノエルがあわわと小刻みに震える横で、冬子と美音奈が新たな仲間の元へと向かう。
「さぁ、後一人ね薬藻」
「あーうん。まぁそうなんだが、大丈夫だよなこの人?」
「アレ食らってまだ敵意を持ってたら称賛モノね」
「ボクもアレくらったら無理だと思うなぁ。経験者は語るってねー。はい、しっしっ」
手をぷらぷらと振ってフィエステリアを追い払う美音奈。
妻の一人から手酷く扱われる状況に、何も言えないフィエステリアは泣きそうな顔で次の獲物へと向かって行くのだった。
そんなフィエステリアの寂しい背中を見ることなく、美音奈と冬子は錬金の勇者を仲間の元へと移送する。
「アイヤー。これはひといアル」
「こ、これ、本当に雅さんですか……ごくっ」
ノエルが生唾を飲む。
それ程に、凛とした錬金の勇者がすべきではない蕩けた顔になっていた。
流石は魔王と呼ばれるだけはある。思わず戦慄するノエルにクスリと笑う美音奈。
「正気に戻るまではしばらく掛かるわね。とりあえずもう一人増える予定だし、彼女の移動、皆で手伝って。もう一人の近くまで運びましょ。ノエル含めて三人が堕ちたら安全地帯で説得開始よ」
美音奈の言葉に冬子が頷く。
「はぁ、でも勝手に側室増やしていいんですか? ネリウさん怒りません?」
「その辺は薬藻君に頑張って貰っちゃいます」
小悪魔風におどける美音奈に溜息を吐く可憐。超能力を使って錬金の勇者を運んでくれるらしい。
手持ちぶたさになった鯉恋たちは、シャーセたちのフォローに向かうことにしたのだった。
未だに氷漬けにされてたり生きた縄に巻き付かれていたので、縄が反応しないノエルに手伝って貰い、拘束を解いてやるのだった。
やはり女神の勇者同士の能力は効かないようで、彼女に対しては縄自体が反応せずに手に収まったので比較的楽に拘束は解けたのだった。




