桜の王子様 1
一度だけ、天使に会ったことがある。
ボロボロになっていた俺に、
そっと手を差し伸べてくれた。
可愛らしい天使に。
昼休みのチャイムが鳴ると、
数人の女子生徒が俺のところへやってきた。
「桜庭くん、今日のお昼の相手、決まってる?」
「まだ決まっていないよ」
「じゃああたしたちと食べようよ、ね」
「そうだね」
俺が了承すると、
女子生徒たちが嬉々としてはしゃぐ。
でも、
男子生徒は納得がいかないようだった。
「いいよな、イケメンは。女に不自由しねーもんな」
「はぁ?何いきなり。キモいんだけど」
「だってそうだろ?桜庭、いろんな女に手出してるって噂だぜ」
「誰にも手を出せないあんたよりいいでしょうが」
「そーだそーだ。それに、桜庭くんはみんなの桜庭くんなんだから」
・・・ちょっと、困ったな。
この二人は口喧嘩が絶えない。
俺をめぐって何かと言い争いをする。
でも俺から見ると、
喧嘩するほど仲がいいんじゃないのかな、とも思う。
このままだと、昼休みがなくなってしまわないかな。
「さ、桜庭さん」
呼ばれて振り返ると、
教室の入り口に小さくて可愛らしい女子生徒がいた。
1年生だろうか。
「なにかな?」
「ほら、紅、頑張って!」
友達らしき優しい女子生徒に促され、
紅と呼ばれた子は赤い顔で話し始める。
「あ、あの、お昼って・・・」
「クラスメイトと食べる約束をしているけど・・・どうかした?」
「あ・・・」
その子のテンションが、一瞬にして下がる。
きっと、俺を誘おうとしてくれたんだろう。
「し、失礼します!」
俺が次の言葉を言うより先に、
ダッシュでこの場から消えてしまった。
明日なら大丈夫だよ、と言おうと思ったのに。
「やっぱり王子様人気はすごいよねぇ」
「この高校の全員が王子様のこと、好きなんじゃない?」
付き添いの友達が、俺のことを話しながら去っていく。
・・・王子様、だって。
いつも笑顔を絶やさないようにして、
女性には優しく振舞っていただけで、
付いたあだ名が「王子様」。
でも、仕方がないと思わない?
あそこでまだ口げんかしているクラスメイトも、
明るくてハキハキしていて可愛いし、
今立ち去った「紅」っていう女の子も、
内気なところが可愛い。
付き添いの女の子だって、
友達を気遣って一緒に来るなんて、心が綺麗な証拠。
女性はみんな、
可憐で美しい生き物なんだ。