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ヒルコの刺股

作者: 風連
掲載日:2016/01/29

とんでもない物を見てしまった。

で、物語は始まる。

その上、本物は退屈だ。

あの怪談話とかは、話し手のテクニックが、物を言うのが良くわかる。

今時の携帯は律儀だ。

淡々と災害や事故なんかを伝えてくる。

あまり変化のない地方都市に住んでいると、都会は目まぐるしく事件も多い。

一方通行やら、慣れない道やらで、携帯のナビを片手に、駐車場を探していた。

最近は、ちょっとした場所に10台以下の駐車場があったりする。

用事のある場所の近くを探すと、3台って言う、極小のを見つけた。

それもガラ空きで、車を寄せる。

愛車の軽は、小回りがきいていて、寄せやすいのもありがたい。

到着しました、の声に、思わず返答したら、我が携帯が、《まあね。》と答えた。

タメ口が、衝撃。

たかだか、信号を右にも、敬語なナビだったからだ。

首をかしげながらも、仕事の打ち合わせの時間が迫っていたので、携帯は切った。

ホテルの部屋に飾る装飾品を扱っている。

最近は禁煙室も増えたので、香りを求めてくる宿泊客用に、アロマを求められる。

シャンプーやらボディソープやらの匂いを統一した、アロマの部屋が、人気だ。

それ用の装飾品もおのずと増える。

電気ポッドでアロマの香りを、部屋に立ち昇らせる物も、天使やら小型の動物やら種類を揃えて、今回運んできた。

ヨーロッパの街並みやごつい編上げ靴の形も人気だ。

意外と、男性客受けがよいのだ。

出張で、疲れてホテルに帰り着き、アロマに癒されたいらしい。

一個二個はたいしたこともないが、見本品30個は、かなり重い。

どうにかロビーにたどり着いた。

商談はまとまっていたから、品物を見てすぐに、全部屋に取り付ける契約がまとまった。

これは、嬉しい。

たとえ、釣り上げた魚でも、タモに入ってなんぼだってのが、社長の口癖。

土壇場での破棄なんてのは、ダメージが凄いぞ〜っと、脅かされていた。

時間が余ったが、駐車場に向かう。

愛車があると、ホッとする。

メールで、報告。

さてさて、今日の仕事はここまで。

直帰できるから、ありがたい。

都会の三車線やら、矢印信号をかいくぐり、峠の田舎道に出た。

ナビは切って、好きな曲を流す事にした。

まあ舗装してあるのに田舎道ってのは、整備してる方からしたら心外かな。

トラクターが付けた畑の泥が、普段は農道なんだよと、教えてくれる。

今年は雪が多く、除雪剤がまかれて畑一面、黒々していたが、ようやく下の土が出てきたのだ。

実家は温泉熱を使って、切り花や鉢植えを出荷していて、その関係で今の会社の社長にあったのだった。

日本中にある、我が地域のご当地富士の雪もかなり少なくなっている。

突然、音楽が、途切れた。

《止まれ、今、直ぐだ。》って、携帯ナビ。

ビックリして車を停車させて路肩に寄ると、斜め向いの電信柱の上が、スパークした。

《ちくしょう。》って、何。

目がチカチカして、光の残像が焦げ茶の陰を作って、視界を曖昧にしていた。

タメ口どころか、暴言を吐く携帯に心臓が、ドキドキして、動けない。

馬鹿みたいだが、携帯にお伺いを立てる。

立場が逆転してる。

「あの〜、何があったのかな、畜生って、かなり、汚い言葉だよね。」

《見えないよ、お前には。》

酷い、返答だ。

それをうら若き女性の声が言うから、酷さが際立つし、音声ガイドを、ひと昔前のヤンキーに乗っ取られた気分だ。

携帯に文句を言ってやろうとした時だった。

目の端に、ピンピンと飛び跳ねるものが、横切った。

一瞬、そいつと目が会う。

相手も、ビックリしたのか、こちらを見ている。

どう見ても、幼稚園児の時、読んだ絵本の虫歯菌に、そっくりだ。

ご丁寧に、槍も持っていて、尻尾がある。

慌てて、エンジンをかけ、道に飛び出した。

《やめろ、停めろ、動かすな。》

携帯の暴言が酷い。

その途端、車は90度ひん曲がり、進行方向を勝手に変え、あのヘンテコな生き物のいた場所に、突っ込んで行った。

道から外れて、路肩の下に落ちたところで、タイヤがバーストして、車が止まった。

止まらなければ、その先は崖だった。

ゾッとしたまま、車の中で座り込んでいると、携帯が怒鳴ってきた。

《だから、止まれって、教えてやったのに。

くそ〜、あいつの引き寄せの力の方が上なんだよ、悔しい〜〜。》

携帯が、勝手に話して悔しがってるなんて、想定外だ。

夕方の柔らかい日差しが、辺りを染め出して、北国の富士が、緋く染まり出した。

《ヒルコだよ。

彼奴ら、できそこないでこの世界から追い出されたのを何時までも恨んでやがってさ。

あの引き寄せの力の宿った刺股で、悪さしてやがんだ。》

何が何だかわからないが、とにかく携帯が怒っているのは、事実だった。

《ヒルコに負けてちゃ、自動運転車なんて、実用化出来ないって事で、開発されてるんだけど、まだまだなんだよな。

でも、見たんだろう。》

「見た。虫みたく跳ねる奴。」

今更、手が震え、冷や汗が額を伝わってきていた。

《じゃ、もうこのあんたの前には出ないな。

じゃ、こちらも引っ込むさ。》

「待ってくれ。

なんだったんだ、あれ。」

《だから、ヒルコだよ。

神話に出てくるだろう。

骨もなくグニャグニャの奇形種。

あの刺股の力で、あれだけ動けるのさ。

じゃ、楽しかったよ。

思ったより、データ、取れたしな。》

その後はいくら呼びかけても、いつもの敬語一辺倒なナビしか、返答してくれなかった。

近くの農家の人が通報してくれて、警察や救急車が来て、助け出された。

愛車は、廃車の運命だったが。

携帯を買い換えたいと、警察に話し、首をかしげられたまま、病院に向かった。

事故処理も終わり、迎えに来てくれた父親が、無事を喜んでくれていたが、携帯を買い換えなくちゃと、考えていた。

そのくせ、携帯をしっかりと握りしめていたのだった。


今は、ここまで。

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