地球・虫の勇者3
攻め手がない。
葛之葉はギリと唇を噛む。
浮遊尻尾の御蔭で虫の奇襲はないし、羽虫は全て幻術で出来た葛之葉の幻向けて突撃している。
今のところ自分の危機はそこまでないのだが、これに仮面ダンサーアンが敵として加わったことで勝機はかなり低くなった。
面倒過ぎる。
しかしやらない訳にはいかない。
狐火も蛟舞いも土塊ゴーレムも次々に突破され、虫を張り付けた一撃が襲いかかってくる。
狐火の御蔭で直ぐに燃え消えるが、アンの連撃を受けられないのが辛い。
浮遊の尻尾と飛行の尻尾を駆使し、緩急を付けて避ける他、シールド尻尾で何も無い場所に空気の盾を作ったり、風操作尻尾で風を操ることでやり過ごしたり、いろいろと考えながら尻尾を組み合わせてアンの攻撃を薙ぎ散らす。
自身では接敵出来ないのが痛い。
近接戦闘を行えるのならば即死尻尾でも刺してやれるのに、虫が葛之葉の身体に付けば虫の勇者も気付いて攻撃して来るだろう。
二人に共闘されればそれこそ終わりだ。
なんとか幻術が解かれる前にアンを撃破。あるいは虫の勇者を殺すしかない。
だが、現状打つ手は……ない? 本当に?
小出葛之葉は妖狐だ。マロムニアの伝説の島でレベルを上げ、チート生物化してしまった妖狐である。
それは九尾の狐ではない。もっと尻尾を沢山持つ、九十九尾のお狐様である。
九十九狐には様々な特性を持つ尻尾が文字通り九十九あるのである。
ならばその中に使える尻尾がまだ眠っている可能性はある。
「け、結界尻尾!」
結界を作りだす尻尾で自身を正方形型の結界に閉じ込める。
アンの一撃が何度も繰り出され、結界の外面が虫だらけになってくるが、落ち付いて尻尾を調べる時間は手に入った。
今まで数が多過ぎてランダムで出てくる尻尾だけを認識していたが、ここでなんとか全て確認するしかないだろう。
「おあつらえ向きの尻尾があればよいのだが……相も変わらず料理上手の尻尾は自己主張が強いのぅ」
どれだけ相手を料理上手にしたいのか。刺した相手を料理上手にする料理上手の尻尾は大抵九尾選んだ中の一つに入っている傑物だ。どれだけ総チェンジしようと二回に一回は必ず見かけるほどに出現率が高い。
今回は全てを取り出して一つ一つ吟味しているが、どれだけ奥にしまおうとしても尻尾と尻尾の合間を縫っていつの間にか次に手に取ろうとした尻尾の場所にやって来ている。ある意味呪いの尻尾だろう。
相手に呪いを与える呪い尻尾もあるにはあるが、今は必要ないし、料理上手の尻尾の呪いとは別種のものなので用途もほとんどない。
そもそも料理上手の尻尾自体必要の無いものなので何度も奥へと押し込んでおく。
御蔭で調べる手間が増える増える。100尾以上調べることになってしまうので目的の尻尾が現れたところで今回は打ち止めにして、近いうちに本格的に自分の扱える能力を把握しておくべきだろう。
「面倒なことこの上ないのぅ」
しかし、自身の能力の把握しきっていない状態で今のように千日手になってしまっては意味が無い。そこで後悔するよりは調べておく方がいいだろう。
「えーっと、これは剣、これは盾、これは毒、これは石化。石化はアンには効かんよなぁ」
メインの尻尾は大抵決まっている。
剣、盾、炎、水、気温操作、結界、雷、風なと十数種類の能力を入れ替わりで九つ、九尾の狐状態で使っている。
ランダムで適当な能力が一つ入るようにはしているが、そこは殆ど料理上手の尻尾が占めているので実質、メイン能力は決まっているようなものである。
今は全く出てきていない尻尾達にスポットライトを当てているのだが、爆笑尻尾とか意味があるのだろうか? 即死尻尾は短いし、これを直で相手に刺さないと効果が出ないので完全に白兵戦用尻尾だ。
他にも役に立たない尻尾は多く、能力値を一時的に底上げ出来る補助用の尻尾ならばまだマシな方。寿命吸い取りの尻尾やら病魔尻尾はそれなりに使えるものの、寿命分け与え尻尾やら病気吸い取り尻尾などは一生お蔵入りになりそうな気すらする。
何が悲しくて他人に寿命与えたり他人の病気を貰ったりせねばならんのか。
「とりあえず炎尻尾で周囲の虫を焼き殺して……こ、これはっ!?」
その尻尾は、奥の奥にひっそりと存在していた。
手に取った瞬間起死回生の一手を思いつく。
待っていた尻尾の出現に、葛之葉は小踊りしたい位ににょほほと笑いが止まらなくなった。
「にょほ、にょほほ、にょほほほほほほほほほっ」
「狂ったか女狐」
「抜かせ地球の裏切り者め。天使悪魔が許そうと、この九十九狐葛之葉が許さんぞ。もはや泣いて許しを乞うても絶対に破壊してくれるからなっ!」
覚悟せい仮面ダンサーアン。妖狐の底力、とくと味わうがいい!!




