桜の王子様 9
俺を見下ろしたまま、
女性は話し始める。
「あたし、アンタみたいな男・・・嫌いなんだよね」
・・・嫌い?
「顔がいいだけのアンタに騙される女子たちも理解できないけど、
ヤりまくってるくせに嘘つくアンタが一番たち悪い」
「・・・嘘じゃ、ないよ」
「っ、笑うな、キモい!」
女性の甲高い声が聞こえたのと同時に、
俺の身体は地面に倒れた。
・・・怖い。痛い。
でもきっと、この人は勘違いをしているだけなんだ。
本当はもっと優しい人のはずだ。
俺に暴力なんて、
振るいたくて振るっているわけじゃないんだ。
「はは・・・君は優しい人なんだね」
「は?」
俺が笑顔を崩さないことに苛立ったのか、
彼女は右足を俺の股間の上に乗せる。
「――使い物になんなくしてやる」
心臓が、凍る。
彼女は本気だ。
本気で俺の股間を踏み潰す気だ。
「あ・・・」
・・・嫌だ。
そんなことされたら、俺・・・
「・・・や、やめ」
「離れろ!バカ女」
怒声が辺りに響く。
女性は反射的に俺から離れた。
逆光で見えないけど、
誰かが俺たちに近づいてくる。
「あ、あんた誰!?」
「うるせぇ、喋んな」
・・・この声、桑野くん?
「今日のところは勘弁してやっから、二度とこいつに近づくな。じゃないと」
「あ・・・っ」
桑野くんが携帯電話の画面を見せると、
女性の顔色が変わる。
「お前がこいつに手ぇ出してる画像、お前の学校のやつらに見せるぞ」
桑野くんの脅しが効いたのか、
彼女はこの場から走り去ってしまった。
「お前みたいな男、死んでしまえばいいのに!」
俺に、そう吐き捨てて。
彼女の足音が聞こえなくなったのを確認すると、
桑野くんは俺の身体を抱き起こしてくれた。
「大丈夫か?」
「うん・・・ありがとう」
俺の身体が震えていることに気がついて、
桑野くんは俺を壁にもたれかからせる。
そしてすぐに俺から離れた。
違う・・・のに。
桑野くんが怖くて震えているんじゃないのに。
俺はこうやって、
みんなに誤解されていくんだ。
「まさかバイトで遅れた日にj限ってこんなことになるなんてな。
もっと早く来ればよかった」
「・・・・・・はは」
もう、笑うしかない。
俺は何もしていないのに。
「・・・死んでしまえばいい、だって」
「あ?」
桑野くんが俺を睨む。
こんなときまで笑っている俺を、おかしいと思っているんだろう。
でも、笑わなければ、
俺は・・・嫌な人間になってしまうから。