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森で……

レイは南の森へ来ていた。レイの受けた依頼は、光草(ひかりぐさ)の採集だ。

光草は夜になると光を放つ。原理としては、日中に魔力を貯めて、夜に魔力を光に変える。こうする事によって、多くの生き物を集め、種を広範囲に広めようとする植物らしい。

その草には魔力が溜まっており、口にすると多少魔力が回復する。ただ、そのまま口にするととても渋く、魔力も大きく回復するわけではないので、通常は磨り潰して魔力を含んだ液体を抽出して魔力回復薬にする。当然、これも渋いのだが、そこそこ魔力が回復するため、冒険者の間では重宝されている。


レイはアラスに乱された気持ちを落ち着けて、剣を手に森の中へと進んでいく。いくら採集とはいえど、魔物と遭遇すれば、当然、戦わなければならない。逃げるという選択肢もあるが、誤って森の奥へ行けば生存率が一気に落ちる。

それに、ギルドの受付の女性の話では、東の森の方へ逃げるのも今は危ういらしい。よって、基本方針としては、倒せそうなら戦ってやばくなったら街か西の平原へ逃げる。

辺りを警戒しながら、あちこちに生えている光草を採集していく。採集用の袋が半分ほどまで入った時、背後からがさがさと音が聞こえてきた。


現れたのはスローベアと呼ばれる魔物だった。

スローベアは子供くらいの体長で、動きが緩慢だが、その腕力は異常なほど発達していて、1度でも殴られればひとたまりもないだろう。

とはいえ、レイはすでに何度も倒した事のある魔物だ。余程下手をうたなければ、やられることはないだろう。


レイは採集用の袋を木にくくりつけ、スローベアの背後へと回る。剣を構え駆け出す。一気に近づき、スローベアが動く前に背後から首を切り落とした。

いくら腕力が強くても、自分よりも速く動くものには勝てない。だから、スローベアはいつも木の上にいて獲物が真下に来たとき、木から落ちる事によって、自分たちの弱点をカバーしている。

今、レイが倒したスローベアはいい狩り場を探している最中だったのだろう。可哀想かもしれないがタイミングが違えば自分が死に瀕していたかもしれないのだ。甘いことは言っていられない。


辺りを警戒しながら、ナイフを取りだし、スローベアの皮を剥ぎ、肉を捌いていく。スローベアの筋肉は固く筋張っているが、中の脂肪柔らかく、甘味もある。売れば少しは生活の足しになるし、持っていけない分は自分で食べればいい。皮は質が悪く、二束三文にもならない。

レイはある程度の肉をもって、その場を離れた。森には多くの魔物がいるため、残骸は数日もしないうちに無くなってしまう。う。


弱肉強食。残酷に感じるがこれは自然の摂理で、世界の真理だ。


薬草用の袋を回収し、採集を再開して数時間、レイは魔物と一対多にならないよう、上手く隠れながらやり過ごしていた。もちろん、戦いになる場面もあったが、ほとんどが相手が気づく前に倒していた。

この時、レイは少しだけ調子にのっていた。実際は運が良かっただけに過ぎないが、自分が冒険者に向いているのではと思い始めていたのだ。だからこそ、気づかぬうちに森の奥へと進んでしまっていた。


袋が一杯になり、ギルドへ戻ろうとした時、それは聞こえてきた。


「ぎゃあ゛あ゛ぁ……」


間違えなく人の悲鳴、もしくは、断末魔だ。レイは邪魔になる袋を木々の隙間に隠し、声の聴こえた方へ駆け出した。

すぐに血の臭いが漂ってきた。それに気づいたレイは木陰に身を隠し、遅まきながら、自分が何をしているのかを理解した。そして、徐々に血の気が引いていく。


(なんでわざわざ危険がある場所へ近づいているんだ!僕なんかが来たって、役に立つどころか足を引っ張るだけだ!しかも、ここは東の森の近く。やばい魔物が出没する可能性だってあるじゃないか)


心の中で自らの行いを省みて、立ち止まった。そのわずかな時間が、レイを生死を分けた。あと一歩、前に出ていたら、確実にソレ(・・)と相対てしていた。


ソレは人よりも太い棍棒を片手で持ち、反対の手には二人の人間を抱えていた。いや、人間だったものと呼ぶべきだろう。一体はあるべき頭が無く、血が流れ出していた。もう一体は潰れた頭が辛うじてぶら下がっている。

レイは必死に吐き気を堪え、ソレに気づかれないように息を殺していた。

薄気味悪い静寂の中、ソレは確実に進んでいく。

レイの額にはいくつもの汗の玉ができていく。心の中で早く行ってくれと願い続ける。


ふいに、ソレの動きが止まった。

対称的にレイの鼓動はどんどん速くなっていく。

ソレが振り返り、辺りを見回す。

レイはソレに気づかれないように身を小さくして、絶対に音が立たないように一切動くのをやめる。


ほんの数秒が、数時間にも感じられた。

そして、ソレは再び歩き出す。

レイは思わず安堵のため息吐き出しそうになり、慌てて止める。そして、気を抜かずにソレを注視する。

刹那、ソレがこちらに振り返り、おぞましい笑みをみせる。

レイは頭が真っ白になり、逃げ出す事もできなくなっていた。


だが、ソレはレイの元へ来ることはなく、そのまま森の奥へと姿を消していった。

何が起こったのか理解できず、レイはその場で呆然としていた。 そして、自分がまだ生きていることに安堵し、遅れてやって来た体の震えを抑えるように、自分の体を抱き締めていた。

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