第1話 目覚め
時は西暦2500年。人類は一般人の他に魔力を宿す者の存在がいた。彼らを魔力保持異能者と人々は呼ぶ。いつしか略され現代では魔力者と呼ぶのが一般人的になった。
魔力者は一般的な人間よりも身体能力に優れており異能、すなわち魔術を操れるのが大きな特徴だ。操れる魔術は属性によって異なり水、炎、風、など自然界に存在する森羅万象を属性とする存在が多いとされている。稀に超次元的な属性を持つ者も存在するが全体の約1割と希少である。
魔力者と一般人は共存し日々を送っている。
うだるような暑さが続き外では蝉が大合唱をしている。その蝉時雨がより暑さを際立たせているようだった。
外では小鳥のさえずりが聞こえ朝日の爽やかな光が差している。ぼんやりとした頭で朝が訪れたことを知った。
さっきのが夢であることに気づいたのは更に時間が経った後であった。
完全に目覚めた後で夢を思い出そうとしても暗黒の世界の中で誰かがひたすら謝っていたことしか思い出せない。…もっと重要なことがあった気がするのだが…。
稀に見る謎めいた夢は断片的にしか覚えていない。更に体力を削られてぼんやりする。背中は汗でグッショリと濡れていた。
「兄貴。おはよ。起きたんなら早く支度しないと遅刻するよ」
「煩いな…。言われなくてもこれからするところだ」
夏休みを目前に控えた平日。桜雲高校に通う高校2年の兄、臥龍律花と新緑中学校に通う中学2年の弟、雅騎の姿があった。
雅騎は学ランを着て支度は整っているというのに律花はまだ寝間着である。
「…兄貴。時計」
「…あっ…」
呆れた雅騎が時計を指さす。その時刻はいつも家を出る15分前だった。
弾かれるように慌てて支度をする律花。とはいえ手早く支度を済ませるのは慣れているようで、10分程度で全ての支度を終わらせた。
律花の寝起きの悪さは折り紙つきで出発数分前に目が覚めるのも日常茶判事である。
「なぁ、兄貴また変な夢見たの?」
「…なんで?」
「魘されてた。あと俺起こさなかったし」
「…あぁ…そっか…」
「で、昼飯だけど作っておいたから温めて食べて」
律花は軽くお礼を言う。両親のいない兄弟は家事が得意な雅騎が行うのが定番になっている。
普段なら弁当を用意するのだが、今日は午前放課の為事前に作ってくれた。
「もう時間だし家出ようか」
「あぁ。午後からバイト行く。帰り遅いから夕飯先に食べてていいぞ」
帰りが遅くなる日は事前に言っとかないと飯も食べないでずっと待たせる羽目になる。それは避けたい。
「分かった。じゃ、俺急ぐから!」
時間ギリギリに近い雅騎は走って学校に向かっていった。まぁ律花自身が原因なのは重々承知していたが。
自宅から少し進んだ先の交差点。そこが律花と友人の待ち合わせ場所。たどり着くとやはり既に彼はいた。
「お!おはよ。珍しく今日は寝惚けてないんだな」
「…夢見が悪かった」
彼は律花の様子を見るや否やクスクスと笑う。寝惚けてはないが髪は寝癖がついて一本派手に跳ねていたからだ。
「寝癖は直そうよ?」
「そんな時間ない」
学校へ足を進める。歩きながら彼は寝癖を直そうと手ぐしで整える。容姿を特に気にしない律花はされるがまま。
彼は園川柊介。小学校からの幼馴染。高校の制服はブレザーだが校則は服装に特に厳しくなく軽く着崩していた。色素の薄い茶色の短髪で笑顔の似合う爽やかな顔立ちをしている。目つきも鋭くなく垂れ目で温かみのある黄色い瞳のため優しく近付きやすい雰囲気を放つ。面倒見が良くておおらかな性格。母親みたいに世話を焼いてくるからつい律花も甘えてしまう。
道中珍しく話を交わしながら学校へ向かった。基本的に律花は聞き手で柊介の家族の話を聞くのが楽しい。兄弟が多くて色々な話が聴けるのが律花にとっては新鮮だった。
