ミルカエルゼ・錬金の勇者1
錬金の勇者こと如月 雅は愕然としていた。
まさか憧れた正義の味方、断罪者の二人が敵として出現したのである。
憧れの相手に敵対される。それはあまりに残酷な現実だった。
流石にこの状況で世界の破壊などする気にはなれない。
そもそもが世界破壊は錬金術を行うためのついででしかなかった。
力を与えてくれた存在から頼まれたからやってやるか程度であり、錬金の勇者にとっては二の次である。
今は錬金の力が使いたくて、素材を手に入れて両手を合わせて錬金。
混ぜ合わせた素材から出来るモノが目の前に出現するという簡単な調合方法で錬金術が使えるのだ。
対価は必要とせず、釜もいらない。
素材さえあれば時間すら掛けず簡単にできるのだ。
賢者の石すら労せず作りだせるチート錬金術師、それが彼女である。
「クソ、役立たずの錬金女め」
今回相方となった爆炎の勇者は彼女の凄さを全く理解していないらしい。
そればかりか、エクスキューター相手に敵対する気満々のようだ。
その為、余った三人が錬金の勇者にターゲットを変える。
P・A、A・P、シャーセ・パラステアの三名が錬金の勇者に視線を向けた。
流石に敵意を向けられ呆然としている訳にはいかない。
マグマが固まった石を懐から取り出し、さらに既に作っておいた中和剤、合わせるべき素材を取り出し中空にばら撒く。
シャーセが巨大ハンマーを構え、プロミネンス・アイラーヴァタが長扇子を斜め下へと構え悠然と佇む。アカシック・パールヴァティはニヤニヤしながらその背後で腕を組んで仁王立ち。三つ目をニヤませる姿は小憎らしさ満載のちびっこにしか見えない。
パンッと手を合わせ調合開始。
中空にばら撒かれた素材から、爆弾が六つ生成される。
宙に浮かぶそれらから一つを手に乗り、迷うことなく使用。
思い切りアイラーヴァタ向けて投げ飛ばす。
咄嗟に逃げるシャーセとパールヴァティ。
地面に接地した瞬間爆弾が爆発。凶悪な爆炎が噴き上がる。
覆い隠されたアイラーヴァタの姿は見えなくなった。
「まずは一人……」
横目で闘い始めたエクスキューターを見る。
敵。敵なのだ。そう思いながらも敵対したくないという思いが湧きあがる。
必死に押さえて二つ目の爆弾を手に取る。
「食らえっ!」
シャーセ向けて投げた瞬間だった。
爆炎の向こうから悠々アイラーヴァタがやってくる。
爆炎の直撃を受けたはずなのにダメージを負った気配はない。
「ビームなのだっ」
アイラーヴァタに気を取られた瞬間、待ってましたとパールヴァティの目から怪光線。
一筋の光が錬金の勇者の頬を掠め、爆弾一つを消し飛ばす。
遠くで爆弾が爆発し、爆炎の勇者にダメージが入った。
「ぐおぉっ!? 錬金っ、テメェ何してやがるっ」
「あ、ご、ごめんっ」
「後で殴り飛ばしてやるっ! 覚えてろよ」
「後なんてないっての!」
「そうだよ。ここで死ぬんだよ、私が始末しちゃっていいんだよね! よね!」
体勢を崩した爆炎の勇者向け、エクスキューターが襲いかかる。
右から双剣構えたサンシャインキューター。左からは大鎌持ったダークネスキュータ―。
爆炎の勇者も流石にこの二人相手には苦戦必至なようで、さらに仲間の武器による誤爆攻撃の煽りをくらって更なる危機に陥っていた。
「余所見ですか?」
「っ!?」
ちょっと目を離した隙にアイラーヴァタが接近している。
慌てて爆弾を投げるが、アイラーヴァタは自身の周囲を火の海へと変えながら気にせず迫る。
プロミネンス・アイラーヴァタ。その名の通り、火炎を操る象人間型の怪人である。
つまり、彼女にとっては爆炎の炎などダメージにすらならないのだ。
選択ミスだと気付いた錬金の勇者は残った爆弾を適当に放り投げ、懐から別の素材を取り出す。
空中にばら撒き手を叩く。
調合開始。
完成した道具は四つ。
全て同じ道具である。
「冷凍爆弾、くらえっ!」
その一つをアイラーヴァタに投げ飛ばす。
地面にぶつかった爆弾が冷気を撒き散らす。
「これは!?」
アイラーヴァタの足に氷が張りつく。彼女の足を固定した一撃に、焦った顔をするアイラーヴァタ。チャンスではある。このまま相手に冷凍爆弾を投げれば初めて一人倒すことはできるかもしれない。しかし、本当に殺してしまっていいのか?
思わずエクスキューターを見る。ダメだ。顔色を窺うな。自分は女神の勇者なのだから。心を鬼に、相手を殺……
逡巡は一瞬だった。
しかし、その一瞬は命取りでもあった。
側面から近づいていたシャーセが走り込む。
「どっせぇいっ」
巨大ハンマーが上空から襲いかかる。
慌てて飛び退き冷凍爆弾。
打ち降ろした巨大ハンマーと大地が縫い付けられた。




