プロローグ.水性のオーバーレイ
その日はとても暑かった。
歩けど歩けど、探せど探せど現れないそれに、俺たちは半ばこの機会を諦めつつあった。
俺たちを取り囲む木々たちは姿を変えることなく、これでもかというくらいに同じ景色を見せ続ける。それはもう、同じ地点をループしているのではないかという不安を抱かせるくらいには。
「はあ、はあ。やっぱり、ないのかな」
一人が諦めともとれる言葉を口にする。いつも元気ハツラツなこいつが言うものだから、これはそろそろマズいなと思った。
俺は多少苛立ったものの、感情が表に出ることはなかった。多分その言葉が、俺を含めたここにいる全員の総意に他ならなかったからだろう。
「日は落ちてない。まだいける。もう少し探そう」
それが強がりだと、バレていただろうか。黙り込んだそいつの隣にいるもう一人が同じように口を開いた。
「帰れなく、ならない?」
「ああ、ならない」
「……そう」
心配性で物静か。そんな特徴が表れているような質問に、俺は脊髄反射で返答をした。実際そのあたりの不安はなかったが、弱みを見せてはいけないという意思が思考の隙を与えてくれなかった。いや、それも嘘だ。そんな余裕がなかっただけだろう。
俺の不安はただひとつ。目的のものにお目にかかれないことだけだった。なぜかこれだけは、どうしてもやらなくちゃいけない使命のように感じていたのだ。
目に入る汗が鬱陶しく、ハンカチを入れたはずのポケットをまさぐった。
ややあって柔らかい布の感覚を見つけるとそれを引き抜き、自信を喪失しているかもしれない目を下から上へ一気に拭きあげる。
「みんな、大丈夫か?」
振り返ると仲間は、地面を見ていた。
今日一日の行動を振り返って、歩くことだけで精一杯の状態であることは容易に察しがついた。
「ここを抜けて見つからなかったら、今日は帰ろうか」
負けた気がした。言わされた気がした。それでもここまで来てくれた仲間に、これ以上酷な要求はしたくなかった。
数十メートルは、悔しさからきた最後の抵抗、無謀な賭けだった。
「僕も、ここで引き返すのは少し悔しいかな」
「わたしも……いく」
俺の意を汲み取ってくれたのか、それともそれぞれが持つ悔しさからだったのか、先ほどまで弱みを見せていた仲間は賛同の言葉を返してくれた。
そのときだった。
一斉に顔をあげた仲間が目を丸くした。
「……どうした?」
俺の後方に目をやった仲間の視線に釣られ、自分も振り返る。目に強い刺激が走った。
驚きのあまり、後ろに倒れこむ。ポケットから何か小さなものが零れ落ちた。
その青く透った輝きを目にしたのは、それが初めてのことだった。