校門付近まで来ると誰かの気配が後ろからゆらりと近付いてくる。
…またか…。
律花は呆れながらひらりと身をかわしつつ相手の身体を受け止めた。
「うわぁ!よけられたぁ!」
「…避けるに決まってる。毎度よく飽きないな絢」
「え〜っ!いつもは避けないじゃん。寝ぼけてて」
「今日は残念だったな」
絢はぷぅっと頬を膨らませる。毎朝毎度、背後から飛びついてくる。眠気覚ましなどと言っているが全く効果はない。絢が単にやりたいだけだろうと律花は諦めていた。もちろん今日みたいに寝ぼけてなければ避けるが。
黒澤絢。背が低く、顔も童顔で目は大きいしまつ毛も長い。声も高めなので見た目は女子に近しいがれっきとした男子だ。短い茶髪で分け目から綺麗に跳ねた髪型。前髪は右側だけ二本のピンをクロスさせてとめている。ターコイズブルーの眼は大きく女々しさを際立たせる。制服は相変わらず思い切り着崩しておりYシャツの上にパーカーを羽織っていた。
絢だけはクラスが違う。階段を登ったところで別れた。律花と柊介は共に教室へ入る。既に登校していたクラスメイトは友達同士で語り合っている。いつもの光景だ。
律花は早々に席に着いた。柊介は前の席だが荷物を整えるとわざわざ律花の席へ椅子だけを近づける。背もたれを前に抱え込むようにして座った。こっちの方が距離が近くて話しやすい。
「いや、でも本当。律花が寝ぼけてないの珍しいね。起きてるの嬉しいよ。いつも着いた途端寝ちゃうんだもん」
「すまないな。どうしても眠くて…。いつも絢来てるんだろ?」
「うん。クラスメイトより俺ら幼馴染の方がいいみたいだね。浮いてるとかじゃないんだけど」
絢の律花たちに対する依存は悪いことではないがこの先のことを考えると今のままでは良くないと彼らは思った。しかし本人を目の前にするとつい甘やかしてしまうのが現実だ。
「柊ー!!あっ律花が起きてる!!」
その本人が話を聞きつけたかのようなタイミングで扉から顔を覗かせる。珍しく律花が起きているのでいつも以上に嬉々として律花の席へ来た。
「本当に珍しいね。明日の天気は雪かなぁ」
「…絢、重い。あとなにやってんだやめろ」
「え〜っ僕軽い方なのに〜。律花が起きてるから頭撫でてるのえへへっ」
絢は2人の所へ来るなり、律花の上にのしかかり頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。 しかも自覚のない嫌味を無邪気に言った。
いくら絢の体重が軽いとはいえ朝っぱらからしかも思い切り体重を預けられると流石に重い。髪だって手ぐしとはいえ柊介が整えてくれたものだ。
「えへへっじゃないでしょ。律花嫌がってるよ?怒る前にやめな?」
「俺が短気みたいな言い方するなよ」
「こうでも言わないと本当に律花が怒るまでやり続けるでしょ?お前怒るとめんどくさいし」
「めんどくさいって…」
「そだねっ。一切口聞いてくれなくなるのやだしやめる〜」
柊介の大袈裟な注意のおかげで絢はやめてくれたが複雑な気持ちになった。
絢は律花の席に飛び乗る。昨夜のドラマの話をし始めた。柊介は話に乗るが律花は基本バイトがあって見れていない。それでも話を聞くのは楽しかった。
やがて時間になり担任が入ってくる。他クラスの絢は名残惜しそうに教室を去って行った。
SHRが始まると出欠確認や諸連絡をする。聞き流していると眠くなってくる。……そういえば夢のせいでよく寝られなかったな……。律花は眠気に耐えていたが時間も経たず机に伏して眠りについてしまった。
柊介は後ろで寝ている律花に気付いたが起こそうとはしない。他生徒や担任も同様で彼の家庭環境故の黙認という配慮からだった。
そして律花は三時限まで寝続けた。数学に世界史、現代文という静かな教科が相まって尚更だ。
