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桜の王子様 15

何か言わなきゃいけない。

何かしなきゃいけない。


そう思っているのに、

全然頭に思い浮かばない。



「・・・1回だからじゃねぇの?」



桑野くんがボソッと呟いて、

天井の方を向いてしまう。


「・・・え?」


「だから、風邪うつんなかったの、1回しかしてねぇからだろ」



気がつくと、

桑野くんの顔は真っ赤で、耳まで赤かった。


きっと、熱だけが理由じゃない。


俺と同じ理由だ。



「じゃあ・・・」



桑野くんのそばへ移動する。


寝ている桑野くんの上に、俺の影が落ちた。



「何度もすれば・・・うつる、かな」


「・・・・・・」


「桑野くんの熱、さがるかな」



徐々にゆっくりと、

桑野くんに近づいていく。


顔を、近づけていく。



これ以上近づくと、伝わってしまう。

激しく高鳴っている心臓の音が。


でも、しなきゃ。



・・・キス、しなきゃ。




「真に受けるな、バカ」



桑野くんはそう言うと、

そっぽを向いてしまった。


あれ、しないのかな?



「そう何度も男とキスしてたまるか」

「・・・ぁ」



そっか、そうだよね。

普通キスって異性とするものだもんね。


なぜだろう。

ちょっと、ショックだな。



「やっぱり、女の子とする方がいいよね」

「そうだろうな。まぁ、したことねぇけど」



・・・え?


桑野くんの発言に耳を疑う。


女の子としたことがないってことは、

もしかして桑野くんも・・・



「桑野くんも、昨日のキスがはじめてだったの?」



俺が訊ねると、

桑野くんが素早く俺の方を向く。



「も、って・・・お前もか?」


頷くと、桑野くんが大きなため息をついた。



「お前の噂って、本当に嘘しかねぇんだな」



きっと、学校中の誰もが俺のことを誤解している。

もちろん、桑野くんも。


顔がいいと言ってもらえるのは嬉しいけど、

顔がいいイコール女遊びが激しい、なんて思われるのは困る。


だって実際は、逆なんだから。



「おい」

「なに?」

「子守唄代わりに、話せ」



子守唄?


「俺は聞きながら寝るから、その間にお前のこと話せ」

「俺のこと?」

「・・・なんでもいいから、言えって」



とんでもない無茶振りだ。


そう思いかけて、ふと別の考えを思いつく。



もしかして桑野くんは、

俺のことを知りたいって言ってくれているのかもしれない。


俺の、嘘偽りのない情報を。



「バイトの話、とかでも・・・いいかな?」

「好きにしろ」



桑野くんは、仰向けになって目を閉じる。



「あ、あのね、俺、あそこでのバイトは長いんだけど――」



眠ろうとしている桑野くん相手に、

俺はおずおずと話し始める。



気がつくと、

激しい胸の鼓動は収まっていた。

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