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心を満たす

今、僕は気の進まない思いで、孤児院の前まで来ていた。

ギルド長との訓練後、少しでも鍛錬をしようと思っていたのだが、ギルド長に止められてしまい、孤児院でご飯を食べろとの命令である。

もちろん、僕のことを気遣ってくれていることはわかっているのだが、四日後にはアラスとの決闘があり、訓練できるのは残り三日だ。勝つことができないのはわかっているが、あがけるだけあがきたい。

そんなことを考えていると、ギルド長が僕の顔を見て、ため息を吐き出した。


「あんたはわかりやすいね。もっと鍛錬したいって、顔に出てるよ。やる気は買うけど、焦りはいらないね。空回るだけで、得することなんてありゃしないよ」


言い当てられたバツの悪さに、僕は顔をそらしてしまった。

それを見て、ギルド長は再度ため息を漏らす。


「まぁ、いいよ。とにかく入んな」

「……はい」


ギルド長に促され、僕は孤児院の入り口をくぐる。

中はスープの匂いが漂っていた。

ギルド長の後に続き、以前と同じくみんなで食事をする部屋まで足を運ぶと、すでにみんなは食事をしていた。みんなが一斉にこちらを向く。


「わっ、レイお兄ちゃんだ!」


みんなが僕に声をかけてくれ、それに応える中、一人だけ俯いている子がいた。

僕はその子のそばへと行き、挨拶をする。


「メル、こんばんは」


 メルは俯いたまま、僕の方を見ようとしなかった。僕が彼女に話しかけると、みんな何も言わずこちらを見ている。

 どうしたらいいかわからずにいると、横からクルルが袖を引っ張ってきた。


「メルはレイさんが自分のせいであの怖い人と戦うことになったと思ってるんです。でも……、その……、本当は私が周りをちゃんと見てなかったせいで……、ごめんなさい」


 クルルは僕の袖をつかんだまま、目に涙を溜めて、僕に謝罪してきた。

 そういえば、アラスとの一件があってから二人に会うの初めてだった。

 僕は二人が怖い目にあわされて、頭に血が上っていたかもしれない。本来なら、二人が無事だったことを一番に確かめるべきだった。僕はいつの間にか、自身の怒りを優先してしまっていたんだ。

 自分のことばかり考えている自分にふつふつとした感情が沸き上がるが、反省はあとでいくらでもできる。そう思いなおして、僕はクルルの頭を軽くなでた。

 クルルは涙がこぼれないように必死にこらえながら、僕の方を見ていた。よく見ると、頬にアラスにつけられた傷がうっすらと残っている。その傷に触れると、クルルはぴくりと震えた。


「僕の方こそ、もっと早くに来て上げられなくてごめんね。僕がアラスと決闘することになったのは、二人のせいじゃないよ。僕が彼を許せないからなんだ。だから、二人が謝る必要なんてない」


 そう言って、僕は二人の頭をなでた。

 クルルは我慢していた涙溢れさせ、それを隠すように僕の体に顔を押し当ててくる。メルも真似するように僕にしがみついて来た。

 僕は二人が泣き止むまで二人の背中を優しく叩き続け、その間、もらい泣きした子供をギルド長があやし、他の子たちは静かにご飯を食べていく。


 その日は結局、みんながご飯を食べ終わったころ、メルとクルルは泣き疲れたのか、二人とも眠ってしまった。二人を寝室のベッドに寝かせた後、僕はギルド長と夕飯を食べながら、二人が僕に迷惑をかけたことを気に病んでいたことを聞かされる。


「クルルは自分がお姉さんだから、周りに迷惑をかけちゃいけないと、気を張っていたし、メルは怖かったショックからか、いつにもまして話をしなくなっちまってたからねぇ。あんたはあんたで、自分のことでいっぱいいっぱいになっていたから、教えるのも気が引けたよ。でも、この三日であんたは頑張りすぎていたからねぇ。少し落ち着かせたかったのさ」


 自分のことしか考えられていなかった自覚のある僕は何も言うことができなかった。

 しばらく無言で食事をし、皿からスープがなくなるころ、小さな声でギルド長がつぶやいた。 


「……あんたはすごいよ」


 意味が分からず、僕はギルド長を見て首をかしげる。

 そんな僕の様子を見て、ギルド長は声を出さず笑った。


「私はあんたほど努力するやつを知らない。もちろん、世の中は広い。もしかしたら、あんたより幼い子があんたよりも努力を重ねているかもしれない。けれど、私が今まで会ってきたやつの中では圧倒的にあんたは努力し続けているよ」


 何を言われているかすぐに理解できず、僕は無言のままギルド長の話を聞き続けた。


「レイ。確かにあんたは体格や魔法の才能には恵まれなかったかもしれない。

けれどね、あんたはその才能のない中で、努力だけで、自身の力だけで生き残ってきたんだ。それだけは誇るべきだよ。誰に何を言われようと、あんたはすごいやつなんだ。それを忘れないでおくれ」


 不意に言われた言葉に、思わず涙がこぼれそうになった。

 でも、ここで泣いちゃいけない。ここで甘えたら、二度と立てなくなる気がする。

 僕は必死に泣くなと言い聞かせ、ありがとうございますとそれだけをギルド長に返す。


「柄にでもないことを言っちまったね。それ食べ終わったら、軽くすすいであの桶の中に入れといておくれ。私はちょっと仕事が残ってるから、自室に行くよ。見送りできなくて悪いね」

「……いえ、ありがとうございます」

「それじゃ、お休み」

「お休みなさい」


 自室へと戻るギルド長の背中を見送り、僕はため込んでいた息を吐き出した。

 そして、お皿を片付けた後、孤児院を出てギルドへと戻る。その道中、いつもより少しだけ肩の力が抜けた気がした。

 

お読みいただきありがとうございます。

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