帰りのSHRも寝ている間に済まされる。
「園川。起こしてから帰ってくれな?」
「…分かってます。すいません」
担任は去り際に声をかけていった。柊介は反射的に謝ってしまう。担任は苦笑いをしていた。
「律花。起きて、帰るよ?」
「柊ーっ!!律花ーっ!!かーえろっ!!」
「わっ!絢!?」
柊介が律花の肩を揺すって起こそうと試みる。それと絢が走って来て律花に飛びかかるのはほぼ同時だった。
「バ…バカ!!そんな起こし方しちゃ…」
「え……寝てるって言ってよぉ……」
「絢が急に飛びかかるのが悪いんだろ。俺だってびっくりしたよ」
「……律花、ごめんねぇ……」
普段穏やかなものの寝起きは機嫌が悪いのは二人共承知の仲だ。絢は思わず柊介の後ろに隠れる。
「……痛い……」
「…絢も悪気があった訳じゃないし謝ってるから許してあげて……」
「……律花、ごめんねぇ……」
衝撃による目覚めによって律花の機嫌は暴落していた。露骨にため息を吐くとそのまま無言でどこかへ行こうとする。
「…どこ行くの?」
「…どこでもいいだろ…」
質問に答えるのにすら面倒そうにする。頭をガシガシと掻きながら教室を出て行った。
「…怒らせちゃった…」
「時間経てば許してくれると思うよ?気を付けなきゃ駄目だからね」
「……うん」
律花はまだ眠い目を擦りながら便所に向かった。顔を洗う為だ。これからバイトなのに眠気が残ったままではやばいと思った。冷たい水を何度か顔面に浴びると眠気が引く。完全とまではいかないがする前よりは随分マシだ。
教室へ戻ると今にも泣きそうな絢の姿が目に入る。チラッと律花を見て怯えた様子になる。
「……別に怒ってない。怒ってないけどああいう起こし方は嫌いだからしないでくれって言った筈だ」
「…ごめんね…朝起きてたから起きてるのかと思って……」
「あぁ……成程な。てか怒ってないからそう怯えないでくれないか?」
「ほんと!?律花ー!!」
今さっきまで怯えた小動物みたいだったのに怒ってないことが分かるとすぐさま飛び付く。
「悪いがこうもしてられないんだ」
「えっ。バイトあるのぉ?遊ぼうと思ったのにー」
「すまないな。また今度空けるから」
手早く荷物を纏めると先に教室を出て行ってしまう。
「あっ!!律花一緒に……って行っちゃったみたい」
「柊は暇?」
「兄弟達の子守り」
「じゃあ柊ん家行くね!」
絢は何が何でも遊びたいらしい。半ば強引だったが柊介は予想していた為不快には思わなかった。
律花は一旦家に帰ると雅騎の作ってくれた昼食を食べる。牛丼だったのでレンジで温めて食べた。自分の弟ながら本当に雅騎の作る料理はどれも美味しい。
そんなに味わう時間は取れずなるべく早く食べてバイトへ向かった。
バイト先は本屋の裏方。在庫管理や包装をしている。店長が父の友人で特別に雇ってもらった。高校生バイトでよくある飲食店とかは向かないだろうという配慮に甘えさせてもらっている。
「おはようございます」
「おはよう」
すれ違う従業員達に声をかけ更衣室へ向かう。バイトの準備をしながら少し余裕があるのでケータイを見た。アプリの通知だけだったことを確認して持ち場に向かう。漫画の発売日がいくつか重なっているらしく未包装の新刊がダンボールで山になっていた。包装は流れ作業でひたすら無心でやり続ける。
「律ー。上がっていいぞ〜」
気付けば上がりの時間になっていた。流石の俺でもあの量では片付かなかった。
「まだ残ってますけど………」
このまま帰るのは心苦しいとやや抵抗してみる。
「……まぁそりゃお前でも終わらないだろうよ。……まさかお前まだ残りたいの?」
「まぁ…、はい…」
「稼ぎたいんだろうから別にいいけどさぁ。俺は助かるし。でもお前飯は?」
「…昼は食べました」
