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邂逅

 鍛冶屋を出てから、ギルドへ戻る途中、商業区内の露店でお昼を買っていくことにした。

 露店には様々なものが並んでおり、野菜、果物、お肉といった食べ物から、壺、絵画、像等といった工芸品まで幅広く売られている。

 僕はお肉や野菜を串焼きにして売っているところへ並んでいる。このお店は売っているものの種類が豊富で、自分の好きなものが食べられるのがうれしい。タレかけて焼くため、あまじょっぱさを含む香ばしさがあたりに漂い、とてもおなかがすいてくる。

 今か今かと待ちわびて、前の人が順番に購入していき、あと一人となった時だった。


「きゃー、泥棒ー!!誰か捕まえてー!」


 通りの向こうから、そんな叫び声が聞こえてきた。そちらの方へ振り替えると、多くの人が行きかう中をかなりの速度で駆ける影がこちらの方へ向かってくる。

 泥棒はフード付きのローブを被っており、顔が見えなかったが、背格好から僕より少し年下くらいに思えた。


 僕は咄嗟に泥棒の進路上に飛び出して、足に魔力を込めた。

 泥棒が目前へと迫った瞬間、僕は地面を蹴って泥棒へと飛びついた。

 しかし、直前で泥棒は跳躍し、僕の肩を足場にして頭上を飛び越えていく。


「ぐっ、このっ!」


 前のめりになったところを上から押され、地面に倒れそうになるのを必死にこらえ、離れていく泥棒の後ろを追っていく。


(は、早い)


 泥棒の前には大勢の道行く人がいるにもかかわらず、泥棒はかなりの速さで逃げていく。

 同じ道を駆けていくが、人にぶつからないようにしているため、なかなか追いつくことができない。

 このままでは逃げられると思ったとき、誰かが僕と同じように泥棒の前に立ちはだかった。


 それは一瞬の出来事だった。

 泥棒が立ちはだかった人の横を抜けようとした瞬間、その人は泥棒の服を掴み、足をひっかけて、地面に投げつけたのだ。あまりにも鮮やかな動きに、僕は見惚れてしまった。

 地面にたたきつけられた泥棒は衝撃で意識を失い、手に抱えていたカバンを地面に放り出していた。

 フードも外れ、あらわにした顔はまだ幼さを残した少女だった。よく見ると衣服はぼろぼろで、手足は細く、全身汚れている。おそらく西区の裏通りに住んでいる浮浪児だろう。

 僕があっけにとらわれていると、泥棒を投げた人物は盗まれたものを拾い上げて僕の方へと歩み寄ってきた。


 その人の顔を見た瞬間、時が止まったように感じた。


 エアリス.フィレイア。レセリア魔法騎士学園のナンバー1。剣と魔法のどちらも最優秀の成績を持ち、学園で並ぶもの無しと言われている。いずれはSランク間違いなしと言われ、もしかしたら、その先へも到達できあるかもしれない人物。

 そんな人がなぜこんなところにいるのか。

 今はまだ学園で講義が続いている時間のはずだ。

 困惑の中立ち尽くしていると、彼女も僕のことに気が付いたようだ。

 僕の顔を見た瞬間、その場で立ち止まってしまった。

 二人して固まっていると、後ろから騎士姿の三人が僕たちに声をかけてきた。


「なんの騒ぎだ?」


 巡回の人なのだろう。いつの間にかできた人だかりに様子を見に来たのかもしれない。

 僕は事情を説明するべく、騎士の方へ歩み寄る。


「そこで倒れている女の子が、盗みを働いたの僕が追いかけました。ただ、女の子を捕らえたのは、あちらにいる方です」


 隊長と思われる騎士が二人に指示を出し、てきぱきと倒れている女の子を拘束していく。


「その制服はレセリア魔法騎士学園のものだな。その歳で大したものだ。卒業後はぜひ騎士団への入団を。では、私はこれで失礼する。協力、感謝する」

「はい、ご苦労様です」


 騎士はにこりと笑って、あっという間に中央区にある詰所の方へと行ってしまった。

 騎士が行ってしまうと、見物人たちも散っていき、僕とフィレイアさんだけとなった。


 正直、なんて声をかけたらいいのかわからない。フィレイアさんと最後に顔を合わせたのはあの試験が最後だし、そもそも、その前から親しい仲というわけでもない。それどころか、あんな引導を渡すような役割をさせてしまって、申し訳なさが先立ってしまう。

どうしようかと考えていると、杖をついたお婆さんと付き添いの女性がこちらに歩み寄ってきた。


「そ、それ泥棒から取り返してくださったんですか?」


付き添いの女性がフィレイアさんの手にある鞄を指差した。

フィレイアさんははいと応えて、お婆さんへ鞄を差し出す。


「おぉ~~、ありがと~~ねぇ~~。これぁ~~、孫からもらったた~~いせつなもんなんだ」


のんびりしたお礼をもらい、フィレイアさんは笑顔でこたえる。


「いえ、私はそこにいる彼が追いかけていて、たまたまこちらに泥棒を来た運良く止められただけです。お礼なら彼に言ってあげて下さい。彼、本当に必死に追いかけてましたから」


その言葉に二人の女性の目が僕の方へ向けられた。思いがけず目があってしまい、僕は何か言うべきかとあたふたしてしまう。


「あ、えっと、その」

「ありがとうございました」


付き添いの女性が僕に向かって頭を下げる。

突然のことに固まってしまった僕をよそに、付き添いの女性は頭を上げて僕の目を見てきた。


「遠目からですが、貴方が捕まえようとしてくれたところも見ました。他の誰も知らないフリをしている中、貴方だけが私の声を聞いて動いてくれました。本当にありがとうございました」


そう言って、女性はもう一度頭を下げた。串焼き屋で聞いた声は彼女のものだったのだろう。僕はただ衝動的に動いただけで、実際に止めることもできなかった。

それに、捕まえようとしているところが見えたということは、泥棒に逃げられたところも見られていわけで、それに気がつくと今度は恥ずかしさが込み上げてきた。


「い、いえ、僕は何も……できませんでした。あちらの方がいなかったら、逃げられていたと思います。僕は……」

「それでも。それでも、ありがとうございました」


 女性は真っ直ぐ僕を見て感謝を告げてくれた。何も言えない僕を見て、ほほ笑んだ後、お婆さんと一緒に帰っていった。

 その後ろ姿を見て、自分が如何に無力なんだろうと感じる。

 ギルド長にあれだけ鍛えてもらっても、自分より年下の女の子一人捕らえられない。こんなことで、本当にアラスと決闘ができるのだろうか。ただ一方的になぶられて終わるだけなのではないだろうか。


 押し寄せる不安を堪えるように、握りこぶしに力を入れていると、その手に触れる温もりを感じた。


「フィ、フィレイア……さん?」


 彼女は両手で僕の手を包み込む。そして、真っ直ぐに僕の目を見た。


「レイく……レイ.グレイブさん。少しだけお時間をいただけないでしょうか?」


 真剣な彼女の眼差しに、僕はうなずく以外の返事ができなかった。

お読みいただきありがとうございました。

誤字脱字がありましたら、教えていただけると幸いです。

どうぞよろしくお願い致します。

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