斬殺のローマ
「ハ、刻まれるのはお前の方だ!」
エキドナが両手を広げて空を切る。
斬!
瞬間、壁のローマ風絵画が切断され、支えを失った上半分が床に落ちる。
絵画だけではない、その横のローマ風甲冑、さらに横のローマ風カーテン!
そしてそのさらに隣の別のローマ風絵画まで真っ二つになっている!
吹き飛ばされるホークを見、口元に笑みを浮かべるエキドナ。
しかし!
「何ィ!?」
ホークの体は無傷だ。
吹き飛ばされながらも日本刀を横一文字に構え、指をその刃に添えている!
「アタシの斬撃に1mmのズレも無く刃を合わせたってェのか!?」
「造作も無い! ハッ!」
ホークは日本刀を順手に握り直し、高く振り上げ、振り下ろす!
刀から斬撃が繰り出される、受けきった斬撃を吐き出したのだ!
斬!
鮮血が吹き出す! しかしその斬撃を受けたのは……
「デストロイヤー! アンタ!」
「防いだぞ、ひとつ!」
デストロイヤーだ! しかし彼に傷は無い。
彼は左手におおよそ5人ほどであろうか、外を歩いていたごろつきを握っている。
これを盾にし斬撃を防いだのだ! 非道である!
「コイツは葬儀屋だ! 殺すのは男の仕事だろ!」
「ウオォォーッ!」
デストロイヤーの右手にはぼろきれ……違う!
リムジンだ! 振りまわされた遠心力で大ぶりのナイフのように鋭い形になっている!
それをホークに向かって繰り出す!
体格差は倍以上! その上、得物の長さには5倍以上差がある!
ギャイーン!
すさまじい音がローマ風窓ガラスを震わせる!
なんという激しい打ち合い!
デストロイヤーの一発の攻撃を返すのに、ホークは三発も使っている!
……三発? そう三発である!
「ナニィィィイ~~ッ!?」
ホークはデストロイヤーの一撃の間に三発も攻撃を繰り出している!
すさまじいスピードだ! しかしそれだけではない!
三発は四発になり、十発、十六発、九十九発になる!
デストロイヤーのリムジンがあっという間にボロボロに削れていく!
「下がりな! デストロイヤー!」
エキドナだ!
ローマ風の壁をかけのぼりローマ風天井からホークに襲いかかる!
「何度やろうが受け損なう事はない!」
ホークは再び横一文字に刀を構える!
「これならどうだ?」
不敵に笑うエキドナ!
再び斬撃が繰り出される、これは……斬撃が!
(十字の斬撃!?)
そう今度の斬撃は二発同時、それも直角に重なっている!
これでは一本の刀で受けるのは不可能だ!
「なら……二本で受ける!」
ホークが刀を持つ手に力を込める、そして!
「破ッ!」
刀が真っ二つに! ――縦に真っ二つになった!
そう、最初のエキドナの一撃を受けた事で、刀に薄いヒビが縦に入っていたのだ!
そこに力を込める事でホークは刀を二本に分けた!
そして斬撃をクロスさせた刀で受ける!
「大した機転だ! だがァ!」
「グッ!?」
ホークは自分の読みの甘さを悟った!
斬撃が二発なら威力も半分、だと思ったが!
「何のために天井まで跳んだと思ってんだ! 一発は両手、そしてもう一発は!」
「足か! くそっ!」
威力は変わらず! これを割れて半分の薄さになった刀で受け切れるのか!?
「ぐおおおおッ!」
ローマ風の床にたたきつけられるホーク!
みしみしとローマ風の床にヒビが入る!
「もう一撃だ! デストロイヤーッ!」
「まかせろ!」
デストロイヤーの腕を足場に再びエキドナは宙を裂く!
(次に撃ち込まれればかわしきれない!……ならば!)
ホークは両手の力を抜く! あきらめたのか!?
いや、違う! 目に燃える悪人への怒りの劫火!
この逆境にも揺らぐことなく、むしろ輝きを増している!
ヤイバにヤイバで挑んではならぬ、ヤイバに打ち勝つのは……
こぶしだ!
「ハーッ!」
ホークの拳が斬撃を打ち砕く! 日本刀などものさし同然!
ホークの拳以上に強い物などこの世に無いのだ!
「なら、これでどうだあああアアッ!!!」
エキドナは空中で体を高速で回転させる! 斬撃が、今度は渦の形を!
「馬鹿にするな悪人がッ!」
ホークは両手で斬撃を掴む!
だが、両者にとって予想外の事態が起こった!
ドドドドドドドドドド……
なんとレッドサンタウンのすぐそばの、レッドサンマウンテンが噴火を始めたのだ!
この噴火がホークと悪人達の激しい戦いが原因であることは疑いようも無い!
そして……
バキィ!
「なっ!?」
必死に耐えいたホークの背中の下で、ローマ風の床のヒビが一気に広がる!
地割れだ! ホークは地面にぽっかりと開いた大地のアギトに押し込まれる!
「うおおおおおおっ!!!」
ホークが飲みこまれたヒビを、着地したエキドナとデストロイヤーが覗きこむ。
「クソッ! 逃しちまったぞ」
「だがこれはお前の白星だ、ひとつ!」
「残念だが追う事は出来ない、ここの奴らも逃げちまっただろう」
「ザコ共を追いかけて、殺せるだけ殺そうぜ!」
「そうしよう」
ヒビに背を向け歩きだす二人、我らがホークは死んでしまったのだろうか!?
次回!
「はっ……! ここは……?」 「どうかこの街をお救い下さい」
爆発! 「逃げるなら今のうちだぜ!」 「舐めるな!悪人め」
「棺桶は一つしかないからな」 閃光! 「お前は……!?」
「俺は葬儀屋だ」
次回『地下のダイヤモンド帝国』
「悪人は……殺せる時に殺すに限る」