「ったく!夕飯のことだよ!雅騎にいらないっつっとけ!ほら、行くぞ!」
急に店長が律花の手首を引っ張り連れ出そうとする。律花は慌ててエプロンを外した。
「俺とこいつ休憩一時間なーよろしく〜」
店長は他の従業員に声をかけると手首を掴んだまま外へ出た。
「店長!どこ行くんですか!いい加減離してくださいよ!逃げませんから!」
「え?あぁ、すまん。飯だ飯!残業する代わりに奢らせろ」
店長はすんなりと手を離した。そして近所のラーメン屋を指差す。
「あぁ……ありがとうございます…」
「反応薄っ」
「いや頼んでないですし…。て言うか、断ってもしつこいじゃないですか」
父親の友人とだけあって雅騎のことも知ってるし、律花達の境遇まで知ってる。そのせいか残業はさせてくれるがお節介まで焼いてくるのは如何なものか。
「まぁ、そうだな。だって食べ盛りだろー。食費も浮くし。な?しかもお前ほっとくと食べなそうだし…。全くの他人って訳じゃねぇんだから大人しく奢られとけ」
「……分かりました…」
律花が不服ながらも了解をすると店長は満足気な表情でラーメン屋に向かって歩き始める。内心、不服そうな顔が親父にそっくりだと思ったがそっと心に留めておくことにした。
ラーメン屋に着くなり好きな物を頼んでいいと店長は言うが堂々とこれが食べたいなんて言えるわけがない。どれが無難か考えた果て結局収集がつかなくなりどれでもいいと言ってしまった。
「ったく…物欲も無ければ食欲もないのかお前は。俺が勝手に頼んでいいんだな?」
「はい」
店長がラーメン屋の店員を呼び頼んだのはチャーシュー麺と野菜チャーシュー麺。いかにも男受けするメニューを頼んでいた。
「大盛り無料ですがいかが致しますか?」
「律。お前は?」
「普通でいいです」
「そっか。んじゃ大盛りチャーシュー麺で」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員が立ち去ると不服そうな顔の店長が先に口を開いた。
「大盛りじゃなくていいのか?」
「学生は大盛りっていう安易な偏見やめてください。大体元々量が多いの選びましたよね?」
「お前が自分で選ばないからだ!」
「メニューに関しては文句ないです。大盛りにするかどうかは俺の勝手でしょう」
不服を伝えると店長の表情がみるみるむくれていく。
「あーはいはい、すいませんでした!理屈っぽい所親父そっくりだな!よく喧嘩したよ、俺が負けるけど」
「でしょうね」
店長は鳩が豆鉄砲食らったような顔になる。普通の店長とバイトの関係ならアウトだ。
「あっ!そういう事言う〜?強制的に大盛りに変更するぞ」
「なんですかその幼稚な脅迫。普通に勿体ないからやめてください」
「うっ……お前にも勝てんな……。てか食えるだろ?そんな少食だったっけ?」
「あぁいや、食えますけど……。あんまり腹いっぱいにすると眠くなるので仕事に支障が出るのは嫌です」
「そりゃまぁそうだな。ご立派なこった」
その後もお節介な店長は律花に色々なことを聞いた。それは休憩時間が終わるまで続いた。
持ち場に戻り仕事を再開する。全ては終わらせられなくても出来る所まで減らしたい。黙々と作業を続け、どれくらい経ったのだろうか。店長が声をかけてくる。
「律花。いい加減やめて帰ってくれ。俺が捕まる」
「もうそんな時間でしたか…。すいません、少し残りました」
「いやいや、十分だよ。ありがとな。お疲れさん」
時刻は22時を過ぎていた。法律上、年齢的にこれ以上は出来ない。仕事を残すのは心苦しいが素直に切り上げて上がった。
「送ろうか?」
「いや平気です。そんなに遠くないですし」
深夜に差し掛かるからか店長は送迎してくれると言うが申し訳ないので断った。
