桜の王子様 3
次の日。
俺は好奇の目線を感じながら、1年生の教室の前にいた。
「ちょっといいかな?」
「さ、桜庭先輩!?ほ、本物・・・?」
「・・・あの、桑野紅さん、呼んでくれるかな」
声をかけた女子生徒は、興奮しながら教室へ戻って行く。
周りの女子生徒も、俺が微笑むだけで黄色い声援を上げた。
・・・うん、可愛いね。
しばらく待っていると、紅ちゃんが現れる。
俺の姿を見ただけで、顔が赤くなった。
「ちょっと、いいかな?」
「・・・は、はい」
俺は紅ちゃんを連れて階段の踊り場へ行く。
誰もいない場所を選ぶ必要があった。
なぜなら、お金の話だから。
「昨日はうちの花屋に買いに来てくれて、ありがとう」
「い、いえ」
「でもね、これは返すよ」
「え・・・」
紅ちゃんの手を取り、お金が入った封筒を握らせる。
昨日の、花束の代金だ。
「君が俺にプレゼントしようとしてくれたことは、すごく嬉しい。
でも・・・気持ちだけで十分だから」
「・・・・・・」
「このお金、俺なんかよりも自分のために使ったほうがいいんじゃないかな」
「・・・はい」
落ち込んだ声で、紅ちゃんは頷く。
まいったな。
そんな顔、見たくないのに。
「そんなに落ち込まないで。ね、笑って」
「・・・でも」
「笑ったらもっと可愛くなるよ。紅ちゃん」
「え・・・?」
名前を呼ぶと、紅ちゃんがハッと顔を上げる。
だから俺も精一杯の微笑を返した。
そう、やっぱり
女性は笑顔が一番だ。
悲しい顔も、怖い顔も似合わない。
そんな顔、俺は
見たくない。
「那智くーん、閉めるから中に入れてくれる?」
「はい」
美華さんに言われ、外に出していた花たちを中に入れる。
そろそろ店じまいの時間だ。
・・・あれ、
誰かが近づいてくる。
お客さんかな。
「いらしゃいま――え?」
顔を上げた瞬間、
太くて固い何かが、
俺の頬を全力で殴った。
状況も飲み込めないまま、
俺の身体は吹っ飛ばされる。
痛い。
いや、それより、
――花が潰れる!
「う・・・」
目を開けると、
知らない男性が俺の胸倉を掴んでいた。
「・・・っ」
明らかに俺に対して怒っている。
苦しい。
・・・怖い!
「この野郎・・・ぶっ殺してやる!」
突然怒鳴られて、身体がビクンと震えた。
「・・・あ、ぁ」
聞きたいことはたくさんある。
でも怖くて、声が震えて・・・言葉にならない。
男性は、
粗野で乱暴で・・・愚かな生き物だ。