桜の王子様 12
・・・あれ?
次の日、パーカーを返そうと桑野くんの教室に来たけど、
桑野くんはいなかった。
近くにいた女子生徒に話しかけると、
キラキラした目で俺を見返してくれた。
「桑野くん、どこにいるか知ってるかな?」
「桑野?今日いないんじゃないかな」
「っていうか、桑野なんて来てる方が珍しいよ」
「そうそう。あいつサボリの常習犯だもん」
そういえば、
前にもそんな話を聞いたことがある気がする。
「でも最近は結構来てたよね」
「嘘、なんで?」
「さあ。行く場所なくなったんじゃない?それに」
「あ、ありがとう」
彼女たちの話が長くなりそうだったので、
さりげなくその場を離れることにした。
でも、その話を受けてふと考える。
桑野くんは、最近は学校に来るようになっていた。
まさか、俺を守るため?
・・・なんて、
さすがにそれは自惚れすぎかな。
俺は方向転換をして、
紅ちゃんの教室へ行くことにした。
「今日は来ていません」
紅ちゃんからの言葉は、予想通りだった。
やっぱり今日は休んでいるみたいだ。
「そっか。ありがとう。じゃあ明日にするよ」
「あ、あの・・・明日も休む、と、思います」
紅ちゃんは、可愛い声で言う。
「そうなんだ。いつ来るとか、紅ちゃんわかるかな?」
「お、おそらく熱が下がればくるんじゃないかと」
・・・熱?
「き、昨日の夜から、風邪を引いていて、それで今日は休み、なんです」
「・・・そう」
きっと、昨日のことが原因だ。
俺にこのパーカーを貸してくれて、自分は半袖のまま帰ったから。
・・・俺が、泣いたから。
「じゃあ、お兄さんにお大事にって伝えてくれるかな」
笑顔で言うと、紅ちゃんが頷く。
・・・心が、苦しくなる。
やっぱり俺は、
笑っていなくちゃいけないんだ。
笑ってさえいれば、
みんなが幸せになるから。
掃除をしていると、
突然美華さんが俺の額に手を当てた。
「み、美華さん!?」
「体調悪い?那智くん。元気ないけど」
美華さんが心配そうに俺の顔を覗き込む。
まいったな。
無自覚だったけど、
閉店の時間が近づくにつれてテンションが下がっていたみたいだ。
桑野くんが俺のせいで来ないこと、知っているから。
「すみません。なんでもないんです」
「なんでもないって顔じゃないけど」
「・・・っ」
美華さんの両手が、俺の頬を包む。
「・・・・・・」
そのままじっと見つめられて、
言葉が・・・でない。
美華さんが、
美華さんの顔が、近い。
「やっぱり赤い。熱あるんじゃない?」
「・・・・・・」
「那智くん?」
もう、だめだ。
一生懸命隠していたのに、
気づかれないようにしていたのに、
――思いが、溢れる。
「・・・美華さん」
「ん?・・・・・・あら」
美華さんが店の外を見る。
つられて俺も見ると、
桑野くんが、立っていた。