この選択が凶を引き当てることになるとは……。
街頭のない高架下。普段から通っている道。そこに得体の知れない化け物がいた。それに対抗する人達の姿もある。
『逃げなきゃ』
頭で分かってても体が動かない。ただその化け物を見つめるだけ。化け物の一体と目が合う。
……───いつの間にかその化け物が目の前にいた。
「……っ……」
声すら出せない。一巻の終わりだと思わず目を閉じる。
刹那。
パァンッ!!と破裂音と共に塵となって砕け散った。
『……は?』
俺だけではなく対抗していた人達までその場に立ち尽くす。辺りを見渡すと化け物は全て消え去っていた。
状況が全く理解出来ないがとにかくこの場からさらねばならないことだけは分かる。家の方向へと駆け出した。
同時に顔面の真横を銃弾が通り去り恐怖に慄いて思わず足を止めてしまう。
「賢明な判断だね。逃げようと思うなよ、その瞬間撃つ。次は外さないから」
「……ちょっと。お前、やりすぎだぞ」
「えー?めんどくさいじゃん男だし」
「……どやされても知らんぞ、勝手にしろ」
連れの女が男を止めに入ろうとするが聞き入れる様子はなく他の仲間を連れて去っていく。
「私らは先に行くからな。あとは任せるが……加減してやれよ」
「はーいっ!」
笑顔で手をヒラヒラと振り仲間を見送る。姿が見えなくなるまで振っていたのでその隙に逃げようとも考えたが銃口が未だこちらに向いているのに気付いた。大人しくする他ない。
「……で?あんまり煩わせんなよ?マジでめんどくさいから。単刀直入に聞くけど今のあんたの仕業だよね?何をしたの?」
彼はこちらに来て銃口を額、ゼロ距離に付ける。
その姿がはっきり律花の目に捉えると思わず固まってしまう。
……───綺麗な青年だった。
男でも目を奪われてしまう程、綺麗に整った顔立ち。月光を浴びて輝いてみえる銀色の髪。男にしては長めだが見事に似合っていた。ワックスで整えられて程よく跳ねている。透き通った黄緑色の瞳が見たものを捉えて離さない。
黒地に青い花柄のワイシャツを胸が見える程あけ腕まくり。ネクタイ無しに白いベスト。片側のポケットには金のチェーンが取り付けられて派手なベルトに白いズボン姿だった。綺麗な顔立ちだからこそ似合う服装である。ほのかに香水の香りがした。…随分派手な奴だな…。
「話聞いてる?さっさと答えないと撃つよ?」
「……あ、いや。知らない……。本当に自分でも何が起きたのか理解できてなくて……」
「ふぅん……。あんた魔力者でしょ?これだけは知らないと言わせないよ」
カチッと弾を送り込む音がした。シラを切るなら撃つと言われている気がした。
「……一応……魔力者ではある……」
「あっそ。まぁ大体予想はついてるんだけど。一緒に来てくれる?断ってもいいけど足撃って連れてくよ」
「……何だそれ。脅されたって名前も知らない奴にどこに連れて行かれるかも分からないのにはい、そうですかって易々付いて行く訳ないだろ。撃って連れていったとしても困るのはお前じゃないのか?」
「……はぁ?何あんた、めんどくさっ。……チッ……相模銀。銀でいいよ。場所だけど、オレらの本拠地に案内する。そこで化け物の説明とかあんたの身に何があったのか教えてあげるっつってんの。ここまで言えば満足?さっきからめんどくさいっつってんじゃん。早く来いよクソガキ」
銀は心底面倒くさそうにキレ気味に言うと銃を懐にしまって歩き出した。あまりにも棘のある言い方に律花もイラッとしたが教えて貰える情報はどうしても知りたかった。まだ少し不信感はあるが銀に付いて行くことにした。
誰も気付いていないが物陰にはもう一人佇む。
一部始終を全て見ていた女性の姿───。
「やっと、見つけた。私の……」
一言ポツリと呟いて姿を眩ませた。
R1.5.5 改変